ロナセン錠の副作用。ロナセンでよく見られる副作用、注意すべき副作用について

ロナセンは2008年に発売された抗精神病薬(統合失調症の治療薬)です。抗精神病薬の中でも第2世代(非定型)という新しいタイプに属し、古い第一世代(定型)と比べるとその副作用は少なくはなっています。

しかし副作用がないわけではありません。

ここでは、ロナセンで注意すべき副作用と、臨床で比較的見られやすい副作用について紹介させていただきます。

1.ロナセンの副作用の特徴

抗精神病薬は、大きく分けると2種類に分けられます。

1950年頃から使われている古いタイプである、第1世代(定型)抗精神病薬と
1990年頃から使われている比較的新しいタイプである、第2世代(非定型)抗精神病薬です。

第1世代は、強力な作用がありますが、副作用も強力なのが難点でした。そのため、副作用の軽減を目指して開発されたのが、第2世代です。

第2世代は、第1世代と比べると、

  • 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
  • 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用)
  • 悪性症候群(高熱、筋破壊で死に至ることもある危険な副作用)
  • 重篤な不整脈

などの副作用は少なくなりました。しかし、第1世代よりも身体をリラックスさせて代謝を抑制するため、

  • 血糖やコレステロールなどを上昇させる
  • それに伴い、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げる

などのデメリットがあります。

しかし総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられており、現在の統合失調症治療は、第2世代から始めることが基本となっています。

ロナセンは、第2世代(非定型)に属しており、第1世代(定型)と比べると、その副作用は全体的には少ないと言えます。第2世代の中にも抗精神病薬はいくつか種類があり、

  • SDA:セロトニン受容体とドーパミン受容体をしっかりとブロックする作用に優れる
  • MARTA:様々な受容体をゆるくブロックする
  • DSS:ドーパミン受容体を部分的にブロック、増強することによりドーパミン量を安定させる

この中でロナセンはSDA(セロトニン-ドーパミン拮抗薬:Serotonin Dopamine Antagonist)という種類に属します。

SDAはセロトニン2A受容体とドーパミン2受容体をブロックするはたらきに特に優れ、その他の受容体にはあまり作用しないおくすりです(アドレナリン1受容体にはやや作用します)。

統合失調症はドーパミンの過剰分泌が原因の一つだと考えられているため、ドーパミンを選択的にブロックしてくれるロナセンは効率よく統合失調症の症状を抑えてくれます。また、それ以外の余計なところに作用しにくいため、余計な副作用も少なくなっています。特にロナセンでは体重増加や眠気がほとんど起きず、これはロナセンの大きな利点になります。

しかし、ロナセンはドーパミン2受容体を強力にブロックしてくれますが、強力であるがゆえに時にブロックしすぎてしまうことがあり、これが副作用を起こしてしまうことがあります。

また、アドレナリン1受容体への影響はやや認め、これによって起立性低血圧によるふらつき、性機能障害(射精障害、勃起障害など)を起こしてしまうことがあります。

以上から、ロナセンの副作用の特徴として、下記のことが言えます。

  1. 第1世代と比べると全体的に副作用は軽め
  2. ドーパミンを遮断しすぎることで、ドーパミン欠乏の副作用が起こりやすい
    (具体的には、錐体外路症状(EPS)など)
  3. アドレナリン1受容体遮断によるふらつき、性機能障害は時に生じる
  4. その他の受容体には影響しにくいため、その他の副作用は少なめ
    (特に眠気や体重増加をほとんど起こさない)

2.ロナセンの副作用

それでは、ロナセンの副作用をひとつずつみていきましょう。おおまかにですが、起こりやすい副作用や特に注意すべきものの順に記載していきます。

また、一般的な対処法なども記載しますが、これらは独断では行わないでください。必ず主治医と相談の上、主治医の指示に基づいて慎重に行ってください。

Ⅰ.錐体外路症状(EPS)

統合失調症は脳のドーパミン過剰で発症すると考えられていますが、逆にお薬で脳のドーパミンを少なくしすぎてしまうと生じるのが、錐体外路症状です。

ロナセンのドーパミンをブロックする力は、抗精神病薬の中で最強だと言われており、そのためロナセンの錐体外路症状の頻度は、定型と比べると少ないものの非定型の中では多めになります。

ただしロナセンはドーパミン3受容体をブロックするというはたらきがあります。ドーパミン3受容体のブロックは、錐体外路症状を減らす方向に作用してくれると考えられているため、このおかげでロナセンの錐体外路症状は、多めではあるものの、他の抗精神病薬と比べて飛び抜けて多い、というほどではありません。

錐体外路症状には多くのものがありますが、

  • 振戦(手先のふるえ)
  • 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
  • アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
  • ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう)

