インプロメンの副作用と対処法【医師が教える抗精神病薬の全て】

インプロメン(一般名:ブロムペリドール)は1986年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。

抗精神病薬には古い第1世代と比較的新しい第2世代があり、インプロメンは古い第1世代に属します。

第1世代は効果は強力なのですが、副作用も強いという問題があります。特に問題なのは、命に関わるような重篤な副作用が生じるリスクがあるという点です。

そのため現在ではインプロメンのような第1世代はやむを得ない症例に限ってのみ用いるお薬となっており、安易に投薬するお薬ではなくなっています。

しかし統合失調症の幻覚や妄想に対して確実で強力な効果のあるインプロメンは、第2世代が効かないような症例に対して現在でも使用される事があります。

ここではインプロメンで注意すべき副作用と、臨床で比較的見られやすい副作用について紹介させていただきます。

1.インプロメンの副作用の特徴

抗精神病薬は大きく分けると2つに分けられます。

1つ目が1950年頃から使われている古いタイプである第1世代(定型)抗精神病薬で、2つ目が1990年頃から使われている比較的新しいタイプである、第2世代(非定型)抗精神病薬です。

第1世代は強力な作用がありますが、副作用も強力なのが難点です。そのため、副作用の軽減を目指して開発されたのが第2世代で、現在では第2世代が主に使用されています。

第2世代は、第1世代と比べると、

  • 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
  • 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用)

などの神経系の副作用やホルモンバランスを崩してしまう副作用は少なくなりました。

また、

  • 悪性症候群(高熱、筋破壊で死に至ることもある危険な副作用)
  • 心室細動・心室頻拍(命に関わることもある重篤な不整脈)
  • 麻痺性イレウス(腸がまったく動かなくなってしまう副作用)

などの重篤な副作用の頻度も大きく低下しました。

しかし、第1世代よりも身体をリラックスさせて代謝を抑制するため、

  • 血糖やコレステロールなどを上昇させる
  • それに伴い、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げる

といったデメリットがあります。

第2世代は全てにおいて第1世代と比べて優れているわけではなく、第2世代は第2世代の問題点があります。

しかし総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられており、現在の統合失調症治療は、第2世代から始めることが基本となっています。

この中でインプロメンは第1世代(定型)抗精神病薬に属しています。古くから使われているお薬であるため、今となっては古いお薬であり第2世代と比べると副作用の多さはやはり目立ちます。

インプロメンは第1世代の中でも「ブチロフェノン系」という種類に属します。

この種類の抗精神病薬は、ドーパミンをブロックする作用がとても強いためドーパミン過剰によって生じる症状に対しては優れた効果を発揮しますが、反対にドーパミンをブロックしすぎる事による副作用も生じやすいお薬になります。

また、ドーパミン以外の物質(ムスカリンやヒスタミン、アドレナリンなど)には作用しにくいため、これらへの作用が原因で生じる症状はあまり起こしません。

具体的には、ドーパミンの過剰で生じている症状である幻覚・妄想といった「陽性症状」には確実な効果が期待でき、その他の物質が原因で生じる副作用(口渇・便秘・尿閉・体重増加・血圧低下・性機能障害など)が少ないという事になります。

【陽性症状】
本来はないものがあるように感じる症状の総称で、「本来聞こえるはずのない声が聞こえる」といった幻聴や、「本来あるはずのない事をあると思う」といった妄想などがある。

そして一方でドーパミンが少なくなりすぎる事で生じる症状である、

  • 錐体外路症状(EPS)
  • 高プロラクチン血症

なども起こしやすいというデメリットがあります。

【錐体外路症状(EPS)】
ドーパミンのブロックによって生じる神経症状。手足のふるえやムズムズ、不随意運動(身体が勝手に動いてしまう)などが生じる。

【高プロラクチン血症】
脳のドーパミンをブロックすることでプロラクチンというホルモンが増えてしまう事。プロラクチンは本来は産後の女性が乳汁を出すだめに分泌されるホルモンであり、これが通常の方に生じると乳房の張りや乳汁分泌などが生じ、長期的には性機能障害や骨粗しょう症、乳がんなどのリスクとなる。

またインプロメンをはじめとした第1世代の一番の問題点は、「命の関わるような副作用が生じることがある」点です。

具体的には、

  • 悪性症候群
  • 重篤な不整脈(心室細動、心室頻拍)
  • 麻痺性イレウス
  • 無顆粒球症

など、命に関わるような副作用の報告があり、特に高用量を服用していると生じやすくなります。このため第1世代は現在では積極的には投与されなくなっており、まずは安全性の高い第2世代抗精神病薬が用いられる事となっています。

以上から、インプロメンの副作用の特徴として、次のような事が挙げられます。

  1. 古い第1世代であり、全体的に副作用は多め
  2. 命に関わるような副作用の報告もある
  3. ドーパミンを遮断しすぎることで、ドーパミン欠乏の副作用が起こりやすい(錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症など)
  4. その他の受容体には影響しにくいため、その他の副作用は少なめ(体重増加や口渇・便秘、眠気など)
  5. 副作用の問題から、現在では第1選択として使われる薬ではない

