パキシルで性欲低下が生じる原因と3つの対処法

パキシル(一般名:パロキセチン塩酸塩)は抗うつ剤の一種で、抗うつ剤の中でもSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)に属するお薬です。

パキシルはうつや不安を改善させるのに役立つお薬ですが、生じうる副作用の1つに性機能障害があります。

これはパキシルをはじめとした抗うつ剤でしばしば認められる副作用の1つで、性欲が低下したり、勃起障害・射精障害などといった症状が認められます。

命に関わるような副作用ではないものの、人間が本来持っている生理的な欲をお薬の作用によって消してしまうわけですから、あまり良いものとは言えません。

またこれらの副作用は、診察でも話題に挙げずらいものであるため、患者さんは困っていてもなかなか主治医に相談できず、見逃されがちだと言う問題もあります。

ここではパキシルで性機能障害・性欲低下が生じる機序と、その対策・解決法などを紹介していきます。

1.パキシルで性欲低下が生じる機序

抗うつ剤を服用すると、しばしば性機能障害が生じる事があります。

性機能障害は性欲低下の他、男性であれば勃起障害・射精障害、女性であれば月経(生理)の異常や不順などが認められます。

性欲低下は抗うつ剤の中でも特に「セロトニンを集中的に増やす作用を持つもの」に生じやすく、特に

  • SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)

で生じやすい副作用になります。

また

  • SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込み阻害薬)

でも生じる事があります。

パキシルはSSRIに属する抗うつ剤であるため、性欲低下の副作用は比較的多めになります。

ではこれらの抗うつ剤ではなぜ、性欲低下の副作用が生じるのでしょうか。

抗うつ剤で性欲低下・性機能障害が生じる一番の原因は、抗うつ剤がセロトニン2受容体を刺激してしまうためだと考えられています。

このセロトニン2受容体刺激作用は、性欲低下、性機能障害の他、不眠の原因となる事もあります。

反対にセロトニン2受容体を遮断(ブロック)する抗うつ剤に、

  • デジレル・レスリン(一般名:トラゾドン)

がありますが、トラゾドンは昔、勃起障害(ED)の治療薬として用いられていたことがありました。これはセロトニン2受容体をブロックすると性欲が改善するということであり、セロトニン2受容体の刺激が性欲を低下させる事がここからも分かります。

抗うつ剤は基本的にセロトニンを増やすはたらきを持ち、セロトニン2受容体を刺激する方向へはたらきます。そのため、多くの抗うつ剤で性欲低下・性機能障害が生じてしまう可能性があるのです。

中でもセロトニンへの作用が強い抗うつ剤ほど、性欲低下の副作用も生じやすくなります。

このように基本的には性欲低下はセロトニン2受容体の刺激が原因で生じるのですが、他にも、

  • アドレナリン1受容体の遮断作用

もパキシルの性欲低下の一因になっていると考えられています。

抗うつ剤にはアドレナリン受容体遮断作用を持つものが多く、これも性機能障害に多少関係します。

アドレナリンは血管を収縮させ、血圧を上げるはたらきがあります。抗うつ剤でアドレナリン1受容体が遮断されると、アドレナリンがはたらけなくなるため、血圧が下がります。陰部のアドレナリン受容体が遮断されると、陰部の血圧が下がり、血流が減ります。すると、陰部の勃起が生じにくくなってしまうのです。

パキシルにもアドレナリン1受容体の遮断作用があるため、性欲低下の一因となっています。

このような原因によってパキシルでは性欲低下が生じるのです。

2.他の抗うつ剤との性欲低下の頻度の比較

SSRIやSNRIといったセロトニンに集中的に作用する抗うつ剤の多くは、性欲低下を引き起こす可能性があります。しかしその頻度は抗うつ剤によって違いがあります。

主な抗うつ剤と性欲低下の頻度・程度は下表のようになります。

抗うつ剤性機能障害
トリプタノール+
トフラニール+
アナフラニール++
テトラミド-
デジレル/レスリン++
リフレックス-
ルボックス/デプロメール+
パキシル++
ジェイゾロフト++
レクサプロ++
サインバルタ++
トレドミン++
ドグマチール+

