対人関係を良好にする、たった1つの秘訣

私たちが持っている悩みやストレスというのは、その多くが対人関係に関するものです。

人との関係というのは、時に大きな安心を与えてくれるものでありつつ、時に大きなストレスの元になるものなのです。

社会人に「仕事で何が一番つらいか」と質問すると、仕事内容そのものよりも「対人関係のストレス」が多く挙がります。学生が不登校になってしまう理由としても、「学校の勉強についていけない」という学業自体の理由よりも「対人関係の問題」が圧倒的に多数を占めます。

ここから分かるように対人関係というものは、私たちの精神状態に多大な影響を与えます。

対人関係が良好であれば精神状態も安定しやすく、対人関係が不良であれば精神状態も不安定になりやすいという事です。

対人関係を良好にした方が良いのは言うまでもありません。しかし対人関係はお互いに意志を持った人間同士の関係であり、一方だけがいくら努力しても良い結果が得られるものではありません。ここに対人関係の難しさがあります。

しかし、対人関係を良好にするための対策が全くないわけではありません。

ここでは対人関係を良好にするためのポイントについて紹介させていただきます。

1.「自分を分かってもらいたい!」という気持ちに焦点を当てよう

対人関係というのは、自分と相手の関係性がどれくらい良好かという事です。

「対人関係が良好」という事は、相手が自分に対して良い印象を持っており、また自分も相手に対して良い印象を持っているという事です。

このような関係であれば、相手と過ごす事で良い刺激をもらえたり、安心をもらえたりと対人関係を持つメリットが大きくなります。

一方対人関係が良好でなければ、一緒にいる事がストレスになり、お互いにとって良い関係とはなりません。

自分が相手に良い印象を持つのは、自分の努力次第で変える事が出来ます。しかし相手に自分に対して良い印象を持ってもらうのは、自分の努力だけで変える事は出来ません。ここが対人関係の難しいところです。

では相手に自分に対して良い印象を持ってもらうために、有効な方法はないのでしょうか。

そのための方法はいくつかありますが、「自分を分かってもらいたい」という気持ちに焦点を当てるという方法は極めて有効です

人は誰でも「私の事を分かってもらいたい」という想いを持っています。この欲求は本能的なものであり、人間である以上この気持ちを全く持っていない人はいません。

よくよく思い返してみると私たちが普段何気なく話す内容も、「私の事を理解してもらう」ための話が多くを占めます。

  • 「今、こんなことにハマっててさ」という自分の趣味の話
  • 昨日どんなところに誰といって、こんな気持ちになったという話
  • あの人のこんなところに腹が立ったという話

これらは全て「私はこんな人間です」という事を発しています。私たちはこれほどまでに、相手に自分の事を分かってもらいたいと感じているのです。

相手が自分の事を分かってくれたと感じると大きな喜びを感じます。趣味の話に乗ってきてくれると嬉しいですし、自分が感じた感情について「それ、分かるなぁ」と共感してもらえると嬉しいものです。

そして「自分の事を分かってもらいたい」という気持ちは会話だけにとどまりません。

ミュージシャンが音楽を作るのも、芸術家が作品を作るのも、その根本にあるのは「自分を理解してほしい」という感情があります。

実際、「あなたの歌詞に共感しました」「あなたの絵から想いが伝わってきて感動した」と言われれば、作者はとても嬉しいはずです。

「私の事を理解してほしい」というのは皆が持っているものであり、これはもう単なる「想い」というレベルではなく「人間の本質的欲求」「熱望」と言うべきものです。

私たちは誰もが、これほどに自分の事を分かってほしいと切に願っています。

そのため、私たちは「自分の事を分かってもらえた」と感じた時に、 その相手に良い印象を持ちます。

ここに焦点を当てると、対人関係を良好にする方法が見えてきます。

つまり、相手から「あなたは私の事を理解してくれてるんだ」と思ってもらえるようになれば良いのです。これが出来るようになると、それだけで相手と良好な関係を築きやすくなります。

