セパゾン(一般名:クロキサゾラム)は、1974年から発売されている抗不安薬です。
抗不安薬とは主に抗不安作用(不安を和らげる作用)を持つお薬の事で、不安を抑えて精神を安定させる事から「安定剤」「精神安定剤」とも呼ばれています。
抗不安薬にもたくさんのお薬がありますが、その中でセパゾンは比較的強い抗不安作用を持ちます。作用が強いため急に中止すると離脱症状が認められたり、長期間漫然と服用を続けてしまうと耐性や依存性が形成されてしまうといったリスクもありますが、全体的に見ればそこまで副作用が多いお薬ではありません。
セパゾンにはどのような副作用があり、また副作用を防ぐためにはどのような工夫ができるのでしょうか。
ここでは、セパゾンで生じうる副作用やその対処法について紹介していきます。
1.セパゾンの副作用の特徴
セパゾンを服用する際には、どのような副作用に気を付けていく必要があるでしょうか。まずはセパゾンの副作用の特徴についてお話します。
セパゾンは抗不安薬の中で見ると副作用が多いお薬ではありません。しかし一定の注意は必要なお薬にはなります。
なぜならばセパゾンは抗不安作用が強いお薬になるためです。これは不安をしっかり抑えてくれるという良い作用でもあるのですが、作用が強いお薬というのは、
- 薬効が切れた時の反動が生じやすい(=離脱症状を起こしやすい)
- お薬の効果を実感しやすいため、つい頼ってしまいやすい(=耐性・依存性が形成されやすい)
という傾向があります。そのためこれらの副作用をなるべく起こさないように気を付けながら服用を続けていく必要があります。
ではセパゾンで注意すべき副作用にはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、一番注意しなくてはいけない副作用は「耐性」「依存性」になります。これはセパゾンに限らずベンゾジアゼピン系全てにおいて注意すべき副作用になります。
セパゾンはベンゾジアゼピン系という種類に属するお薬ですが、ベンゾジアゼピン系はすべて、長期間・大量の服薬を続けていると「耐性」「依存性」が形成されてしまう可能性があるのです。
耐性というのは、服用を続けていると徐々に心身がお薬に慣れてきてしまい、お薬が効きずらくなってきてしまうことです。耐性が形成されると同じ効果を得るためにはより多くの量が必要となるため、服薬量がどんどんと増えていってしまいます。
依存性とは、服用を続ける事でそのお薬に心身が頼り切ってしまうようになる事です。依存性が形成されると、そのお薬を飲まないと落ち着かなくなってしまったり、動悸や発汗などの自律神経症状が生じるようになります。
ちなみに依存性が形成されてから無理に断薬しようとすると生じるこのような症状は「離脱症状」と呼ばれます。
耐性・依存性は服用してすぐに認められる副作用ではありませんが、長期的にみれば一番注意すべき副作用になります。作用の強いセパゾンは特に注意が必要です。
また、それ以外にもセパゾンで気を付けるべき副作用はいくつかあります。
セパゾンをはじめとしたベンゾジアゼピン系のお薬は、
- 抗不安作用(不安を和らげる)
- 催眠作用(眠くする)
- 筋弛緩作用(筋肉の緊張をほぐす)
- 抗けいれん作用(けいれんを抑える)
といった4つの作用を持っています。もちろんセパゾンにもこれらの作用があります。
4つの作用それぞれの強さは各ベンゾジアゼピン系によって異なり、セパゾンはと言うと、
- 抗不安作用はやや強め
- 催眠作用は弱い
- 筋弛緩作用は弱い
- 抗けいれん作用は弱い
となっています。そして、これらの作用に関連した副作用が生じる可能性があります。
具体的には、
- 催眠作用で眠気、集中力低下、物忘れなどが生じる
- 筋弛緩作用で、ふらつき、転倒が起こりやすくなる
などが考えられます。
セパゾンは催眠作用や筋弛緩作用は弱いため、これらの副作用の頻度は多くはありませんが、全く生じないわけでもありません。個人差はありますが人によってはこれらの副作用が出てしまう事もあります。
2.セパゾンの各副作用と対処法
では、セパゾンで生じるそれぞれの副作用とその対処法について、ひとつずつ詳しくみていきましょう。
Ⅰ.耐性・依存性
すべてのベンゾジアゼピン系抗不安薬に言える事ですが、長期的に見れば一番問題となりうる副作用は「耐性」と「依存性」になります。
ベンゾジアゼピン系は、長期間・大量の服用を続けていると耐性・依存性が生じやすくなります。特に主治医が決めた用法・用量を守らずに自己調整してしまう方や、無茶な使い方を続けているような方では高い頻度で耐性・依存性が生じてしまいます。
耐性というのは、心身が徐々にお薬に慣れてきてしまう事です。耐性が生じると、最初は1錠飲めば十分効いていたのに、次第に1錠では全然効かなくなってしまい、2錠、3錠・・・、と服用する量が増えていきます。
