ノリトレン錠(ノルトリプチリン)の効果【医師が教える抗うつ剤の全て】

ノリトレン(一般名:ノルトリプチリン)は1971年に発売された抗うつ剤で、三環系という古いタイプの抗うつ剤に属します。

現在では、SSRI・SNRIやNassaなどといった新しい抗うつ剤が主に使われるため、ノリトレンなどの三環系抗うつ剤の出番は少なくなっています。

しかし三環系は、他の抗うつ剤には無い強力な抗うつ効果を持っており、難治性の方などに対して今でも処方される事があります。副作用が多いため注意は必要ですが、必要な時にのみ正しく使えば、大きな効果が期待できるお薬です。

今日は三環系抗うつ剤であるノリトレンの効果や特徴について詳しくみてみましょう。

1.ノリトレンの特徴

まずは、ノリトレンの特徴をざっくりとですが紹介します。

【良い特徴】

  • 強力な抗うつ効果
  • 三環系の中ではノルアドレナリンを増やす作用に優れる
  • 三環系の中では副作用は少なめ
  • 薬価が安い

【悪い特徴】

  • 副作用が多い

「効果も強いけど副作用も強い」のが三環系抗うつ剤に共通する特徴です。ノリトレンも三環系ですのでその傾向があり、強力な抗うつ効果が期待できる一方で副作用も多めの傾向があります。

「ハイリスク・ハイリターン」

これが三環系に共通するイメージです。

三環系抗うつ剤もいくつか種類がありますが、その中でノリトレンの位置づけは、「ノルアドレナリンを増やす効果に優れる抗うつ剤」だと言えます。

基本的に三環系はノルアドレナリンを優位に増やすものが多く、ノリトレン以外にもアモキサン(一般名:アモキサピン)、トフラニール(一般名:イミプラミン)などはノルアドレナリン優位型の抗うつ剤です。

反対にアナフラニール(一般名:クロミプラミン)はセロトニンを優位に増やす作用を持ち、トリプタノール(一般名:アミトリプチン)はセロトニンとノルアドレナリンをバランス良く増やします。

そのため、ノリトレンは特にノルアドレナリンが足りていないと予測される病態でより大きな効果が見込めます。詳しくは後述しますが、ノルアドレナリンは意欲・気力などに関係していると考えられているため、意欲低下・無気力などが主体のうつ病の方には向いているお薬となります。実際、ノリトレンを「アッパー系(テンションが上がる方向に作用する)の抗うつ剤」だと評価する患者さんは多いように感じます。

ノリトレンのデメリットは、副作用が多いことです。これはノリトレンに限らず三環系全般に言えることですが副作用が多く、時に重篤な副作用も起こり得るのは三環系の大きなデメリットです。

現在、三環系抗うつ剤がほとんど用いられず、SSRI、SNRI、NaSSAといった新しい抗うつ剤が用いられることが多いのは、三環系のこの副作用の多さが一番の理由です。新しい抗うつ剤は効果の強さは三環系と同等かやや劣る程度と言われていますが、副作用は三環系と比べて圧倒的に少ないのです。

しかしノリトレンは副作用は多いものの、同種の三環系抗うつ剤の中ではまだ副作用は少なめであり、三環系の中では安全性は比較的高いと考えられます。

2.ノリトレンの作用機序

ノリトレンは「三環系抗うつ剤」と呼ばれるタイプの抗うつ剤です。

三環系抗うつ剤は、脳のモノアミンを増やすことで抗うつ効果を発揮します。具体的に言うと、モノアミンの再取り込み(吸収)を抑える事で濃度を上げます。三環系抗うつ剤が、モノアミンが吸収・分解させないようにはたらくため、脳内のモノアミン濃度が上昇し、気分の改善が得られるのです。

ちなみにモノアミンとは、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの気分に関係する物質の総称のことで、

  • セロトニンは落ち込みや不安を改善させ、
  • ノルアドレナリンは意欲や気力を改善させ、
  • ドーパミンは楽しみや快楽を改善させる

と考えられています。

ノリトレンは、セロトニンとノルアドレナリン(と少量のドーパミン)を増やしてくれますが、中でもノルアドレナリンを優位に増やすという特徴があります。つまりノルアドレナリンを多く増やしたいような状態、例えば意欲低下・無気力が前景に立つうつ病などではノリトレンを使うことで、より改善が期待できるということです。

