過食症の原因。なぜ過食をしてしまうのか

過食症は主に若い女性に好発する疾患で、太ることへの過剰な恐怖から食欲の制御ができなくなり、反動の過食とそれを埋め合わせするための嘔吐や下剤乱用、過剰な絶食や運動などを繰り返します。

正式には「神経性過食症」「神経性大食症」などと呼ばれます。

過食症はただ食べ物を食べすぎてしまうという疾患ではありません。過食した分をリセットしようと、無理矢理吐こうとしたり下剤を乱用したり、過剰な運動・絶食をする事があります。これは患者さんの身体の健康を損なう危険な行為になります。また過食してしまった自分に対する自己嫌悪・罪悪感から精神的にも疲弊してしまい、うつ病や不安障害などの精神疾患を併発してしまう事も少なくありません。最悪の場合は命を落とすこともある疾患です。

過食症をはじめとする「摂食障害」は、表面的な「食行動の異常」だけに目を向けるのではなく、その背景にある原因を把握することが大切です。その根本の原因を少しずつ解決していくことによって過食症は緩やかに改善していきます。

では過食症の原因にはどのようなものがあるのでしょうか。

過食症を発症してしまう代表的な原因についてお話しさせて頂きます。

1.過食症とは

過食症とは、

・食べたい衝動をコントロールすることが出来ず、過食してしまう
・太る恐怖から、過食後に嘔吐や下剤乱用・過剰な運動などの行動をする

といった事を繰り返すうちに、身体・精神状態が悪化していく疾患です。

摂食障害に属する疾患で、摂食障害には過食症の他にも拒食症(神経性無食欲症)があります。

過食症(食べ過ぎる)と拒食症(食べない)は一見すると正反対の疾患のように見えますが、実際は両者はある程度共通した病態だと考えられています。実際、過食症は元々拒食症であったものが過食症に移行したというケースが60~70%もあると言われており、両者は「拒食症⇔過食症」と移行しうる疾患になります。また拒食症・過食症問わず、摂食障害を持つ家系は同じように摂食障害を発症しやすいという傾向があります。

拒食症も過食症も、その根底にあるのは「太る事に対する過剰な恐怖(肥満恐怖)」です。肥満恐怖に対して「ひたすら食べない事」で対処しているのが拒食症であり、食べない事に耐えられず反動で過食してしまうのが過食症なのです。

過食症も「太ることが怖い」という気持ちが強くあるため、過食した後は必ず強い後悔と罪責感・「自分はダメだ」という自己評価の低下が生まれます。これによって過食症の方は大きく苦しむことになり、ひどい場合は二次的にうつ病を発症してしまったり、希死念慮や自殺願望が出現する事もあります。

また過食した分を取り戻そうとするため、過食後に口に指を突っ込んで無理矢理嘔吐しようとしたり(自己誘発性嘔吐)、下剤を大量に使ったり、無理な絶食をしようとしたり、明らかに過剰な運動をして痩せようとしたりします。

このような代償行為が見られるため、過食症の方は過食行為を繰り返していても表面上は体重は正常範囲内に保たれている事がほとんどです。

摂食障害は先進国に多い疾患です。これは先進国に共通する「若い女性は痩せている方が美しい」といった風潮が一因となっていると考えられています。このような社会的な観念が「太る事が怖い」という考えを作りやすくさせているのです。

また男性よりも圧倒的に女性に多い疾患で男女比は1:10~20と報告されています。

好発年齢としては10~30代の若い方に多い疾患で、特に20~30代の大学生や主婦の方に多く見られます。同じ摂食障害でも拒食症は10代の中学生・高校生の女の子に発症するケースが多く見られ、両者には好発年齢に違いがあります。

