ブロバリン原末の副作用と対処法【医師が教える睡眠薬の全て】

ブロバリン原末(一般名:ブロモバレリル尿素)は1915年から発売されている非常に古い睡眠薬で、現在ではほとんど用いられていません。

使われていないのは単に古いからという理由だけではありません。ブロバリンは問題となるような副作用が多いため、極力用いるべきでない睡眠薬の1つなのです。

ここではブロバリンにはどのような副作用があるのか、副作用の問題点や対処法について紹介していきます。

1.ブロバリンの副作用の特徴

ブロバリンは1915年に発売された、極めて古い睡眠薬になります。発売から100年以上経っており、今となっては過去のお薬という位置付けです。

1900年代初めには睡眠薬がまだほとんどありませんでしたので、ブロバリンのような睡眠薬が使われていた事は仕方がありません。しかし、安全性の高い睡眠薬が多く開発されるようになった現在においては、ブロバリンはもはや不要なお薬と言っても良いでしょう。

その理由は、ブロバリンの副作用の危険性にあります。

ブロバリンは眠りを導く効果は、しっかりしています。効果だけを見ればそんなに悪いお薬ではありません。

しかし問題は副作用にあります。

ブロバリンは長期あるいは大量の服用を続ける事で、稀にではありますが命に関わるような副作用が生じる事があるのです。

ブロバリンは「ブロモバレリル尿素」という成分からなり、服用すると体内でブロム(Br)イオンになります。

このブロムイオンの血中濃度が高くなりすぎると「ブロム中毒」となり、様々な症状が出現します。最悪の場合では、命を落とすこともあります。また脳が萎縮してしまうという報告もあり、ブロム中毒によって慢性的な後遺症が残る事もあります。

実際、1900年代中半にはこの事実は広く知られるようになり、ブロモバレリル尿素を用いた自殺が流行しました。そのような背景があるため、現在アメリカではブロムワレリル尿素を含む医薬品は発売禁止となっているほどです。

ブロバリンを用いるべきではない一番の理由はここです。「眠れない」という症状は確かに辛いものですが、命の危険や後遺症のリスクを負ってまでお薬で解決すべきものではありません。

またブロバリンは耐性や依存性も認め、これも問題となります。

【耐性】
服薬を続けていくと、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。

【依存性】
服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。

ブロバリンの耐性や依存性は非常に強いというわけではありません。

耐性・依存性の強い睡眠薬としては「バルビツール酸系睡眠薬」がありますが、ブロバリンの耐性・依存性はバルビツール酸系と比べれば穏やかではあります。

しかし耐性・依存性を有するのは間違いなく、これは侮ってはいけません。

ブロバリンの使用を続けていると、徐々に耐性が生じます。耐性が生じたら以前と同じ満足度を得るためにはより多くのブロバリンを服用しなくてはいけなくなります。するとブロバリンの服用量が2倍、3倍・・・と増えていってしまいます。

こうなれば着実にブロム中毒に近づいていくわけです。

更に困ったことにブロバリンには依存性もあります。耐性が生じて、ブロバリンの使用量が増えて「これはまずい」とようやく気付いても、その頃には依存性が形成されているため、ブロバリンをなかなかやめることができない身体になっているのです。

そうこうしているうちにブロム中毒が発症してしまう、というのが最悪のパターンです。

これがブロバリンの問題点です。

簡単に言うとブロバリンハ眠る事は出来るお薬ですが、その代償リスクが高すぎるお薬なのです。このような理由からブロバリンは極力用いるべきではありません。

2.ブロバリンの副作用と対処法

どんなお薬でも、副作用は必ずあります。

中でもブロバリンは副作用が多く、またその程度も重篤なものが多く見受けられます。

ここではブロバリンで認められる主な副作用と対処法を紹介します。対処法は基本的には「ブロバリンを使わないこと」に尽きますが、それ以外にも患者さんに知っておいてほしい対処法も紹介していきます。