2.インプロメンの副作用

それでは、インプロメンの副作用をそれぞれみていきましょう。

なお、一般的な対処法なども記載しますが、これらの対処法は独断では行わないでください。必ず主治医と相談の上、主治医の指示に基づいて慎重に行ってください。

Ⅰ.錐体外路症状(EPS)

統合失調症は脳のドーパミンが過剰になってしまう事が一因だと考えられています。そしてインプロメンのような抗精神病薬はドーパミンのはたらきを抑える事で症状を改善させます。

しかしドーパミンのはたらきを抑えすぎてしまう事で生じてしまうのが、錐体外路症状です。

インプロメンは錐体外路症状を起こしやすいお薬だと言えます。その理由はインプロメンをはじめとした「ブチロフェノン系」はドーパミンを強力にブロックする作用を持っているのが特徴だからです。

ブチロフェノン系の中でもインプロメンのドーパミンをブロックする作用は強力だと考えられています。

錐体外路症状では多くの症状が認められますが、

  • 振戦(手先のふるえ)
  • 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
  • アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
  • ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう)

などが代表的です。

これらは直接命に関わる症状ではないものの、患者さんにとっては非常に苦痛な症状です。インプロメンがドーパミン受容体をブロックしすぎることで生じる副作用のため、特に高用量のインプロメンを服用している場合に起きやすい傾向があります。

これらの副作用が生じた場合は、まずはインプロメンの減薬、あるいは副作用の少ない第2世代への変薬が試みられます。

また、抗コリン薬と呼ばれる錐体外路症状を改善させる作用を持つお薬もあります。抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がります。するとドーパミン濃度が増えるため、錐体外路症状を改善させてくれるのです。

具体的には、

  • ビペリデン(商品名:アキネトン)
  • プロフェナミン(商品名:パーキン)
  • トキヘキシフェニジル(商品名:アーテン)

などが錐体外路症状によく用いられる抗コリン薬として挙げられます。

ただし、お薬によって生じた副作用をお薬で治す、というのはあまり良い方法ではありません。お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。

Ⅱ.高プロラクチン血症

高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出るプロラクチンというホルモンの量が多くなってしまうという副作用です。

この原因は、インプロメンが脳下垂体のドーパミン受容体もブロックしてしまうためです。ドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまうのです

ドーパミンを強力にブロックするインプロメンは、この副作用を起こす頻度も多いと言えます。

プロラクチンは、本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンです。授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。これがプロラクチンの作用になります。

高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。また男性であれば、勃起障害などが生じることもあります。

問題はこれだけではありません。一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。

そのため、高プロラクチン血症を発見したら放置せずに速やかに治療することが望まれます。

インプロメンで高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてインプロメンを中止する必要があります。中止し、必要があれば第2世代などの別の抗精神病薬に変更しましょう。

Ⅲ.重篤な不整脈

稀ですがインプロメンのような第1世代は重篤な不整脈を起こすことがあります。

不整脈といっても、大きな問題がない程度のものであればまだ良いのですが、時に心室細動、心室頻拍などの命に関わるような不整脈を生じることがあるのです。

服薬量が多いと起こしやすいため、服薬量は最小限になるように注意を払わないといけません。

特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です。これを放置していると致命的な不整脈(心室細動やトルサード・ド・ポアンツ)を起こす可能性があります。

抗精神病薬を使う際は定期的に心電図検査を行い、QT延長を見逃さないようにしないといけません。そしてQT延長が認められた場合は、速やかに減薬あるいは変薬が必要です。

Ⅳ.悪性症候群

悪性症候群も頻度は稀であるものの、発症してしまった際は命に関わる可能性もある副作用です。

悪性症候群では、

  • 高熱
  • 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
  •  錐体外路症状(筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなる)
  • 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
  • 横紋筋融解(筋肉が破壊されることによる筋肉痛)

などが突然生じます。

その原因は明確に解明されてはいませんが、ドーパミンが関係すると考えられているため、ドーパミンに強力に作用するインプロメンは悪性症候群のリスクは高いお薬だと考えられます。

特にインプロメンの増薬・減薬時に生じやすいため、増薬・減薬は少しずつ慎重に行う必要があります。

悪性症候群は命に関わる可能性もある重篤な副作用であるため、悪性症候群が疑われたら原則入院とし、十分な点滴やダントロレンというお薬の投与などを行う必要があります。

Ⅴ.ふらつき

インプロメンはふらつきの頻度が多いお薬ではありませんが、時に生じることはあります。

ふらつきが生じる機序はいくつかあります。お薬の作用でヒスタミン受容体がブロックされると眠気が生じてふらつくこともあります。また、アドレナリン受容体がブロックされると血圧が下がってしまうため、これもふらつきの原因となります。