2.過食症の原因

過食症は、どのような原因で発症してしまうのでしょうか。

過食症は身体に何らかの異常があって食べ物を食べれないわけではなく、その原因は「精神(こころ)」にあります。

太る事への過剰な恐怖から食欲をコントロールできなくなってしまい、過食が生じます。更にその反動で嘔吐や下剤乱用・絶食・過剰な運動をしたりを繰り返すのが過食症です。

なぜ太ることへの恐怖が過剰になってしまうのでしょうか。またなぜ食欲をコントロールできなくなってしまうのでしょうか。

その原因は1つではなく、複数の原因が重なった結果として発症すると考えられています。原因は患者さんによって異なりますが、代表的なものを紹介させていただきます。

Ⅰ.ストレス

ストレスは過食症の主要な原因の1つです。

誰でもストレスは受けるものですが、ほとんどの方はストレスに対する適切な対処方法を自分で身に付けていきます。

ストレス解消法は人によって様々ですが、

  • 考え方を変えてみる
  • 運動でストレス発散する
  • 人に話すことでストレス発散する
  • 趣味に打ち込むことでストレス発散する

などが挙げられます。このように適切にストレスを解消する事で、私たちはストレスを受けても健康を損なう事なく生きていけるのです。

しかしストレスの対処が正しく行なえない場合、過食をしたり自傷をしたりといった誤ったストレス解消法を行ってしまう事があります。これらのストレス解消方法が間違っているのは、自分の身体を傷付ける方法だからというだけではありません。このようなストレス解消法は、ストレスを和らげる作用が一瞬しかないなく、その後はむしろ「また過食してしまった・・・」という自責感が強まり、かえってストレスが溜まってしまいます。

ストレス解消として行っている行為なのに、その行為がむしろストレスをためているため、どんどんストレスが蓄積していき状況が悪化していきます。

そのストレス解消として「過食」を続けた結果、過食症を発症してしまうケースは少なくありません。

Ⅱ.環境

摂食障害の発症原因として、環境の影響は大きいと考えられています。

これは「痩せた方が良い」「痩せるべきだ」という風潮がある環境に身を置いていると、摂食障害を発症しやすくなるという事です。

摂食障害の患者さんの多くは、先進国の若い女性(10代~30代)である事が知られていますが、これは先進国では「若い女性は痩せていた方が良い」という社会的な観念があることが一因です。テレビや雑誌で活躍している女性は、スリムで痩せている女性がほとんどです。また「ダイエット」や「痩せる」という類の広告は至るところで流されており、「若い女性は痩せることが正しい」と理解せざるをえないような環境です。

また摂食障害は近年、急激に増え続けている疾患です。特に過食症は急激に増えていることが指摘されています。先進国では1970年頃からダイエットブームが始まったとされていますが、摂食障害の増加もこの時期と一致します。また1980年頃になるとコンビニエンスストアの充実化などが整い、24時間いつでも気軽に食べ物を手に入れることが出来るようになりました。この時期も過食症が増え始めた時期と一致します。

この「女性は痩せている事が正しい」という観念と、いつでも食事を手軽に入手できてしまう環境が整ってしまったことは、過食症が生じやすい一因を作ってしまったことは否めません。

もちろん痩せることのすべてが悪いわけではありません。いつでも食事を手軽に入手できる事も素晴らしいことです。しかし、このような環境というのは過食症を発症しやすい一因であるのは事実なのです。

また親が肥満であったり、幼少期に肥満であったなどといった「肥満になりやすい環境」も発症原因の1つとも言われています。

Ⅲ.ダイエット

摂食障害が発症するきっかけとして最も多いのが「ダイエット」です。

中学生頃にダイエットをはじめ、そこから徐々に歯止めがきかなくなっていき、拒食症が発症したというケースは少なくありません。この拒食症から始まって、途中から過食症に移行するケースは多く認めます。

ダイエットのすべてが悪いというわけではありませんし、ダイエットをしたら全員が摂食障害になるわけでもありません。適度なダイエットは健康を促進する可能性もあります。ほとんどの女性は一度はダイエットを試みたことがあると思いますが、その中で摂食障害を発症するのは一部の方だけです。

ダイエットをすれば食べ物を制限するわけですから、当然食べ物への強い渇望が生まれます。この渇望に負けてしまうと、過食をしてしまう事があります。ダイエットを失敗してしまうと、自己嫌悪や罪責感から「自分はダメだ」と考えてしまい、さらに食べ物を我慢する力が失われていきます。すると、過食の悪循環にどんどんはまってしまいます。