具体的にセロトニンとノルアドレナリンのラット脳における再取り込み阻害の比率を示します。

三環系再取込比
                       (参考文献:トフラニール添付文書)

表をみると、ノリトレンはセロトニンに比べてノルアドレナリンを優位に増やすことが分かります。反対にアナフラニールは、ノルアドレナリンよりもセロトニンを優位に増やすことが分かります。このように同じ三環系でも、増やす物質の比率が異なるのです。

ちなみに豆知識ですがノリトレンは同種の抗うつ剤である「トリプタノール(一般名:アミトリプチリン)」の活性代謝物になります。アミトリプチリンが代謝されてできるのがノルトリプチリンであり、このノルトリプチリンに即効性で強い抗うつ作用が見出されたことから、ノリトレンは開発されたのです。

しかしトリプタノールが代謝されて生じるノリトレンですが、面白いことにトリプタノールとノリトレンは作用の仕方が大きく異なります。

トリプタノールとノリトレンのヒトモノアミントランスポーター発現細胞におけるモノアミンの取り込み阻害作用を比較した表を紹介します(ノリトレンのインタビューフォームより)。

 ノリトレン(Ki値;nM)トリプタノール(Ki値;nM)
セロトニン再取込阻害317±3567±19
ノルアドレナリン再取込阻害8.3±0.763±10
ドーパミン再取込阻害5000±3267500±1330

Ki値というのは非常に簡単に言うと「数値が小さいほど作用が強い」と考えてください。トリプタノールはセロトニンとノルアドレナリンを同じ程度再取り込み阻害するのに対し、ノリトレンはノルアドレナリン優位に再取り込み阻害するのが分かります。

3.ノリトレンの適応疾患

ノリトレンはどのような疾患に用いられるのでしょうか。

ノリトレンの添付文書を読むと、

精神科領域におけるうつ病およびうつ状態(内因性うつ病、反応性うつ病、退行期うつ病、神経症性うつ状態、脳器質性精神障害のうつ状態)

に適応があると記載があります。

添付文書だと難しい言葉が並んでいますが、これは要するに「うつ病・うつ状態」に適応があるという認識で問題ありません。

実際の臨床でも、うつ病やうつ状態の患者さんへ処方することがほとんどです。ノリトレンは、特にノルアドレナリンを増やす作用に優れるため、意欲や活気が低下している方が良い適応となるでしょう。

しかし現在では、最初からノリトレンを使うことはほとんどありません。SSRIやSNRIなどの新規抗うつ剤を試してみても効果が不十分な難治例に限り、「切り札」として三環系は使用が初めて検討されるべきお薬です。

副作用の多い三環系は、新規抗うつ剤と比べると安全性で劣るため、最初から使うべきお薬ではないのです。

また、適応外の使用ではありますが、ノルアドレナリンは「痛みの制御」にも関わっているため、鎮痛剤で効果不十分な痛みにも使われることがあります。ノリトレン以外にもSNRI(サインバルタ)やトフラニール、トリプタノールなどもノルアドレナリンを増やす作用に優れているため、痛みを抑えるために使われる抗うつ剤です。

パニック障害や社交不安障害などの不安障害圏の疾患や強迫性障害などにもノリトレンを使うことはありますが、これらの疾患はノルアドレナリンよりもセロトニンの関与が大きいと考えられているため、三環系を使うのであればアナフラニールなどから使われることが多いようです。

4.ノリトレンの強さ

ノリトレンは、三環系抗うつ剤に属します。

三環系は副作用も大きいお薬ですが、その強力な効果には定評があり、これが未だ三環系が使用され続けている大きな理由です。

安全に治すのが理想ではありますが、現実的にはSSRIやSNRIといった安全性の高いお薬だけではどうしても治らない患者さんもいらっしゃいます。そういう方にとって、三環系抗うつ剤は大きな武器となります。

実際、SSRI・SNRIが全然効かなかったけど、三環系に変えたらやっと改善してきた、というケースはしばしば経験します。ノリトレンの効果はSSRI、SNRI、Nassaといった新規抗うつ剤よりは強め、と考えて良いでしょう。

三環系間での強さの比較ですが、これは評価が難しいところです。総合的に見ると、トリプタノールが最も強いという意見が多いようです。個人差はあるものの、一般的には効果も副作用も一番強いのがトリプタノールです。

その他の三環系であるノリトレン、トフラニール、アナフラニール、アモキサンはだいたい同じくらいの効果です。しかし前述したようにセロトニンとノルアドレナリンを増やす比率が異なるため、それぞれの患者さんの状態に応じて使い分けます。

ものすごくかんたんに言ってしまえば、セロトニンを増やしたいならアナフラニール、ノルアドレナリンを増やしたいならトフラニールやノリトレンといったところでしょうか。

5.ノリトレンが向いている人は?