そして依存性というのは、お薬に心身が頼り切ってしまい、お薬なしではいられなくなってしまう事です。依存性が生じると、お薬が切れると落ち着かなくなったり、動悸や震え・発汗といった症状が認められるようになります。
耐性も依存性もアルコールを例に考えると理解しやすいと思います。「アルコール依存症」という言葉からも分かるように、アルコールにも耐性と依存性があります。
アルコールを毎日毎日たくさん飲んでいると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなってきます。これは耐性が形成されているという事です。耐性が形成されると、酔える量を求めて飲酒量がどんどん増えていきます。
また過度の飲酒を続けていると、次第にお酒を手放せなくなり、常にアルコールを求めるようになります。これは依存性が形成されているという事です。依存性が形成されるとアルコールがないと落ち着かずにイライラ・ソワソワするようになったり、お酒が飲めない時間が長くなると震えや発汗などの離脱症状が生じるようになります。
これと同じような状態が抗不安薬でも生じうるという事です。
しかし抗不安薬には耐性と依存性がありますが、アルコールと比べて特段強いわけではなく、アルコールと同程度の強さだと考えられています。
アルコールには耐性・依存性がありますが、節度を持った飲酒をしていれば耐性・依存性が形成される事はまずありません。そして実際にほとんどの大人は節度を持った飲酒ができており、そのためアルコールと服用する機会はありながらもアルコール依存にはなっていません。
抗不安薬もこれと同じです。医師の指示通りに、節度のある服用法を守っていれば、問題となるほどの耐性や依存性が形成される事はまずないのです。
そのため、耐性・依存性を形成させないためにまず気を付ける事は「必ず医師の指示通りに服用する」ことです。
主治医は、耐性・依存性がなるべく生じないように考えて、お薬を処方しています。
アルコールも抗不安薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。それなのに主治医が想定している量よりも多い量を自己判断で服用してしまうと、当然耐性・依存性は形成されやすくなります。
またセパゾンをアルコールと併用することもよくありません。
アルコールと抗不安薬を一緒に使うと、お互いの血中濃度を高め合ってしまうようで、耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。
また、「漫然と飲み続けない」ことも大切です。
基本的に抗不安薬というのは「一時的に用いるお薬」になります。ずっと飲み続けるものではなく、不安の原因が解消されるまでの「一時的しのぎのお薬」だという認識を持つようにして下さい。
もし長期的に不安をお薬で抑えたい場合は抗不安薬は不向きで、そのようなケースでは途中で抗不安薬からSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)という抗うつ剤に切り替えていく必要があります。
抗不安薬を服用中は、定期的に「服用量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう必要ない状態なのに漫然と長期間内服を続けてはいけません。
服用期間が長くなればなるほど、耐性・依存性のリスクは高まります。
Ⅱ.眠気、倦怠感、ふらつき
ベンゾジアゼピン系には催眠作用、筋弛緩作用があるため、これが強く出すぎると、眠気やだるさが生じる事があります。またふらつきやそれに伴う転倒などが生じてしまう事もあります。
セパゾンにも筋弛緩作用や催眠作用があります。ただしセパゾンの催眠作用・筋弛緩作用は弱めであるため、これらの副作用は軽度にとどまる事が多いです。
ただしセパゾンの催眠作用・筋弛緩作用の出方は個人差がとても大きい印象があり、一般的には軽めであるものの、人によってはこれが強く出てしまう事もあります。
ではセパゾンを服用していてこれらの症状が生じてしまったら、どのような対処法を取ればよいのでしょうか。
もしセパゾンの服用を始めてまだ間もないのであれば、少し様子をみてみるのも手です。なぜならば、服用を続けていくと次第に身体がお薬に「慣れてくる」ことがあるためです。
もし眠気やだるさが何とか様子を見れる程度であるならば、1~2週間ほど様子をみてみましょう。少しずつ身体が慣れてきて眠気やだるさが軽減していく事があります。
しばらく様子をみても副作用が改善しない場合、次の対処法は「服薬量を減らすこと」になります。
一般的に服用量を減らせば作用も副作用も弱まります。抗不安作用も弱まってしまうというデメリットはありますが、副作用がつらすぎる場合は仕方ありません。
例えば、セパゾンを1日合計6mg内服していて眠気がつらいのであれば、1日量を3mgなどに減量してみましょう。
