ダルメート(一般名:フルラゼパム)はベンゾジアゼピン系という種類に属する睡眠薬です。
ベンゾジアゼピン系は効果も程良く、重篤な副作用も少ないため、現在でも不眠治療の主役になっているお薬です。
しかし副作用がまったくないわけではありません。お薬である以上、副作用が出現する可能性はあり、特に医師の指示のもとで正しく使わないと、副作用に苦しむ事になる可能性が高くなってしまいます。
ここではダルメートの主な副作用や、その対処法について紹介していきます。
目次
1.ダルメートの副作用の特徴
副作用が全く無いお薬は無く、どんなお薬でも副作用は起きえます。ダルメートが特段に副作用が多いお薬というわけではありませんが、主治医の指示を守って正しく使用する必要があります。
ではダルメートはどのような副作用があり、どんな事に注意して使用していけばいいのでしょうか。
ダルメートの副作用の特徴を紹介します。
ダルメートというお薬の特徴は、その作用時間の長さにあります。半減期(お薬の作用時間の目安になる値)は約14.5~42.0時間と言われており、これは睡眠薬の中でも最長クラスになります。
作用時間が長いということは、長く眠れる反面で眠気が日中に持ち越しやすいという事でもあります。つまり「日中の眠気」が生じやすい睡眠薬だという事です。
「日中の眠気」はダルメートに見られやすい副作用であり、注意しなくてはいけません。
しかし半減期が長いという特徴はメリットもあります。長時間しっかりと眠れるというメリットの他、半減期が長い睡眠薬は依存性が形成されにくいという特徴があるため、ダルメートは依存性が低いという利点もあります。
それではダルメートの副作用をひとつずつ詳しくみていきましょう。また、対処法についても考えていきます。
2ダルメートの副作用:眠気
睡眠薬の副作用で一番多いのが眠気です。特にダルメートは睡眠薬の中でも長く効く睡眠薬のため、眠気には注意する必要があります。
夜に睡眠薬を飲んで眠くなる。これは睡眠薬の「効果」ですから問題ありません。しかし、「起床時間になってもまだ眠くて起きれない」「日中眠くて仕事に集中できない」となると問題で、これは副作用になります。
日中まで睡眠薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下なども生じます。
持ち越し効果は、半減期の長い睡眠薬で多く認められます。ダルメートは半減期が約14.5~42.0時間と非常に長いため、持ち越しを起こす頻度が多めです。
特に睡眠時間が短い方では起こりやすくなりますし、お薬を分解する力が弱い方なども持ち越しが起こりやすくなります。お薬を分解・排泄する力が弱い人というのは、元々の体質もありますので、いつもお薬が効きやすいという方はあらかじめ主治医に伝えておきましょう。
また、肝臓や腎臓が弱っている方は分解・排泄能力が落ちてしまいますので、持ち越し効果が起こりやすくなります。
眠気が日中に持ち越してしまう場合、一番の対処法は「睡眠時間をより多くとる」ことです。例えば、6時間睡眠で、翌朝に持ち越してしまっているようであれば、7~8時間と睡眠時間を増やしましょう。
当たり前のことですが、睡眠時間を多く取れれば持ち越しは起きにくくなります。これが、一番確実で効果のある対処法になります。
どうしても睡眠時間を確保できない、という方は作用時間のより短い睡眠薬に変えることが次の対策になります。
ダルメートは半減期が最長クラスの睡眠薬です。多くの睡眠薬はダルメートよりも半減期が短いため、他の睡眠薬に変更すれば持ち越しを少なくできる可能性があります。
また、服薬量を減らしてみるという手もあります。例えばダルメート30mgを内服しているのであれば20mgや10mgに減量してみます。量を減らすと効果も弱くなってしまいますが、持ち越す可能性も少なくなります。
3.ダルメートの副作用:耐性・依存性
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、すべて耐性や依存性が形成される危険性があります。長期的に見ると「耐性」「依存性」は睡眠薬の一番の問題と言ってもいいでしょう。
古い睡眠薬である「バルビツール酸系睡眠薬」と比べると、ベンゾジアゼピン系睡眠薬の耐性・依存性形成はかなり少なくなりましたが、それでも起こさないわけではありません。
ちなみに耐性・依存性とは何でしょうか。
耐性というのは、身体が徐々に薬に慣れてしまって効きが悪くなる事です。耐性が生じると、最初は1錠飲めばぐっすり眠れていたのに、だんだんと効きが悪くなり、2錠、3錠飲まないと眠れず、必要量がどんどん増えてしまいます。