また過食をしてしまうと、そこから砂糖依存症(sugar addiction)が引き起こされることがあります。過食の際に食べてしまうのは、砂糖などを多く含む「甘いもの」が多いのですが、甘いものには依存性があり、これらの過剰摂取は依存症と類似した状態を引き起こすのではないかと近年指摘されています。

Ⅳ.遺伝

実は摂食障害には遺伝も関係していると考えられています。

その根拠として、摂食障害の方の家族には、同様に摂食障害の方がいらっしゃる率が高いことが挙げられます。ある家系において高い確率で発症するということは遺伝性があるという事です。

これだけでは「家族は同じ環境で過ごしているから発症するのではないか」という環境要因の可能性も否定できませんが、更に摂食障害では双生児研究において遺伝性があることが確認されています。

双生児研究とは、双生児(双子)の疾患の発症率の差を見ることで遺伝性を評価する研究方法です。

双子には、一卵性と二卵性があります。一卵性というのは双子間の遺伝子はほぼ100%同じです。対して二卵性というのは双子間の遺伝子は50%程度しか共通していません。

ある疾患の遺伝性が強いかどうかを調べたいときは、一卵性と二卵性の発症率の差を見れば良いのです。その疾患の遺伝性が強ければ、一卵性では片方が発症すればもう片方も発症します。対して二卵性では片方が発症してももう片方は発症しないことがあります。

遺伝性が強いほど、双子の両方が疾患を発症する率は一卵性が二卵性と比べて高くなるはずです。対して遺伝性が低ければ、双子の両方が疾患を発症する率は、一卵性と二卵性で変わらなくなります。

双生児研究では、このように一卵性と二卵性の一致率の差から、遺伝性を評価することが出来るのです。

そして摂食障害における双生児研究では、同じ遺伝子を持っている一卵性双生児において有意に摂食障害の一致率が高いという報告があり、ここから摂食障害には遺伝も関係していると考えられます。摂食障害の原因における遺伝の割合は50~80%程度と言われています。

具体的な原因遺伝子はまだ特定されていませんが、研究が進められています。セロトニンやドーパミン、BDNF(脳由来神経栄養因子)に関連する遺伝子が原因になっているのではないかとも言われています。

Ⅴ.性格傾向

過食症の発症には性格傾向も影響しています。

過食症の発症リスクとして、一番重要なのが「自尊心の低さ」です。

これは、

  • 自分に自信がない
  • 自分に価値があると思っていない

といった性格傾向のことで、主に幼少期に機能不全家族で育ったアダルトチルドレンの方や、虐待を受けた方、親から十分な愛情を受けることが出来なかった方に多い性格傾向になります。

自己評価が低く、そのため自分の外見に対しても否定的に認識してしまう事が、肥満恐怖を更に強めてしまいます。

このようなストレスによって、気分が不安定になると、衝動のコントロールが出来なくなり、過食が生じやすくなります。すると更に自己評価が低下していくという悪循環に陥ってしまうのです。

また自尊心の低さから

  • 不安が強い
  • 心配性
  • 完璧主義

といった性格傾向も多く認めます。

摂食障害を発症する方は真面目で完璧主義だったり、優等生的な方も多いのですが、この背景にあるのは不安になります。自信が持てず、不安を常に抱えているため、親のいう事を聞く「良い子」であったり、何事も完璧にやろうとしたりするのです。

3.過食症では脳にどのような変化が生じているのか

過食症は、単なる食欲の問題ではありません。こころ(精神)の疾患であり、「脳の生物学的な異常による疾患」だと位置づけられています。

診断基準であるDSM-5やICD-10においても、「疾患」として診断基準が記載されています。

では、過食症の方の脳では、どのような異常が生じているのでしょうか。

実は、これはまだよく分かっていません。

現段階では、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの気分に影響を与える神経伝達物質が関与しているのではないか、レプチンなどの食欲を調整するホルモンに異常が生じているのではないかなど指摘されていますが、いずれも明確な証拠があるものではありません。