セルシンの離脱症状と対処法【医師が教える抗不安薬のすべて】

セルシンはベンゾジアゼピン系抗不安薬に分類されるお薬で、主に不安感を和らげるはたらきを持ちます。

抗不安作用の他、筋弛緩作用・催眠作用・抗けいれん作用など多くの作用を持っており頼れるお薬ですが、必要以上に長期・大量に使用してしまうと問題が生じることがあります。セルシンをはじめとしたベンゾジアゼピン系は長期・大量に服薬を続けていると、「離脱症状」が生じやすくなるのです。

長期間・大量にセルシンの内服を続けていると、次第に身体がセルシンに依存してしまいます。この状態で無理に減薬や断薬すると、気分が悪くなったり、イライラしたり、頭痛や震え、発汗が出現したりと様々な症状が起こることがあり、これらは離脱症状と呼ばれます。

ここではセルシンの離脱症状の説明、抗不安薬の離脱症状の起こしやすさの比較、離脱症状を起こさないための注意点、離脱症状が生じてしまった際の対処法などについて説明していきます。

1.セルシンの離脱症状とは?

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬はすべて、離脱症状を起こす可能性があります。離脱症状とは抗不安薬を減薬・中断した時に起こる様々な症状を指し、抗不安薬の血中濃度が急激に低下することに身体がついていけないために生じます。

抗不安薬を長期間あるいは大量に服薬し続けていると、徐々に私たちの脳は「このお薬は毎日入ってくるものなんだ」と認識するようになります。そうなってしまうと、その薬が入ってくる前提で身体の様々な働はたらきを調整するようになります。逆に言えば、その薬がないと身体の諸機能を調整できない状態になってしまっているとも言え、これは「薬に依存している」状態になります。

この依存状態の時に、急に抗不安薬を減薬・中断したらどうなるでしょうか。

身体の諸機能が調整できなくなるのは明白です。その結果、身体に様々な不具合が生じ様々な症状が生じてしまいます。これが離脱症状の正体です。

離脱症状の具体的な症状としては、

  • 落ち着きのなさ、イライラ、緊張、不安
  • 頭痛、肩こり
  • 吐き気、悪心、動悸、震え、発汗

など、様々な精神症状・身体症状が現れます。

離脱症状は、抗不安薬を減らすと必ず生じるわけではありません。むしろ医師の指示のもとで正しい服薬・減薬をしていれば起こさない方が多いです。しかし長期間・大量に服薬を続けていると起こりやすいため、抗不安薬の服薬は医師と相談しながら、決められた量・決められた期間の内服にとどめることが非常に大切です。

2.セルシンの離脱症状の起こしやすさ

抗不安薬はすべて離脱症状を起こす可能性がありますが、起こしやすさはお薬によってそれぞれ違います。

離脱症状は、抗不安薬の

  • 半減期が短いほど起こりやすい
  • 効果が強いほど起こりやすい
  • 量が多いほど起こりやすい
  • 内服期間が長いほど起こりやすい

と言われています。

セルシンはというと、半減期は約20~100時間(平均50時間ほど)と長めで、効果の強さは抗不安薬の中では「中くらい」程度です。そのためセルシンは離脱症状をそこまで起こしやすい抗不安薬ではありません。

しかし、大量・長期投与を続けているとセルシンでも離脱症状が生じることは十分にあり得ます。なるべく離脱症状を起こさないようにするためには、必要以上に大量に飲んだり、漫然と長期間飲み続けたりしないようにする事が大切です。

3.離脱症状を起こさないためには?

離脱症状を起こさないためには、どんなことに気を付ければいいでしょうか。

離脱症状の起こしやすさをもう一度見てみましょう。

  • 半減期が短いほど起こりやすい
  • 効果が強いほど起こりやすい
  • 量が多いほど起こりやすい
  • 内服期間が長いほど起こりやすい

でしたね。

ということは、これと反対の状態を目指せば離脱症状は起こしにくくなることが分かります。

つまり、

  • なるべく半減期が長い抗不安薬にする
  • なるべく効果が弱い抗不安薬にする
  • なるべく必要最小限の量になるようにする
  • なるべく内服期間を短くする

ことを意識すれば、離脱症状のリスクを下げることが可能になります。

セルシンに依存状態にならないために、そしてセルシンで離脱症状を起こさないために、服薬中にこれらを意識することは非常に重要なこととなります。

ひとつずつ、詳しくみていきましょう。

Ⅰ.半減期を長くする

まず半減期ですが、セルシンの半減期は50時間程度あり、抗不安薬の中でも長時間型になります。長い半減期を持つお薬ですので、「更に半減期を長くしよう」とはそこまで気にしなくてもいいでしょう。

しかし、少しでも離脱症状を起こしにくくしたいという事であれば、半減期がより長い抗不安薬に変えるのはひとつの方法になります(例えばメイラックスなど)。

一般的に半減期の短いお薬は即効性があります。即効性があると、「効いている!」という感覚が得られやすいため、患者さんに好まれます。また、不安が襲ってきた時にすぐに対処できる「頓服」としても役立ちます。しかし、それは依存形成しやすく、離脱症状を起こしやすいということは覚えておく必要があります。

反対に半減期の長いお薬は徐々に効いてくるので「効いているのかよく分からないなぁ」という感じを持ちやすく、また頓服としても使いずらいのですが、ゆるやかな分だけ依存形成は起こしにくく、離脱症状も起こしにくいのです。