依存性というのは、その物質がないと居ても立ってもいられなくなってしまい、その物質を手放せなくなる状態です。
耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。アルコールにも耐性と依存性があります。
アルコールを常用していると、最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、次第に飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。
また飲酒量が多くなると、飲酒せずにはいられなくなり、常にアルコールを求めるようになります。これは依存性が形成されているという事です。
耐性、依存性は、
- 睡眠薬の効果が強いほど起こりやすい
- 睡眠薬の量が多いほど、服薬期間が長いほど起こりやすい
- 睡眠薬の半減期が短いほど起こりやすい
- 非ベンゾジアゼピン系よりもベンゾジアゼピン系の方が起こりやすい
と考えられています。
そのため、特に気を付けるのが超短時間型のベンゾジアゼピン系睡眠薬を大量に飲んでいるケースです。代表的なものでいうとハルシオンなどは特に気を付けないといけません。
また、サイレース/ロヒプノールもベンゾジアゼピン系の中では強い効果を持つため、依存を形成しやすく注意が必要です。
ダルメートはというとベンゾジアゼピン系には属しますが、効果の強さは標準程度で、半減期が非常に長いため、医師の指示通りに正しく内服をしていれば依存形成が起こる頻度はそこまで多いわけではありません。むしろ睡眠薬の中では依存形成は起こしにくい部類に入ります。
睡眠薬で耐性・依存を形成しないためには、まず「必ず医師の指示通りに服用する」ことが鉄則です。
アルコールも睡眠薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。医師は、耐性・依存性を起こさないような量を考えながら処方しています。それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、急速に耐性・依存性が形成されてしまいます。
アルコールとの併用も危険です。アルコールと睡眠薬を一緒に使うと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。
また「漫然と飲み続けない」ことも大切です。睡眠薬はずっと飲み続けるものではなく、不眠の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです。
定期的に「睡眠薬の量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう睡眠薬が必要ない状態なのに漫然と内服を続けているということは避けるべきです。服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がります。
4.ダルメートの副作用:もうろう状態、一過性前向性健忘
睡眠薬を内服したあと、自分では記憶がないのに、歩いたり人と話したりする事があります。もうろう状態、一過性前向性健忘などと呼ばれる現象です。
健忘とは記憶障害の事です。前向性健忘とは、ある時点(睡眠薬内服時)以降の記憶が障害された(≒記憶がなくなっている)状態ということです。
最高血中濃度到達時間が早い睡眠薬(即効性のある睡眠薬)に多く見られるため、超短時間型のベンゾジアゼピン系に多いと言われています。また大量に飲んでいたり長期間飲んでいると起きやすいようです。
睡眠薬は脳を中途半端に眠らせてしまう期間があり、この中途半端な覚醒状態が「もうろう状態」「一過性前向性健忘」を引き起こします。この「中途半端な覚醒状態」は睡眠薬の内服直後に一番起こりやすいと言われています。
内服直後は、お薬の効きがまだ不十分だからです。睡眠薬は中途半端ながらも効いているため、身体は動くんだけど脳はほとんど眠ってしまっているため記憶には残りません。
これが、もうろう状態や一過性前向性健忘の正体です。
ダルメートは最高血中濃度到達時間が1時間前後と長時間型の睡眠薬にしては即効性もあります。もうろう状態や一過性前向性健忘が起こりやすい睡眠薬ではありませんが、一定の注意は必要です。
万が一ダルメートでこれらの症状が起こってしまったら、服用量を減らす事が対応策となります。また、より即効性の低い睡眠薬に変えるのも手になります。
健忘が起こると、自分は全く覚えていないため、患者さんは「自分がおかしくなってしまったのでは・・・」と不安になりますが、睡眠薬が中途半端に効いた結果起こっただけですので、心配はいりません。