また「抗不安薬の種類を変えてみる」という方法もあります。筋弛緩作用や催眠作用が少ない他の抗不安薬に変更すると、改善を得られる可能性があります。
ただしどの抗不安薬にも多少なりとも筋弛緩作用や催眠作用があります。余計悪化してしまう可能性もありますので、どの抗不安薬に変更するかは主治医とよく相談して決めていく必要があります。
Ⅲ.物忘れ(健忘)
セパゾンに限らず、ベンゾジアゼピン系のお薬は心身をリラックスさせるはたらきがあるため、頭がボーッとしてしまい物忘れが出現することがあります。
実際、ベンゾジアゼピン系を長く使っている高齢者は認知症を発症しやすくなる、という報告もあります(詳しくは「高齢者にベンゾジアゼピン系を長期投与すると認知症になりやすくなる【研究報告】」をご覧ください)。
適度に心身がリラックスし、緊張がほぐれるのは良いことですが、日常生活に支障が出るほどの物忘れが出現している場合は、お薬を減薬あるいは変薬する必要があるでしょう。
3.副作用を過度に怖がり過ぎず、適正に使用しましょう
ベンゾジアゼピン系には耐性や依存性があり、近年はこれが問題視されてメディアに取り上げられることも増えてきました。
その影響か「ベンゾジアゼピン系のお薬は絶対に飲みたくない!」と過度にお薬を拒否される患者さんもたまに見かけます。
「お薬は飲みたくない」という治療における希望を治療者に伝えることは何も悪いことではないのですが、中には「ベンゾジアゼピン系を一度でも飲んだら必ず依存になる」と、メディアの過度な煽りによって誤解が生じてしまっている方もいらっしゃいます。
ベンゾジアゼピン系は確かに耐性・依存性がある物質ではありますが、正式に医薬品として認められているお薬です。そのため服用するメリットが十分にあると判断されるときは服用を検討して頂いて問題のないものなのです。
例えば、ベンゾジアゼピン系と同じように依存性のある物質にアルコールがあります。世の中の成人のほとんどはアルコールを飲んだ事があると思いますが、その中でアルコール依存になってしまった方というのは極々一部の方だけではないでしょうか。
アルコール依存になってしまうのは、明らかに大量の飲酒を長期間しているような方です。節度を持った飲酒をしているほとんどの成人はアルコールを時々飲んではいても、まず依存になる事などありません。
ベンゾジアゼピン系だってこれと同じです。必要な期間・必要な量のみの服用を、専門家である精神科医の指導下でしているのであれば、依存性は生じない可能性の方が高いのです。
実際、ベンゾジアゼピン系の依存性とアルコールの依存性はほぼ同じくらいの強さだと言われています(報告によってはアルコールの方が若干強いという報告もあります)。
もちろん、ベンゾジアゼピン系を飲まなくても良いような状態なのであれば、無理に服用する必要はありません。しかし専門家である精神科医が「今のあなたはベンゾジアゼピン系を服薬した方がいい状態ですよ」と提案しているのであれば、それは総合的に見てお薬を使うメリットの方が高いからプロである精神科医がそう提案しているのですから、服用を前向きに考えても良いと思います。
あなたにとって害しかない治療法を専門家が勧めるはずがありません。そのため、このような状態で服薬を拒否すれば、確かに依存性が生じるリスクはなくなりますが、別のデメリットが生じる可能性がある事も忘れてはいけません。
例えば、不安がものすごく強い方で、このままベンゾジアゼピン系を服薬しなければ、外出など生活に必要な活動も行えなくなってしまう可能性が高い患者さんがいたとします。
この方に、期間を決めてベンゾジアゼピン系を投与することがあります。もちろん依存性が生じるリスクはゼロではありませんが、ベンゾジアゼピン系でまずは不安を取り、生活に必要な活動が行えるように回復させてからベンゾジアゼピン系を減らす、というのは悪い治療計画ではないでしょう。
この場合、もしベンゾジアゼピン系を拒否すれば、不安がどんどん増悪して仕事に行けなくなってしまったり、必要な外出すらも出来なくなってしまったりという状態になってしまうかもしれません。ベンゾジアゼピン系の服用によって確かに依存が生じるかもしれないというデメリットはありましたが、総合的にはメリットの方が高いと考えることができます。
ベンゾジアゼピン系に依存性があるのは事実であり、依存で苦しい思いをしてしまっている方がいらっしゃるのも事実です。そのため、これらのお薬を安易に使ってはいけないという事は間違いありません。
しかし偏ったイメージでお薬を過剰に怖がるのではなく、お薬のメリットにもしっかりと目を向けて、総合的な判断で服用をするかどうかを考えて頂きたいのです。メリットとデメリットをしっかりと見極めて、必要なのであればその期間はしっかりとお薬を使って病気を治して頂きたいと思っています。