抗うつ剤の中で性欲低下・性機能障害を起こしやすいのは、特にSSRIです。この副作用の一番の原因はセロトニンですので、セロトニンに集中的に作用するSSRIが一番起こりやすいのです。

SSRIの中では特に

  • パキシル(一般名:パロキセチン)
  • ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)

で多く、反対にルボックス・デプロメール(一般名:フルボキサミン)では少なめになっています。

また性欲低下がもっとも少ないのは、NaSSAという種類の抗うつ剤です。

具体的には、

  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)

になります。これはNaSSAにセロトニン2受容体をブロックする作用があるためです。

同じくデジレル・レスリン(一般名:トラゾドン)にもセロトニン2受容体をブロックする作用があるため、性欲低下はほとんど生じません。ただしデジレル・レスリンはセロトニン2受容体をブロックしすぎて「持続勃起症」という副作用が生じてしまうことが稀にあります。

これも広く言えば性機能障害に当たり、また生じた場合は重篤になる事もあるため上記の表では(++)になっています。

また、

  • アモキサン(一般名:アモキサピン)
  • ドグマチール(一般名:スルピリド)

は、セロトニンへの作用はそこまで強くはない抗うつ剤なのですが、ドーパミンをブロックする作用を持ち、これが性機能障害を引き起こす事があります。

脳の漏斗-下垂体部のドーパミン受容体がブロックされると遮断されると、プロラクチンというホルモンが増加してしまいます。

プロラクチンは本来であれば、授乳中の女性で増加しているホルモンです。プロラクチンが増えると生理が止まり、乳汁が出るようになります。これが授乳中でない方で起こってしまうと、月経不順や勃起障害、乳汁分泌の原因となります。

これによって性機能障害・性欲低下が生じるため、パキシルによる性欲低下とは機序が異なります。

3.パキシルで性欲低下が生じた際の対処法

パキシルの服用をはじめてから性欲低下が生じた場合、どのように対処すればいいのでしょうか。ここでは臨床でよく取られる方法を紹介します。

なおここで紹介する対処法は、必ず主治医と相談の上で行ってください。独断で行うことは大変に危険です。

Ⅰ.主治医に報告する

まず性機能障害・性欲低下の副作用が生じている事を主治医に相談してください。

診察時に患者さんがこれらの副作用の事を医師に伝える確率は非常に少ないという事が調査からは示されています。

しかし、性機能障害が生じているかどうかというのは、私たちも知りたいところですし、それは治療方法を決定するためのひとつの重要な情報になります。

話ずらい内容かもしれませんが、私たち医師は診察で得た情報を絶対に第三者では口外することはありません。また、当然ですが私たち医師はこのような話題に対して真剣に対応させて頂いておりますので、安心してご相談下さい。

話して頂けず、自分の判断でお薬を辞めてしまったり、一人で悩まれて、それで精神状態が悪化してしまう方が困るのです。副作用で困っている事を主治医にしっかりとお話しするという事は、治療経過にも影響を与える大切な事なのです。

Ⅱ.そのまま経過をみる事も

もちろん患者さんと相談の上で、ではありますが、性欲低下が生じていてもそのまま様子を見る事もあります。

性機能障害の副作用はあくまでもパキシルの作用として生じているだけですので、パキシルが中止となれば必ず改善します。そのため、ある程度病気の治療が落ち着くまでは申し訳ないけど、そのまま様子をみてもらい、調子が改善してきたら減薬に入るという事もあります。

性欲低下に対する困り具合は、個々人によって大きく異なります。性欲低下が生じているけど大して困っていないよという方もいれば、これが原因で夫婦仲に大きな問題が生じていて深刻な状態だという場合もあります。そのため、その対処法は均一化できるものではなく、個々人の状況によって変えていくべきものです。

パキシルが疾患の治療にとても効果を発揮していて、今すぐに減薬するのは不安も大きく、かえってデメリットの方が高い、という場合は患者さんと相談して同意を頂いた上でそのまま様子を見ることもあります。