Ⅰ.ブロム中毒

ブロム中毒は、ブロバリンに含まれるブロムワレリル尿素の血中濃度が高くなりすぎた際に生じます。

一気に大量のブロバリンを服用すれば急性ブロム中毒となりますが、少量であっても長期間服用していると徐々に体内に蓄積されて慢性ブロム中毒になる事もあります。

急性ブロム中毒では、

  • ふらつき、しびれ、ふるえといった神経症状
  • 倦怠感
  • 嘔気
  • 意識障害

などといった症状が生じます。

また慢性ブロム中毒では、脳の萎縮が徐々に進み、

  • 大脳萎縮による認知機能低下
  • 小脳萎縮によるめまい、失調性歩行、ふるえ、呂律障害

などが認められる事があります。

急性ブロム中毒は、速やかに適切な治療を行えば後遺症が残らずに治ることもありますが、治療が遅れれば後遺症が残ったり、命の危険が生じる事もあります。また慢性ブロム中毒では脳の萎縮は基本的には治らないため、多くの場合で後遺症が残ってしまいます。

ブロム中毒にならないためには、まずはブロバリンを服用しないこと、服用してしまっている場合は主治医と相談して出来るだけ早く他の睡眠薬に切り替える事に尽きます。

やむをえない事情ですぐにブロバリンを中止できない場合は、服用量を出来るだけ少なくし、ブロム中毒が疑われる症状が出たら速やかに主治医に相談できるようにしておく事が大切です。

Ⅱ.呼吸抑制・血圧低下

ブロバリンが危険である理由は、「ブロム中毒」以外にももう1つあります。

ブロバリンは古いお薬であり、脳全体を鎮静させてしまうため、必要な生命活動のはたらきも抑えてしまう事があります。これによって時に重篤な副作用が生じる事があります。

具体的には、

  • 呼吸活動を抑えてしまい「呼吸抑制」が生じる
  • 心臓のはたらきを抑えてしまい「血圧低下」が生じる

などがあります。

これらも頻度が高い副作用ではないものの、生じた場合には命取りになる可能性があります。

眠っている時に呼吸が止まったり血圧が極端に低下してしまったら、誰にも気づかれずにそのまま命を落としてしまう事もありえるからです。

これらの副作用はブロバリンの量が多ければ多いほど生じやすいため、予防するためにはブロバリンを用いないか、用いるとしてもできる限り少ない量にする事です。

Ⅲ.耐性・依存性形成

睡眠薬には耐性・依存性を認めるものが少なくありません。

現在良く用いられている睡眠薬である「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」にも耐性・依存性はあります。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体に結合することで、催眠作用・筋弛緩作用などを発揮する。効果と安全性のバランスに優れるが長期使用による耐性・依存性に注意が必要
(代表薬:ハルシオン、レンドルミン、サイレース、ロヒプノール、ドラールなど)

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体のω1という部位に選択的に結合することで筋弛緩作用を起こしにくくし、ふらつきや転倒のリスクが減っている睡眠薬。耐性・依存性はベンゾジアゼピン系よりは軽いという報告もある。
(代表薬:マイスリー、アモバン、ルネスタ)

ブロバリンも多くの睡眠薬と同様に耐性と依存性があります。

ブロバリンの耐性・依存性はそこまで強くはありませんが、ブロバリン自体が危険な副作用の多い睡眠薬ですので、耐性・依存性の強さが高くないとしても決してあなどる事ができません。

耐性というのは、身体が徐々に薬に慣れてしまう事です。最初は普通の量を飲めばぐっすり眠れていたのに、だんだんと身体が慣れてしまい、同じ量を飲んでも全然眠れなくなってしまう、という状態です。耐性が形成されると必要なお薬の量がどんどんと増えてしまいます。

依存性というのは、次第にその物質なしではいられなくなる状態をいいます。依存性が生じると、そのお薬がなくなると落ち着かなくなり、お薬から離れることができなくなってしまいます。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。

アルコールにも耐性と依存性があります。

アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、次第に飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。また飲酒量が多くなると、常に飲酒していないと落ち着かなくなり、いつもアルコールを求めるようになります、これは依存性が形成されているという事です。

耐性はブロバリンの量を徐々に増やして大量服用になるリスクを高めます。依存性はブロバリンをやめられずに長期服用になるリスクを高めます。

大量服用も長期服用もブロム中毒を引き起こす要因になります。

このような理由から耐性・依存性のあるブロバリンは極力用いるべきではありません。睡眠薬が必要な状態であっても、ブロバリン以外の睡眠薬を選択することが望まれます。

またやむを得ずブロバリンを用いる場合は、必ず主治医の指示のもとで使用するようにし、勝手な増薬は絶対にしないようにしてください。勝手な増量は耐性・依存性の進行を早めてしまう事があります。。