などがあり、直接命に関わる副作用ではないものの、患者さんにとっては非常に苦痛な症状です。

これはロナセンがドーパミン受容体をブロックしすぎることで生じる副作用のため、特に高用量のロナセンを服用している場合に起きやすいと言えます。統合失調症では、ドーパミン2受容体を70~80%程度ブロックするのが一番理想的だと言われており、これを超えると錐体外路症状が起きやすくなると考えられています。

ロナセンでドーパミン2受容体ブロック率が70~80%ブロックになるのは、12mg~22mg程度だと報告されており、個人差はあるもののこれ以上のロナセンを服用している方では特に注意が必要です。また、他の抗精神病薬を併用していて総量が多くなっている場合でも同様です。

これらの副作用が生じた場合は、まずはロナセンの減薬が試みられます。

病状的にどうしても減薬ができない、というケースでは、錐体外路症状の少ない非定型抗精神病薬への変更も検討されます。具体的には、オランザピン(商品名:ジプレキサ)、クエチアピン(商品名:セロクエル)、アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)などが候補に挙がります。

抗コリン薬と呼ばれるおくすりで副作用の改善をするという方法が取られることもあります。具体的にはビペリデン(商品名アキネトン)やプロフェナミン(商品名パーキン)、トキヘキシフェニジル(商品名アーテン)などです。

抗コリン薬はアセチルコリン神経の活性を抑制してあげることで、ドーパミン神経の活性を相対的に上げるという作用を持ちます。するとドーパミン濃度が増えるため、錐体外路症状に効果があるのです。

ただし、お薬によって起こった副作用をお薬で治す、というのはあまり推奨されている方法ではありません。お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。

Ⅱ.高プロラクチン血症(乳汁分泌、性機能障害)

高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出るプロラクチンというホルモンの量が多くなってしまうという副作用です。ロナセンがこの副作用を起こす頻度は、定型よりは少ないですが、非定型の中ではやはり多めです。

原因は、ロナセンが脳下垂体のドーパミン受容体もブロックしてしまうためです。ドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまいます。

しかしロナセンは脂溶性(脂に溶けやすい)という特徴を持っているため、高プロラクチン血症の副作用はやや多めではあるものの、そこまで飛び抜けて多いわけではありません。お薬は脂溶性だと、脳に移行しやすくなります。ロナセンは脳に効いて欲しいお薬なので、効率よく脳に移行してくれると、必要な服薬量が少なめで済むのです。

プロラクチンとは、本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンです。授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。また男性であれば、勃起障害などが生じることもあります。

問題はこれだけではありません。一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。

そのため、高プロラクチン血症を発見したら放置せずに速やかに治療することが望まれます。

ロナセンで高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてロナセンを中止する必要があります。中止した上で、必要があれば別の抗精神病薬に変更しましょう。

Ⅲ.ふらつき

ロナセンは時にふらつきを起こします。

ふらつきが生じる機序はいくつかあります。ロナセンのヒスタミン受容体のブロック作用によって眠気が生じてふらつくこともあります。また、アドレナリン1受容体のブロックは血圧を下げてしまうため、これもふらつきの原因となります。

ロナセンは、ヒスタミン受容体へのブロック作用は弱いのですが、またアドレナリン1受容体をブロックする作用はそれなりに認めるため、時にふらつきが生じます。

これらの副作用がひどい時は、ロナセンの減薬・あるいは変薬を行います。

ふらつきはおくすりで改善する方法もあります。お薬としては昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)が用いられることがありますが、血圧を上げるお薬ですので、高血圧の方などは使用する際に注意が必要です。

Ⅳ.口渇、便秘(抗コリン作用)

アセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる、抗精神病薬の副作用です。抗コリン作用は、おくすりがアセチルコリン受容体に結合してしまうことで生じます。

口渇や便秘が代表的ですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。

ロナセンの抗コリン作用は弱めであり、これらの副作用の頻度は少なめです。

抗コリン作用への対応策としては

  • ロナセンを減量する
  • 他の抗精神病薬に変更する
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する

などの方法があります。
抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、

などが用いられます。

Ⅴ.体重増加

ロナセンは体重増加をほとんど起こしません。多くの精神科薬に太る副作用がありますので、太らないというのはロナセンの大きな特徴です。

体重増加は、精神科のお薬の中でも特に抗精神病薬で顕著です。これは抗精神病薬が、ヒスタミン1受容体、セロトニン2C受容体をブロックするためだと考えられています。また、抗精神病薬が代謝を抑制することで、糖やコレステロール濃度が上昇することも一因です。

体重増加は、抗精神病薬の中でも特にMARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれるおくすりに多く、具体的には、オランザピン(商品名:ジプレキサ)、クエチアピン(商品名:セロクエル)、クロザピン(商品名:クロザリル)が該当します。