ノリトレンは現在の精神科治療においては、最初から使うべきお薬ではありません。新しい抗うつ剤と比べて副作用が多く、また重篤なものも認められることがあるからです。

そのため、まずはSSRI、SNRIやNassaといった新規抗うつ剤が用いられます。

新規抗うつ剤で治療をしたけれど、どうしても十分な効果を得られない場合に限り、新規抗うつ剤よりも抗うつ効果が強い可能性がある三環系が次の選択肢になります。最初からノリトレンを使うケースは現代においては少なく、第一選択で効果が得られなかった時の第二選択で使われるお薬になります。

時々、年配の先生が「昔から使い慣れている薬だから」という理由で、三環系を最初から出すこともあるようですが、「使い慣れている」という理由だけで患者さんを危険に晒すことはあまり推奨できることではありません。このようなケースは今後は少なくなっていくでしょう。

三環系の中でも、ノルアドレナリンを増やす作用に優れるノリトレンは意欲や活気を改善させたい場合に向いていると考えられます。

落ち込みや不安感などはだいぶ良くなってきたんだけど、意欲がなかなか戻らない。そのため、終日寝て過ごしている。

こんな場合などは良い適応になるのではないでしょうか。

6.ノリトレンの導入例

ノリトレンの使い方としては添付文書に、

初め1回量として10mg~25mg相当量を1日3回経口投与するか、またはその1日量を2回に分けて経口投与する。その後、症状および副作用を観察しつつ、必要ある場合は漸次増量する。通常、最大量は1日量として150mg相当量以内であり、これを2~3回に分けて経口投与する。

と記載されています。

10~25mgで開始しますが、副作用が心配な方はより少量から開始しても構いません。少なく始めれば効果が出るのも遅くなってしまいますが副作用が出にくくなるというメリットがあります。

1~2週間程度の間隔をあげて必要に応じて少量ずつ(10~25mg程度)増やしていきます。効果を感じればその量で維持しますが、効果不十分であれば少しずつ増やしていきます。

最大量は150mgですが、必ず150mgまで増やさなければいけない、というわけではありません。少なくても十分な効果が得られているのではあればそれに越したことはありません。特に三環系は可能な限り少ない量での使用にとどめるべきです。

三環系は副作用が多く、高用量になればなるほど危険な副作用の可能性も多くなってきます。もちろん150mgまで使う事は認められてはいますが、三環系は過量服薬してしまうと致命的になりますので、高用量の使用は本当にやむを得ない場合に限るべきです。例えば、1日150mgを28日分処方していたとして、それを患者さんが誤って一気に飲んでしまったら命に関わる大問題となってしまいます。

効果を感じるのに個人差はありますが、早くても1~2週間、遅い場合は1か月ほどかかることもあります。ノリトレンは三環系抗うつ剤の中では効果発現が若干早い印象があり、中には1週間程度で効果が出てくる方もいらっしゃいます。

副作用として多いものは、抗コリン作用です。これは口渇、便秘や尿閉などの症状として現れます。便秘はひどければ下剤を使って対応します。口渇は漢方薬などで改善が得られることもありますが、基本的には付き合っていかないといけません。

ある程度の量を投与して1~2か月経過をみても改善が全く得られない場合は、ノリトレンが効いていないと判断されますので、別の抗うつ剤に切り替えます。

ノリトレンの効果が十分に出て、気分が十分に安定したと感じられたら(=寛解(remission))、そこから6~12ヶ月はお薬を飲み続けましょう。良くなったからと言ってすぐに内服をやめてはいけません。この時期は症状が再燃しやすい時期ですので、しっかりと服薬を続けましょう。

6~12ヶ月程度服薬を続けて、再発徴候がなく気分も安定していることが確認できれば、「回復(Recovery)」したと考えます。

治療終了に向けて、2~3ヶ月かけてゆっくりとお薬を減薬していきましょう。問題なくお薬をやめることができたら、治療終了となります。