睡眠薬で耐性・依存を形成しないためには、まず「必ず医師の指示通りに服用する」ことが鉄則です。アルコールも睡眠薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。医師は、なるべく耐性・依存性を起こしにくいように考えて処方をしています。それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、より急速に耐性・依存性が形成されてしまいます。

またアルコールとの併用も危険です。アルコールと睡眠薬を一緒に使うと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。

また、「漫然と飲み続けない」ことも大切です。睡眠薬はずっと飲み続けるものではなく、不眠の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです。時々、「睡眠薬の量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう睡眠薬が必要ない状態なのに漫然と長期間内服を続けてはいけません。

服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がるからです。

Ⅳ.眠気

当たり前ですが、睡眠薬は眠気を起こすお薬です。時にこれは副作用となってしまうことがあります。

寝る前に睡眠薬を飲んで、そのまま眠くなるのはブロバリンの「効果」ですから問題ないのですが、「朝、起きる時間になってもまだ眠い」「日中眠くて仕事に集中できない」となるとこれは問題で、副作用になります。

日中まで睡眠薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下なども生じます。

ブロバリンは薬効自体はそこまで長くはなく、だいたい4時間前後だと言われています。ブロバリンの半減期(お薬の血中濃度が半分に下がるまでにかかる時間)は2.5時間と短めなのですが、代謝物であるブロムの半減期は12日と非常に長いため、人によっては眠気を日中にまで持ち越してしまう事があります。

そのため人によっては日中に眠気を感じたりだるさ・ふらつきを感じる方もいます。

ブロバリンの服薬で日中に支障がある眠気・ふらつき・倦怠感などが出るようであればやはりブロバリンを中止し別の睡眠薬にすべきでしょう。

どうしても中止できない場合は、睡眠時間を増やせないか検討してみてください。睡眠時間が短いほど持ち越し効果は起こりやすくなりますので、睡眠時間をより確保できれば改善する可能性があります。

また、どうしてもブロバリンをすぐに変更できないという場合は、内服量を減らしてみるという方法もあります。効果も弱くなってしまいますが、量を減らすと一般的に薬効は多少短くなります。

Ⅴ.もうろう状態、一過性前向性健忘

ブロバリンを内服したあと、自分では記憶がないのに、歩いたり人と話したりと行動している事があります。

これは即効性に優れて強い効果を持つ睡眠薬で多く認められる副作用です。ブロバリンは服用してから血中濃度が最大になるまでには30分ほどであり、薬効自体も服用後20~30分程度で効果が現れ始めます。

即効性に優れるお薬であるため、もうろう状態や一過性前向性健忘が生じる可能性があります。

睡眠薬はまれに中途半端な覚醒状態にしてしまう事があり、この中途半端な覚醒状態が「もうろう状態」「一過性前向性健忘」の正体です。一般的には急激に効くお薬に多く、また多くの量の睡眠薬を内服しているケースで起こりやすいようです。

ブロバリンでこれらの症状が起こってしまったら、やはりブロバリンを中止して別の睡眠薬にしましょう。どうしても中止できない場合はブロバリンの量を減量しましょう。もちろんいずれも独断は危険ですので、主治医に相談して指示に従ってください。

3.ブロバリンを極力使うべきではない理由

前項までブロバリンの副作用をみてきました。

ブロバリンは副作用が多く、時に命に関わるような副作用が生じることがあるという事がご理解いただけたのではないでしょうか。特にブロム中毒や呼吸抑制は万が一でも生じてしまったら、取り返しのつかない事態になる可能性もあります。

古い睡眠薬であるブロバリンを極力使うべきではない理由はここにあります。

ブロバリンは特に入院中の重症患者さんに現在でも処方されている事があります。イソミタールとブロバリンを併用する「イソブロ」療法というのが昔に流行りました。この処方は、効果も強力であるため、現在でも難治性の不眠症患者さんに処方されている事があるのです。

確かに「眠れない」というのは非常につらい症状です。強いお薬を使ってでも治したい気持ちはとても良く分かります。

しかし「命に関わる副作用が生じるリスク」をとってまでして、治すものではないはずです。

現在は安全性の高い優れた睡眠薬が次々と発売されています。また睡眠薬以外の治療法として「睡眠衛生指導」や「睡眠への認知行動療法」などの手法も確立されてきており、睡眠薬に劣らずの効果があることが確認されています。

なるべくブロバリンは使わずに、このような安全性の高い治療法を上手に組み合わせて不眠を治していくようにしましょう。