2.「私の事を分かってもらえた」と感じてもらうには

では、どうすれば「この人は私の事を分かってくれている」と感じてもらう事が出来るでしょうか。

ある人の事を全て理解するという事は極めて難しい事です。夫婦や親子といった深い関係性の相手であっても、相手の事を100%理解することは出来ません。

人はみな異なる背景を持って生きてきています。そのため、極論を言ってしまえば相手を100%理解することなんて出来るわけがありません。

しかし、対人関係を良好にするために必要なのは「相手の事を100%理解する事」ではありません。相手が「あなたは私の事を分かってくれている」と感じてくれる事です。

「相手の事を100%理解する事」は不可能ですが、「あなたは私の事を分かってくれている」と感じてもらう事は十分に可能です。

ではどうすればこのように相手が感じてくれるのでしょうか。

様々な方法があるとは思いますが、私が精神科医として多くの患者さんと信頼関係を築いてきた中で感じる、もっとも有効な方法は、

「相手の話を最後まで、批判せずに聞いてあげる事」

だと思います。

人が「私の事を分かってもらえた!」と感じるのは、自分の話をしっかりと聞いてもらえた時なのです。

相手との対人関係を良好にしたい場合は、相手の話をしっかりと最後まで聞くようにしてみましょう。

「たったそれだけで対人関係が良くなるなら苦労しないよ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし多くの方は「話をしっかり聞く」という事が出来ていません。

相手の話をしっかりと聞く、というのは簡単そうに見えて実はなかなか出来ない事なのです。

多くの方が、相手が最後まで話し終わる前に自分の意見を言ってしまいます。なぜならば、話を聞いている人(あなた)も同じ人間なので、同じように「自分を分かってもらいたい」という気持ちがあるためです。そのため、相手が話している最中に自分の意見を言いたくなってしまうのです。

多くの方が、悪意はなくとも相手の話が最後までいく前に、

「それじゃ失敗するに決まってるよ」
「なんでそんな事したの?」

と批判してしまったり、

「うんうん、分かった分かった。そういう事ね」

と途中で自分なりに解釈して話を終わらせようとしてしまいます。

中途半端な理解で批判されたり、話の途中で切られてしまうと、相手は「この人は私の事を分かってくれない」と感じてしまいます。そして理解してくれないと感じた人に対して、私たちは好意を持つ事はありません。

自分の意見や批判を挟まず、相手の話を最後まで聞くというのは意識しないと実はなかなか難しい事なのです。

まずは時間の許す限り最後まで話を聞くようにしましょう。その間は、相槌を入れるくらいで 極力自分の意見は言わないようにしましょう。そして、相手の気持ちを理解することに努めましょう。

批判やアドバイスをしてはいけないわけではありません。場合によっては間違った意見を訂正してあげたり、正しい道を示してあげる必要はもちろんあります。しかし、批判やアドバイスは相手の話を最後まで聞き終わってからする事です。