半減期の短い抗不安薬が一概に悪いという事ではありませんが、依存形成や離脱症状の起こしやすさという点から見れば、半減期の長い抗不安薬の方が良いのは確かです。

Ⅱ.効果を弱くする

効果の弱いお薬の方が離脱症状は起きにくいと言われています。これは当たり前の事で、効果が弱いと身体に及ぼす変化も少ないため、減薬時も反動が生じにくくなるからです。

そのため、病気の症状が落ち着いてきたら徐々に効果の弱いお薬に切り替えていくことは、後々の離脱症状の予防のために大切です。

もちろん病気の症状が重い時は必要に応じて効果の強い抗不安薬を使うこともありますし、それは悪いことではありません。不安がものすごく強いのに弱い抗不安薬を使ってしまったら、不安症状はいつまでも改善しないままになってしまいますから、これはこれで問題です。

必要な時に強い抗不安薬を用いるのは問題ありませんが、定期的に病気の経過を見直し、お薬を弱めることができそうであれば、より抗不安作用の弱いお薬への切り替えを検討することが大切です。

症状が良くなってきているのに、漫然と効果の強いものを使い続けるのは良い治療とは言えないでしょう。

Ⅲ.量を少なくする、服薬期間を短くする

服薬量が多く服薬期間が長いほど、依存形成や離脱症状につながりますので、定期的に「お薬の量を減らせないか?」と検討することも必要です。「最短1ヶ月で依存形成は起きうる」と指摘する専門家もいますので、少なくとも2週間に1回くらいは、減薬ができないか検討すべきです。

ただし、調子がまだ不十分なのに無理して減薬する必要はありません。あくまでも、漫然と飲み続けないように気をつけるべきということです。

4.離脱症状の対処法

セルシンは半減期も長く、効果も強力というわけではありませんので、離脱症状がそこまで多い抗不安薬ではありません。しかしベンゾジアゼピン系には全て依存性がありますので、セルシンも離脱症状を生じる可能性はあります。

セルシンで離脱症状が出現してしまったら、どうすればいいでしょうか。一般的によく取られる対処法を紹介します。

離脱症状が起きてしまうのは、ほとんど場合で「セルシンを減薬・断薬」した時になります。その時、取るべき方法は実は2つしかありません。

それは、「様子をみる」か「元の量に戻す」かです。

そして、どちらを選ぶかの判断基準は、生じた離脱症状の程度が「耐えられるかどうか」になります。

離脱症状は、身体に入ってくるお薬の量が急に少なくなった反動で起こります。しかし人間の身体というのは、徐々に適応していく力を持っていますから、しばらくすれば、少なくなったお薬の量に慣れてきます。

それまで様子を見れるのであれば、我慢してもよいでしょう。

個人差はありますが、離脱症状のピークは1週間程度で、これを過ぎると徐々に程度は軽くなってきます。ただし、中には3か月など長く続くケースもありますので、無理をして我慢をしないようにしてください。

様子をみれる程度の軽い離脱症状であれば、少し様子をみて、離脱症状が治まるのを待ちましょう。

もう一つの方法は、「元の量に戻す」ことです。

生じた離脱症状の程度が強く、耐えられないようであれば元の量に戻します。お薬を減らしたのが原因ですので、お薬の量を戻せば離脱症状は改善します。当たり前ですね。

元の量に戻したら、1~2週間はそのまま様子をみてください。

その後、再び離脱症状を起こさないために、次のいずれかの方法を取りながら再挑戦してください(必ず主治医と相談の上で行い、主治医の指示を優先して下さい)。

Ⅰ.より緩やかに減量する

減らしていく量を細かく刻めば刻むほど、反動が少なくなり、離脱症状も起こしにくくなります。

例えば、セルシン15mg/日から10mg/日に減薬して離脱症状が出現したのであれば、12mg/日や12.5mg/日など、より細かく刻んで減薬をしなおします。

専門書によっては「10%ずつ減らしていきましょう」と書いてあるものもあります。15mg/日を内服しているなら、1.5mgずつ減らしていくということですね。気が遠くなるかもしれませんが、ここまで細かく刻めば離脱症状は起こさないでしょう。

ちなみに錠剤では細かい調整がしにくいため、細かく刻んで減薬するならば粉薬を使うのがおすすめです。セルシンには「セルシン散1%」という粉薬がありますので、これを使用すると良いでしょう。

また、期間も重要です。

例えば、1週間ペースで減薬していって離脱症状がでてしまうのであれば、2週間や4週間ペースに伸ばしてみましょう。

Ⅱ.半減期の長い抗不安薬に切り替えてから減薬する

前述したように、半減期の長い抗不安薬の方が離脱症状を起こしにくいという特徴があります。

そのため、更に半減期の長い抗不安薬に一旦切り替えてから減薬すると上手くいくことがあります。

例えば、セルシン(半減期50時間)からメイラックス(半減期122±58時間)に切り替える方法で考えてみます。セルシン10mg/日を、より半減期の長いメイラックス2mg/日に切り替えます(実際に切り替える用量は症状や主治医の判断によって差があります)。

メイラックスに慣れるため1~2週間はそのまま様子をみます。その後、メイラックスを1.0mg、0.5mgと減らしていくのです(場合によってはより細かく減量していきます)。

あるいはメイラックスは半減期が長いので、2日に1回服薬、3日に1回服薬、と減らしていってもいいでしょう。