しかしインプロメンは、ヒスタミン受容体・アドレナリン受容体への作用はほとんどないお薬であり、そのためふらつきが生じる程度は多くはありません。

インプロメンによるふらつきの副作用がひどい時は、減薬・あるいは変薬を行います。

ふらつきはお薬で改善させるという方法もあります。特に血圧低下によって生じているふらつきであれば昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)が有効です。しかし血圧を上げるお薬ですので、高血圧の方などは使用する際に注意が必要です。

Ⅵ.体重増加(太る)

体重増加の副作用もインプロメンでは多くはありません。

体重増加は精神科のお薬の多くに認められる副作用ですが、その原因はお薬が主にヒスタミン受容体、セロトニン2C受容体をブロックするためだと考えられています。

インプロメンはヒスタミン受容体、セロトニン受容体にあまり作用しませんので、体重増加も頻度も多くはありません。

しかし、長期間服薬を続けていればインプロメンでも徐々に体重増加は生じてしまう事は十分に考えられます。

インプロメンで体重増加が生じた時、まず見直すべきは生活習慣の改善です。食生活の偏りや運動不足など、太りやすい習慣がある場合は、まずそちらを是正することで体重の軽減ははかれないかを見ます。

それでも難しい場合は、減薬あるいは変薬です。

現在はインプロメンのような第1世代よりも、全体的には副作用が少ない第2世代を使うように推奨されていますが、体重増加の副作用に限って言えば、インプロメンよりも第2世代の方が生じやすいことがあります。

第2世代の中でもMARTA(ジプレキサ、セロクエル)などは体重増加の頻度が多いため、体重増加に限って言えば、MARTA以外のお薬が好ましいかもしれません。具体的には、エビリファイ(アリピプラゾール)、ロナセン(ブロナンセリン)、ルーラン(ペロスピロン)辺りが体重増加は比較的起こしにくいと考えられています。

Ⅶ.口渇、便秘(抗コリン作用)

抗コリン作用というのは、アセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる、抗精神病薬の副作用です。抗コリン作用は、お薬がアセチルコリン受容体に結合してしまうことで生じます。

口渇や便秘が代表的ですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。

インプロメンの抗コリン作用は弱めであり、これらの副作用の頻度は少なめです。

抗コリン作用への対応策としては

  • インプロメンを減量する
  • 他の抗精神病薬(第2世代)に変更する
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する

などの方法があります。

抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、

などが用いられます。

Ⅷ.眠気

眠気は、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。他にもアドレナリン受容体やセロトニン2受容体なども多少関与している考えられています。

インプロメンはヒスタミン受容体への影響は少ないため、眠気の頻度は多くはありません。

眠気の副作用に対しては、まずは睡眠環境の見直しから行います。睡眠時間がしっかりとれているのか、睡眠の質を下げるようなことをしていないか、などを改めて見直しましょう。

寝床でスマホをいじってる、寝る前にタバコを吸っている、寝る前にアルコールを飲んでいる。

こういった習慣を持っている人は少なくありません。思い当たる原因がある場合は、まずはその習慣を治しましょう。

それでも改善が無い場合は、可能であればおくすりの減薬や変薬が検討されます。しかしどの抗精神病薬でも眠気は起きるため、変薬は慎重に行われます。また、どうしても減薬できない場合はやむを得ず多少の眠気と付き合っていきながら生活せざるを得ないこともあります。

3.他の抗精神病薬とインプロメンの副作用比較

インプロメンの副作用を見てきましたが、他の抗精神病薬との比較をしてみましょう。

まずは代表的な抗精神病薬の副作用頻度一覧を紹介します。

抗精神病薬EPS、高PRL体重増加ふらつき性機能障害眠気抗コリン作用
コントミン++++++++++++++++++++++
セレネース++++++++++++++
リスパダール++++++++++±
インヴェガ++++++±
ロナセン+++±±±±+
ルーラン++++++±
ジプレキサ+++++++++++++++++
セロクエル++++++++++++++
エビリファイ++±++±±

*EPS・・・錐体外路症状
*高PRL・・・高プロラクチン血症
*抗コリン作用・・・口渇、便秘など

次に第1世代の副作用頻度一覧を紹介します。

抗精神病薬EPS、高PRL体重増加ふらつき性機能障害眠気抗コリン作用
コントミン++++++++++++++++++++++
セレネース++++++++++++++
ヒルナミン/レボトミン+++++++++++++++++++++++

インプロメンは第1世代であるため、全体的な副作用は多めです。ドーパミンをブロックする作用に優れるインプロメンは、特にEPS(錐体外路症状)や高プロラクチン血症の頻度が多いことが分かります。

その他の副作用は少ないのですが、第1世代の副作用で忘れてはいけないのが「命の関わるような重篤な副作用を生じるリスクがある」という点です。

そのため、現在では第1世代はできる限り処方しないようになっています。