パニック障害の方との接し方で気を付けるべきこと

最近は、精神疾患に対する理解も広がってきたため、付き添いのご家族が一緒に診察に来て下さることも増えてきました。

奥様や夫様、親御様が病院まで付き添ってくれたり、、診察にも同席してくれたりして、家庭での様子を教えてくれます。また、仕事が原因で精神疾患を発症してしまったケースでは、職場の上司やメンタルヘルス担当者が同席してくれることもあります。

患者さん本人だけでなく周囲の方々からも情報を頂けると、診察の精度が上がります。そのため親しい方が診察に同席してくれることは、私たちとしても非常に助かっています。

ところで、このように患者さんに同席される方から、必ず聞かれる質問があります。

それは「私たちはどのように接していけばいいでしょうか」「良い接し方と悪い接し方を教えてください」などというものです。

精神疾患に対する理解は広まったとはいえ、まだまだ精神科の病気って一般の方にとっては「よく分からないもの」のようです。こころの病気だから、自分の不用意な一言で病気を悪化させてしまうのではないかという心配から、恐る恐る接している方は少なくないでしょう。

しかし、実は精神疾患の患者さんだからといって、接し方で特別気を付けることは多くはありません。基本的には普通に接していただいて問題ないのです。

今日は、パニック障害の患者さんに対して、周囲の人はどのように接すればいいのかをお話させていただきます。

1.基本的には普通に接するべき

パニック障害の患者さんと接する時、特に注意すべきことはありません。

基本的には、いつも通りの接し方で問題ありません。「問題ない」というよりも、いつも通り自然に接して頂くことが望ましいです。

精神疾患にかかってしまった患者さんと接する時、みなさんがよくしてしまう間違いが「患者さんに気を遣いすぎる」ことです。

何がきっかけで気持ちを傷つけてしまうか分からないからと、まるで腫れものに触るかのように恐る恐る接してしまう方は少なくありません。

しかし、こういった接し方は絶対にしてはいけません。その接し方の不自然さは、必ず患者さんに伝わってしまうからです。

パニック障害は、不安障害(不安症)に属する疾患で、「不安」が原因にあります。そのため、パニック障害の患者さんは不安を感じれば悪化しますし、反対に安心を感じることが出来れば改善していきます

この事を理解していると、患者さんに対してどのように接すればいいかが見えてきます。

患者さんに対して、必要以上に気遣ったり、腫れものに触るように恐る恐る接することで、患者さんはどのように感じるでしょうか。

「こんなにみなさんに迷惑をかけてしまって申し訳ない」「自分の病気のせいでみんなにこんなに迷惑をかけてしまっている」と感じるのではないでしょうか。

これは安心を生み出しません。むしろ不安を生み出してしまいます。

このような接し方をするのではなく、いつも通りに接してあげた方が安心できるはずです。私たちは一番安心できるのは「いつも通りの家族」「いつも通りの友人」と接している時で、「ビクビクした家族」「恐る恐る話しかけてくる友人」ではありません。

家族であれば、いつもと同じ、家庭の雰囲気を作ってあげてください。友人であれば、いつもと同じように接してあげてください。それが患者さんが一番安心できる環境のはずです。

2.本人の苦しみを分かろうとしよう

パニック障害では普通の人が恐怖を感じないような場所、状況で恐怖を感じてしまいます。

これは「普通」ではありません。

だからこそ「普通の人」にはこの恐怖の気持ちが分からないものです。

「なんで電車の中が怖いのか理解できない」
「なんでエレベーターに乗れないのか全く分からない」

このように感じられるかもしれません。

実際にパニック障害になってみないと、患者さんの気持ちというのは100%は分からないでしょう。

しかしだからといって、「私にはあなたの気持ちは全く分からないよ」といった態度はとらないでください。

あなたにもきっとすごく怖いと感じるものがあると思います。パニック障害の場合、それが電車やエレベーターの中になってしまうのです。

パニック発作を起こすとうまく息が吸えないような感覚に陥り、このまま死んでしまうのではないかと思う事があります。

実際に経験してみないとこのつらさは分からないかもしれませんが、「街中で突然酸素がなくなって呼吸できなくなってしまう」という状況を想像してみてください。ものすごい恐怖である事が想像できませんか。

これと同じような事が突然起こるとしたら、それは毎日毎日が不安で仕方ないのも理解できませんか。

パニック障害の方の気持ちを100%理解する事は難しいでしょう。しかしこのように自分なりにで構いませんので、患者さんの「つらい」「苦しい」という気持ちを理解しようという姿勢を持ってあげて下さい。

自分のつらい気持ちを分かってもらえるという事は、患者さんにとって安心となり心強さとなります。

3.パニック発作を起こした時の接し方

患者さんとの接し方で、もう一つ注意しなくてはいけないのが、パニック発作を起こした時の接し方です。

パニック発作は、不安が高まると突然生じます。

・電車内、バス、飛行機
・歯医者、美容室
・映画館
・レストラン
・その他、狭くて暗い場所

など「閉じ込められたと感じるような場所」で起こりやすいと言われていますが、それ以外の場所でも生じることはあります。

パニック発作は、患者さんが突然に息苦しさや動悸、気が遠くなりそうな感じを訴えて、見ているととても苦しそうであるため、周囲の人も慌ててしまいます。

しかし、患者さんがパニック発作を起こした時、周囲の人は絶対に慌ててはいけません。周囲の方がとるべき態度は「冷静におちついて対応すること」です。

パニック発作は、不安が高まった時に生じやすいとお話しましたが、不安が高いままであれば発作はなかなか落ち着きません。しかし安心を感じることができれば徐々に落ち着いていきます。

本人は、パニック発作が起きて不安で頭がいっぱいになっています。その中で周囲も慌てふためいてしまえば、患者さん本人の不安はどんどん高まってしまいます。

反対に、周囲が冷静に落ち着いていれば、患者さんも「この人がそばにいれば大丈夫だ」と感じられるため、安心しやすくなります。

そのため、患者さんがパニック発作を起こしたら、慌てずに冷静に対応しましょう。

ゆっくりと落ち着いた声で「大丈夫だからね」「私がそばにいるから安心して」と声をかけてあげてください。「大丈夫だよ、すぐに落ち着くからゆっくり呼吸して」と冷静にアドバイスしてあげましょう。

人ゴミなどでパニック発作が起こってしまった場合は、可能であれば、人の少ない場所に運んであげてください。もし横になれる場所があれば、横にしてあげるのもいいでしょう。

本人が発作が起きた時に飲める頓用のお薬を持っているかもしれませんので、確認してあげてください。「お薬持ってる?どこにあるの?飲ませてあげるね」と。

パニック発作は必ず落ち着きます。パニック発作で死んでしまったり、重篤な後遺症が残ることは絶対にありません。

本人と一緒に慌ててしまってはいけません。本人がいくら慌てていても落ち着いて冷静に対処して下さい。