脳がおかしくなってしまったのではなく、睡眠薬の副作用で起こっただけです。この状態を放置すれば問題となりえますが、眠剤を変えたり量を減らしたりと適切な対応を取れば後遺症が残ったりすることはありません。
5.ダルメートの副作用:ふらつき、転倒
ベンゾジアゼピン系睡眠薬には、眠らせる「催眠作用」以外にも、
- 筋弛緩作用 (=筋肉をゆるめる)
- 抗不安作用 (=不安を和らげる)
- 抗けいれん作用 (=けいれんをおさえる)
といった働きがあります。それぞれの作用の強さは、睡眠薬の種類によって様々です。
ダルメートにも、催眠作用の他にこの3つの作用がありますが、その作用の強さは弱めであり、他のベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べて特別に強いことはありません。
ベンゾジアゼピン系は脳神経のGABA-A受容体という部位にくっつくことでこれらの効果を発揮するのですが、更に詳しくみるとω1受容体とω2受容体という2つのくっつく部位があります。ω1受容体は主に催眠作用を持ち、ω2受容体は主に抗不安、筋弛緩作用を持つと言われています。
ω1受容体にだけくっついてくれれば催眠作用だけで良いのですが、実際はω2受容体にもくっつくため、これらのふらつきが生じてしまう事があるのです。
適度に不安をとってくれたり、筋肉の緊張をほぐしてくれるのは良い作用でもあるのですが、筋肉を緩めることで、ふらつきやすくなったり、転びやすくなったりするということもあります。
ダルメートは半減期が長いため1日中効果が続いてしまう事も多く、日中のふらつき・転倒の原因になりえるため、注意する必要があります。
6.副作用を怖がりすぎるのも問題
睡眠薬の副作用(特に依存)はしばしば問題となっており、新聞やニュースなどのメディアでも取り上げられる事があります。そのため、睡眠薬の副作用だけに目が行ってしまい「こんな怖いもの、絶対に飲みたくない!」と過剰な拒否反応を示される方も時々いらっしゃいます。
もちろん、お薬を飲まなくても様子を見れる状態であったり、他の治療法で代替できる状態なのであれば、無理にお薬を使う必要がありません。
しかし、専門家である医師が「今は睡眠薬を使った方がいいですよ」と判断するのであれば、過剰に怖がるのではなく服用も前向きに考えていただければと思います。
私たち医師は、睡眠薬のメリットもデメリットもしっかりと把握しています。メリットとデメリットを天秤にかけた上で「今のこの患者さんには、総合的に考えて睡眠薬を使うメリットの方が大きい」と判断したからこそ、服用を提案するのです。
睡眠薬はお薬である以上副作用が生じる可能性はありますが、医師のしっかりとした管理のもと、一定期間のみ内服するのであれば、大きな副作用は起こさないことの方が圧倒的に多いです。
睡眠薬が依存性の原因となったり、せん妄の原因になり得るのは事実です。でも、患者さんを不眠から救ってくれるのもまた事実なのです。デメリットだけ見るのではなく、メリットとデメリットをそれぞれ冷静に見てください。
睡眠薬と似た物質としてアルコールがあります。アルコールにも睡眠薬と同程度の耐性・依存性があると考えられています。でも、「アルコール依存になるのが怖いんでお酒は一切飲みません」「アルコール依存が怖いから忘年会は欠席します!」なんて人はあまりいないですよね。
それはなぜかというと、確かにアルコールは依存になる可能性がある物質だけども、節度を持った飲酒をしていれば依存になることなどほとんどないからです。そしてほとんどの人は節度を持った飲酒ができており、アルコール依存に至る人はごく一部です。
アルコール依存になるのは、明らかに大量の飲酒を高頻度で続けており、周囲や医師の助言も聞かずに飲み続ける人だけです。
睡眠薬だってそれは同じなのです。主治医が指示した量以上に勝手に飲んでしまったり、主治医が減薬を指示しているのに心配だからと飲み続けたり、依存になるのはほとんどがそのような方々です。節度を持った服薬をしていれば、アルコールと同じでむしろ依存になることは少ないのです。
アルコールは依存など考えず普通に飲んでいるのに、睡眠薬になるととたんに過剰に拒否反応を示すのは、私たち医療者からするとちょっと不思議に感じます。
もちろん、睡眠薬を飲まないに越したことがないのは事実です。でも、診察した医師が必要だと判断したのであれば、過剰に怖がらずに冷静に医師の話を聞き、服薬を検討してみてください。上手く使えば症状を早く取ることができるし、病気を早く治すことだってできるのです。