5.なぜメジャートランキライザーという呼び名が使われなくなったのか
メジャートランキライザーという名称は昔に使われていた呼び名であり、現在ではほとんど用いられていません。
年配の先生は今でも使う事がありますが、基本的には「メジャートランキライザー」⇒「抗精神病薬」と呼び名は変わっています。
「メジャートランキライザー」「マイナートランキライザー」という用語が使われなくなってしまったのは何故でしょうか。
それはこのような分け方に医学的な妥当性が乏しいためです。
抗精神病薬も抗不安薬も確かに両方とも神経を鎮め、精神を安定させる作用はあります。また抗精神病薬の方が鎮静力は強く、また抗不安薬の方が弱いため、鎮静力の強弱で分ければ確かに抗精神病薬が「メジャー(強い)」であり、抗不安薬は「マイナー(弱い)」と言えるかもしれません。
しかし抗精神病薬と抗不安薬は、そもそも全く作用機序が異なるお薬ですし、適応となる状態も異なるお薬です。
抗精神病薬は脳のドーパミンのはたらきを抑える事で、幻覚・妄想やそれに伴って生じている興奮・易怒性などを抑え、精神を安定させます。基本的には統合失調症や双極性障害などに用いられます。
一方で抗不安薬は、抑制性の神経を活性化させる事で心身をリラックスさせ、不安を抑えて精神を安定させます。基本的には不安障害(不安神経症)やうつ病、心身症などに用いられます。
このように両者は用いられる場面が異なります。それなのに、
- メジャートランキライザー(強い精神安定剤)
- マイナートランキライザー(弱い精神安定剤)
という分け方をしてしまうと、「マイナーが効かなくて、お薬を強めたい時はメジャーに切り替えればいい」といった誤解につながります。
メジャートランキライザー(抗精神病薬)は、マイナートランキライザー(抗不安薬)を強力にしたものではありません。
ただ両者ともに精神を安定させる作用があるというだけで、作用機序の異なるお薬を無理矢理同じ系統に分類する事は自然ではないため、現在ではこのように分ける事はなくなりました。
ちなみに現在では精神安定剤(トランキライザー)と言えば、抗不安薬の事を指します。抗精神病薬は「抗精神病薬」という分類になるため、トランキライザーと呼ばれる事はありません。