ロナセンが属するSDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)は、ヒスタミン1受容体への影響は軽度であり、体重増加は少なめと言われています。中でもドーパミン受容体への選択性が高いロナセンは体重増加はほとんど起こしません。

抗精神病薬は、血糖やコレステロールを上げると報告されており、これは体重が増えること以外にも心筋梗塞や脳梗塞発症のリスクとなります。

統合失調症の患者さんは、そうでない人と比べて、心筋梗塞を発症する可能性が高いことが指摘されており、これは抗精神病薬にも一因があります。そのため、投与量はできる限り少量し、必要以上には投与しないことが望まれます。

ロナセンで体重増加が生じた時、まず望まれるのは生活習慣の改善です。食生活の偏りや運動不足など、太りやすい習慣がある場合は、まずそちらを是正することで体重の軽減ははかれないかを見ます。

それでも難しい場合は、減薬あるいは変薬です。

しかし抗精神病薬はどれもが太る副作用がありますので、変薬しても改善しないことが多くあります。

非定型の中ではロナセンの他に、アリピプラゾール(商品名エビリファイ)、ペロスピロン(商品名ルーラン)が比較的体重は増えにくいと言われています。

Ⅵ.眠気

眠気は、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。他にもアドレナリン受容体やセロトニン2受容体なども多少関与している考えられています。

ロナセンはヒスタミン受容体への影響はほとんどないため、眠気もほとんど起こしません。

眠気の副作用に対しては、まずは睡眠環境の見直しから行います。睡眠時間がしっかりとれているのか、睡眠の質を下げるようなことをしていないか、などを改めて見直しましょう。

寝床でスマホをいじってる、寝る前にタバコを吸っている、寝る前にアルコールを飲んでいる。

こういった習慣を持っている人は少なくありません。思い当たる原因がある場合は、まずはその習慣を治しましょう。

それでも改善が無い場合は、可能であればおくすりの減薬や変薬が検討されます。しかしどの抗精神病薬でも眠気は起きるため、変薬は慎重に行われます。また、どうしても減薬できない場合はやむを得ず多少の眠気と付き合っていきながら生活せざるを得ないこともあります。

Ⅶ.不整脈

稀ですが不整脈を起こすことがあります。

抗精神病薬の中でも古い第1世代に多く、ロナセンなどの第2世代では滅多に起きません。しかし、起きた場合は命に関わることもあるため見逃さないことが大切です。

服薬量が多いと起こしやすいため、服薬量は最小限になるように注意を払わないといけません。

特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です。これを放置していると致命的な不整脈(心室細動やトルサード・ド・ポアンツ)を起こす可能性があります。

抗精神病薬を使う際は、定期的に心電図検査を行い、QT延長を見逃さないようにしないといけません。そしてQT延長が認められた場合は、速やかに減薬あるいは変薬が必要です。

Ⅷ.悪性症候群

頻度は極めて稀ですが、抗精神病薬は悪性症候群という副作用に注意しなければいけません。

悪性症候群は、ドーパミン量の急な増減が誘因となることが多く、急な減薬・増薬によって生じることがあります。それ以外にも脱水などによって急にお薬の血中濃度が変化してしまった時に生じることがあります。

第1世代で問題となる事の多い副作用であり、第2世代ではほとんど生じませんが、可能性はゼロではありません。

悪性症候群では、

  • 発熱(高熱)
  • 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
  • 錐体外路症状(筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなる)
  • 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
  • 横紋筋融解(筋肉が破壊されることによる筋肉痛)

などが生じ、最悪の場合命に関わることもあります。

悪性症候群が強く疑われたら、原則として入院して加療すべきです。悪性症候群について詳しくは「悪性症候群って何ですか?」をご覧ください。

3.他の抗精神病薬とロナセンとの副作用比較

ロナセンの副作用を見てきましたが、他の抗精神病薬との比較をしてみましょう。

抗精神病薬EPS、高PRL体重増加ふらつき性機能障害眠気抗コリン作用
コントミン++++++++++++++++++++++
セレネース++++++++++++++
リスパダール++++++++++±
インヴェガ++++++±
ロナセン+++±±±±+
ルーラン++++++±
ジプレキサ+++++++++++++++++
セロクエル++++++++++++++
エビリファイ++±++±±

*EPS・・・錐体外路症状
*高PRL・・・高プロラクチン血症
*抗コリン作用・・・口渇、便秘など

コントミンとセレネースは第1世代、その他は第2世代の抗精神病薬です。

ロナセンは第2世代であるため、第1世代と比べるとその副作用は全体的に少なくなっています。

第2世代の中で比較すると、

  • 錐体外路症状はやや多め
  • 体重増加や眠気はほとんど認めない

ということが言えます。ただし、副作用の出方には個人差があるため、必ずこの通りになるわけではありません。