また、様子観察を続けることで身体が抗うつ剤に慣れてきて、性機能障害が自然と改善してくる例も少なからずあります。

Ⅲ.減薬できるのであれば減薬する

性欲低下、性機能障害の副作用は、セロトニンに対する影響が小さくなればなるほど軽減します。

そのため、もしもパキシルの量を減らせるのであれば、減らした分だけ性欲低下の副作用も軽減していく可能性があります。

独断で勝手に減らしたり止めたりすることは良くありませんが、主治医と現状について相談の上、原因となっているお薬が減らせそうなのであれば減薬を行う事もあります。

Ⅳ.性欲低下の少ないお薬に変更してみる

性欲低下や性機能障害が比較的少ないと言われている抗うつ剤に変更するという方法もあります。

上にも書いた通り、パキシルはこれらの副作用が特に多めの抗うつ剤になります。同じSSRIの中でも、

  • ルボックス・デプロメール(一般名:フルボキサミン)
  • レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

はまだ性欲低下の副作用がパキシルよりは頻度が低いため、これらに変更する事で副作用が軽減する可能性もあります。

また他の種類の抗うつ剤という事であれば、

  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)

は性機能障害が少なめになります。

ただしこれらのお薬に変更すれば、確かに性欲低下は改善するかもしれませんが、どの抗うつ剤にも一長一短あるという事は理解しておく必要があります。

例えばリフレックス・レメロンは性欲低下は起こしにくいのですが、眠気や体重増加の頻度は多い抗うつ剤である事が知られています。

そのため性欲低下の副作用だけで服用するお薬を決めるのではなく、変薬は主治医としっかり相談し、その総合的なメリット・デメリットを理解した上で行うようにしましょう。

Ⅴ.服薬時間を変えてみる

パキシルの血中濃度は、薬理学的には服用後数時間でピークに達して、そこから徐々に低下していきます。そして血中濃度の高い時の方が副作用も強く出やすいと考える事が出来ます。

パキシルは1日1回服用するお薬ですが、ここから考えると朝に服薬すれば、夜には性欲低下は若干改善している可能性があります。劇的な改善が得られるという方法ではありませんが、服用時間を出来る範囲で調整してみることも有効な方法です。

ただし服用時間を日によって変えるのは、良くありません。お薬の血中濃度が不安定になってしまいます。服用時間を決めたら、その日以降は原則その時間に服用するようにしましょう。

Ⅵ.薬剤を追加する

パキシルで性欲低下の副作用が生じていたとしても、パキシルを減らしたりやめたりしたくないという場合は、性欲低下を改善させる可能性のあるお薬を併用するという方法もあります。

お薬の副作用を別のお薬で対処するという方法になるため、あまり推奨される方法ではありませんが場合によってはこの方法が用いられる事もあります。

パキシルの性欲低下は、セロトニン2受容体の刺激が主な原因であるわけですから、セロトニン2受容体をブロックする作用を持つ、

  • リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)
  • デジレル・レスリン(一般名:トラゾドン)

を併用する事で、パキシルのセロトニン2受容体の刺激が打ち消され、性欲低下の改善が得られる事があります。

また、

  • バイアグラ(一般名:シルデナフィル)
  • シアリス(一般名:タダラフィル)

などを投与すると改善が得られるという報告もあります。

実際の臨床ではここまで行うことはほとんどありません。抗うつ剤をどうしても減らせないが、性欲低下による重篤な問題が生じている場合は、患者さんと主治医がよく相談した上でこの方法を取ることもあります。

4.お薬の副作用ではなく、病気の症状の事も

うつ病にかかって抗うつ剤を服用したら性欲低下が認められた。

このような経過だと、性欲低下がお薬の副作用で生じたと考えてしまいがちですが、実はうつ病という病気の症状としても性欲低下が生じます。

そのため抗うつ剤服用中の性欲低下は、「うつ病の症状なのか」「抗うつ剤の副作用なのか」としっかりと見極める事が重要になってきます。

見分けるポイントとしては、お薬の開始時期と性欲低下の出現時期との関係になります。うつ病の症状としての性欲低下であれば抗うつ剤投与前から認められることが多く、反対に抗うつ剤による性欲低下であれば服薬開始後に認められます。

また、アルコールなどの物質が性機能障害を起こしている可能性もあります。高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病によって陰部の血流障害が生じており、それで勃起障害が生じている事もあります。

安易にお薬のせいと判断せず、他に原因がないかを疑ってみる事も大切です。