途中で自分の意見を言いたくなってもグッとこらえて相手の話を最後まで聞く事、これは慣れるまではなかなか難しいものです。

しかしそれが出来た時、相手はあなたに良い印象を持ってくれるでしょう。

対人関係を良好にしたいと考えている方は、まず「自分の意見を言わず、相手の主張をしっかりと聞く事」を意識してみてください。

3.相手と自分を置き換えて考えてみよう

対人関係を良好にするために大切な視点として、「これを自分がされたらどう思うだろう」と相手の立場に立って考えてみる事が挙げられます。

これは人の気持ちを理解するために大切な考え方で、こういった考えが出来るようになると人を不快にさせる事が少なくなります。

何かとても辛い事があって、誰かに話を聞いてもらいたいという状況を考えてみてください。

本当に辛い事があったため、あなたはつい熱が入り、文脈はめちゃくちゃだったけど、それでも一生懸命に話しました。

なのに、話の半分もいかないところで、

「いや、それはお前が悪いよね」
「いやいや、それってこうすればいいだけの話だよね」
「ちょっと何言ってるか分からないよ」

って言われたら、どう思うでしょうか。

たとえ相手の意見が正論であったとしても、その人に良い印象は持てないと思います。「この人は私の事を分かってくれないな」と感じてしまうでしょう。

ならば、自分も同じ事をしてはいけません。

反対に話を最後まで一生懸命聞いてくれて、

「それはつらかったよね」
「大変だったね」

と声をかけてくれたらどう感じるでしょうか。その人に対して間違いなく良い印象を持ちませんか。

そして批判やアドバイスも、このようにしっかりと話を聞いて共感してくれた上で、

「すごくつらかったと思う。そうならないためにこう考えてみるのはどうかな」
「これ以上大変な目に合わないために、このように行動してみたらどう?」

と言われたら、途中で話をさえぎられてされる批判やアドバイスよりも素直に聞く事ができませんか。

「自分がこれをされたら嬉しいな」
「自分がこれをされたらイヤだな」

対人関係を良好にするためにはこのような視点で考える事が大切です。

4.批判してはいけないわけではない

「まずは相手の話を最後まで聞きましょう」と勧めると「相手の主張が間違っていても聞かなきゃいけないのか」という質問を頂きます。

この答えとしては、たとえ相手の主張が間違っていると感じても、まずは最後まで聞いてあげる事が大切です。

しかし批判や否定をしてはいけないわけではありません。

批判は、相手の主張を理解した上で、「私はこっちの方が良いと思うよ」と提案する事ですが、実はこれって相手のためを思ってしている行為です。

どうでもいい人に対して「こうしたらもっといいんじゃない?」 といったアドバイスをする人なんていません。相手の事を考えているからこそ批判という行為になるわけで、これは悪い行為ではありません。

しかし話の途中で批判されてしまうと、「話を聞いて欲しい」と希望している側としてはどうしても不快になってしまいます。

批判やアドバイスは、相手の話を最後まで聞いて、その気持ちを出来るだけ理解するよう努め、その上で行うべきなのです。

5.あまり話さない関係の場合はどうするか

相手の話を最後までしっかり聞く事は、対人関係を良好にするために極めて有効な方法です。

しかし関係性が不良になってしまっていると、そもそもお互いが深い話をしないため、この方法が使えない事もあります。

このような場合はどうすればいいでしょうか。

このような場合は、まずはお互いが話しやすい関係性から作る必要があります。ちょっと手間はかかりますが、それなしに対人関係を良好にしようといってもそれは不可能です。

とは言っても何か難しい事をしないといけないわけではありません。

あなたは普段、どのような人に対して話しかけやすいでしょうか。その人と同じような雰囲気を相手に対して作っていけば良いのです。

いつもブスっとしている人よりも、いつも笑顔の人の方が話しかけやすいはずです。

すれ違ってもお互い無視する関係より、「ご苦労様です」と挨拶を交わす人の方が話しかけやすいはずです。

話す時もパソコンの画面を向きながらという人よりも、相手の方を見てくれる人の方が話かけやすいはずです。

「ちょっと」とか「おい」とかで人を呼ぶ人よりも、「〇〇さん、お話いいですか?」と呼んでくれる人の方が話しかけやすいはずです。

いつも何をしているか・何を考えているか分からない人よりも、自分の情報を何かと開示してくれる人の方が話しかけやすいはずです。

相手をすぐ否定する人よりも、相手の気持ちに共感しようとしてくれる人の方が話しかけやすいはずです。

こう考えてみると日頃から自分が出来る工夫ってたくさんあります。まずは自分が出来る、話しかけやすい雰囲気作りをするようにしましょう。

<まとめ>

  • 人は皆、「自分の事を分かってもらいたい」という欲求を持っている
  • その欲求が満たしてあげる事が、対人関係を良好にする秘訣
  • 相手の話を最後まで聞き、理解しようと精一杯務める事
  • 自分の意見や提案、批判は相手の話を最後まで聞いてから