パキシルの特徴と強さ【精神科医監修】

6.妊婦、授乳婦へのパキシル投与は?

パキシルは妊婦さんや授乳中の方に投与する事はできるのでしょうか。

パキシルの妊婦さんへの投与は注意が必要です。

「絶対にダメではないが、できる限りやめておいた方がいい」という位置づけです。SSRIは全て妊婦には慎重投与ですが、その中でもパキシルは一段階、危険度が高くなっています。

パキシルの製造元であるグラクソ・スミスクライン社が発行している添付文書でも

・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ本剤の投与を開始すること。
・本剤投与中に妊娠が判明した場合には、投与継続が治療上妥当と判断される場合以外は、投与を中止するか、代替治療を実施すること

と記載されており、やはり「絶対ダメじゃないけど出来る限り使わないでね」という内容です。

米国FDAが出している薬剤胎児危険度分類基準では、薬の胎児への危険度をA、B、C、D、×の5段階で分類しています(Aが最も安全で×が最も危険)。

パキシル以外のSSRIは「C」ですが、パキシルのみ一段階高い「D」になっています。

C:動物実験で有害作用がみられているが、ヒトでの対象試験が行われていない。あるいはヒトでも動物でも試験が行われていない
D:ヒトの胎児に対する危険性の証拠があるが、他にそれに代わる安全な薬がないか無効の場合に限り使用を承認される。

CもDも安全とは言えないことに代わりはありませんが、SSRIの中でパキシルのみ一段階危険度が高いことを考えると、妊婦の方でどうしてもSSRIが必要な方は別のお薬に変更する方が安全でしょう。

特に注意すべきなのが、胎児の器官が作られる妊娠初期です。

海外の疫学調査において、妊娠第1三半期にパキシルを投与された妊婦が出産した新生児では先天異常、特に心血管系異常(心室又は心房中隔欠損等)のリスクが増加した。このうち1つの調査では、一般集団における新生児の心血管系異常の発生率は約1%であるのに対し、パキシル曝露時の発生率は約2%と報告された。

(パキシルの添付文書より抜粋)

という記載があり、 特に妊娠初期への投与は極力控えるべきでしょう。パキシルと心血管異常の関係については、まだ議論中であり「因果関係はないのではないか」という意見もありますが、完全に否定されてはいません。

パキシルを飲んでいて万が一、奇形児が産まれてしまった時の事を考えると、妊娠中のパキシルの服用はしない方が無難でしょう。仮に奇形がパキシルのせいで生じたわけでなかったとしても、それを完全に否定できる根拠がなかった場合、「私がお薬を飲んだせいだ・・・」と母親が強い自責感にかられてしまう可能性があります。

授乳婦へはパキシルを投与できますが、母乳への移行が確認されています。そのためパキシルを使用する際は母乳栄養は中止し、人工乳に切り替えてください。母乳をあげながらのパキシル内服は推奨されていません。

7.パキシル発売までの抗うつ剤の歴史

パキシルのようなSSRIが発明されるまでは、抗うつ剤は「三環系抗うつ剤」と呼ばれるものが主流でした。

三環系抗うつ剤は1950年頃に開発された最古の抗うつ剤で、非常に強い抗うつ作用がありますが、非常に強い副作用もあるのが特徴です。

昔の薬であり、現在の抗うつ剤よりも作用が「雑」という印象です。体のたくさんの部位に強く作用してしまうため、強く効くものの、抗うつ作用以外の多くの副作用が問題となっていました。

  • 抗コリン作用と呼ばれる口渇、便秘、尿閉
  • α1受容体遮断による過鎮静やふらつき
  • ヒスタミン受容体刺激による体重増加

などがあり、これらの副作用で苦しむ患者さんが大勢いました。またこれらの副作用のために「落ち込みは取れたけど、副作用で何もできなくなってしまう」という事もありました。。

中でも一番の問題は心臓への副作用です。

過量服薬すると、心臓へ影響し命に関わるような不整脈が出てしまう事があります。

このような問題から、「もう少し安全な抗うつ剤ができないか」という目的で開発されたのがSSRIです。

SSRIの抗うつ効果は、三環系と比べると同等かやや劣るという印象です。しかし安全性は三環系と比べ物にならないほど高く、命に関わるほどの副作用はほとんど生じません。

抗コリン作用や眠気、ふらつき、体重増加なども三環系と比べると大分少なくなっています。

SSRIの中でも最初の方に発明されたのがパキシルです。SSRIの中ではやや荒削りで、副作用も多めですが、その作用の強さから、現在でも根強い人気があります。

8.パキシル導入例

実際にパキシルを使用する際、どのように使っていくのでしょうか。その使用方法は個人差がありますが、ここでは代表的な使い方を紹介します。

パキシルは、少しずつ増やしていくお薬です。

10mgから始め、一週間以上の間隔をあけて10mgずつ増やしていきます。効果を見ながら、20mgから40mgで維持します。ただしパニック障害は最大量30mgまでで、強迫性障害には最大量50mgまで使うこともあります。

効果を感じるのには、早くても2週間はかかるでしょう。遅い方だと1ヶ月以上かかることもあります。効果はすぐには出ないのですが、困ったことに副作用は飲んでからすぐに出現します。

最初は、吐き気・胃部不快感といった消化器症状がよく出現します。これはパキシルが腸管のセロトニン受容体を刺激してしまうためです。そのため、あらかじめ胃薬を併用しておくこともあります。胃腸症状は初期のみ生じることが多く、数週間我慢すれば改善する事がほとんどです。

また、まれに賦活症候群といって、内服初期に変に気分が持ち上がってしまうことがあります。気分に影響する物質が急に体内で増えたことで一過性に気分のバランスが不安定になるために生じると考えられています。

イライラしたり攻撃性が高くなったり、ソワソワと落ち着かなくなったりします。これも一時的なことがほとんどのため、抗不安薬などを併用して様子を見ることもありますが、自傷行為をしたり他人を攻撃したりと、危険な場合はパキシルを中断します。

その後は、

・便秘や口渇、尿閉などの抗コリン作用
・ふらつきめまいなどのα1受容体遮断作用、
・体重増加などの5HT3刺激作用、抗ヒスタミン作用
・性機能障害などの5HT2刺激作用

などが出現することがあります。

これらの副作用は個人差も大きく、全く困らない人もいればとても苦しむ人もいます。

副作用が軽ければ様子を見ますが、ひどい場合は副作用止めとして下剤や昇圧剤などを使って対応することもあります。あまりに副作用が強すぎる場合は、パキシルを中止したり別の抗うつ剤に切り替えることもあります。

パキシルが効いてくると、まずはイライラや不安感といった「落ち着かない感じ」が改善します。その後に抑うつ気分が改善し、意欲ややる気などは最後に改善すると言うのが典型的な経過です(個人差があります)。

効果を十分感じれば、その量のお薬を維持しますし、効果は感じるけど不十分である場合は、増量あるいは他のお薬を併用します。1~2ヶ月みても効果がまったく得られない場合は、別の抗うつ剤に切り替えるべきです。

気分が安定しても、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けることが推奨されています。この時期が一番再発しやすい時期だからです。

6~12ヶ月間服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、その後2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していき、治療終了となります。

以上がパキシルのおおまかな使用の流れになります。

実際の使い方は個人差も大きいため、主治医の指示に従うようにしてください。