ベゲタミンの副作用と対処法【医師が教える睡眠薬の全て】

ベゲタミン錠(一般名:クロルプロマジン-プロメタジン-フェノバルビタール)はバルビツール酸系に属する睡眠薬です。

1957年に発売された古いお薬で、現在ではほとんど用いられていません。

ベゲタミンは副作用の多いお薬です。また副作用の程度も強力であるため、極力使うべきではないお薬になります。現在、使われていないのは単に古いからというだけではなく、この副作用の多さと強さが理由です。

ベゲタミンは危険な副作用が多いため、極力用いるべきでない睡眠薬の1つなのです。

ここでは、ベゲタミンにはどのような副作用があるのか、また副作用の問題点や対処法について紹介していきます。

1.ベゲタミンの副作用の特徴

ベゲタミンはバルビツール酸系に属する睡眠薬で、一番古いタイプの睡眠薬になります。

昔のその危険性があまり認識されておらず、また現在のように安全性の高い睡眠薬がなかったため、主に不眠症状を持つ方に用いられていました。しかし、次第にその危険性が知られるようになり、現在では用いられることは少なくなりません。

バルビツール酸系は単に副作用が多いというだけではありません。患者さんを苦しめるような危険な副作用が多いのです。

現在では、バルビツール酸系と比べれば安全性に優れた睡眠薬が多く開発されているため、バルビツール酸系は極力用いるべきではない睡眠薬になります。

バルビツール酸系の特徴を一言で言うと、

効果は非常に強力、でも副作用も非常に強力

だと言えます。

ベゲタミンも同様であり、眠らせる力は非常に強力である一方で、問題となる副作用も多く認めます。

ベゲタミンの副作用の問題は大きく3つあります。それは、

  • 耐性・依存性が強く、また急速に生じる
  • 大量に服薬すると呼吸停止などの危険な副作用がある
  • 急な増減薬にて悪性症候群などの重篤な副作用が生じうる

ということです。

【耐性】
服薬を続けていくと、徐々に身体がお薬に慣れていき、お薬の効きが悪くなってくること。耐性が形成されてしまうと、同じ効果を得るためにはより多い量が必要となるため、大量処方につながりやすい。

【依存性】
服薬を続けていくうちに、そのお薬を手放せなくなってしまうこと。依存性が形成されてしまうと、お薬を飲まないと精神的に不安定になったり、発汗やふるえといった離脱症状が出現してしまう。

ベゲタミンは非常に強力な催眠効果(眠りに導く効果)があるため、使用初期においては高い満足感が得られます。しかしそれは初期に限った話です。

ベゲタミンの使用を続けていると、すぐに耐性が生じます。耐性が生じたら以前と同じ満足度を得るためにはより多くのベゲタミンを服用しなくてはいけなくなります。するとベゲタミンの服用量は2錠、3錠・・・とどんどん増えていってしまいます。

バルビツール酸系は治療域と中毒域の近いお薬です。これは治療に適した血中濃度と、中毒となってしまう危険な血中濃度が近いということで、多く服薬すると危険なお薬だということです。専門的にはこのようなお薬のことを「治療指数が低い」と言い、ベゲタミンは治療指数の低いお薬になります。

つまり耐性が生じてベゲタミンの服用量が増えていくと、ベゲタミンの血中濃度は上がり、中毒域に入りやすくなっていくということです。そうなると重篤な副作用である呼吸停止や血圧低下、昏睡などが生じる危険性が高まります。

更に困ったことにベゲタミンには強力な依存性があります。耐性が生じて、バゲタミンの使用量が増えて「これはまずい」とようやく気付いても、その頃には依存性が形成されているため、ベゲタミンをやめることができなくなっているのです。

無理して止めようとすると、離脱症状が生じて発汗・震え・ソワソワ・イライラなどの症状に苦しむことになります。また、ベゲタミンに含まれる「クロルプロマジン(商品名:コントミン)」という抗精神病薬は、古いお薬であり急に増減薬すると悪性症候群などの命に関わる副作用が出現するリスクがあります。

これがベゲタミンの服用を止められなくなってしまう典型的な悪循環です。

簡単に言うと、

「満足感を得られるのは最初だけ。あとは非常に苦しむことになる。」

というのがバルビツール酸系なのです。

非常に強い催眠効果(眠らせる力)があるのは事実ですが、このような理由からベゲタミンは極力用いるべきではありません。

2.ベゲタミンの副作用と対処法

どんなお薬でも、副作用は必ずあります。

中でもベゲタミンは副作用が多く、またその程度も重篤なものが少なくありません。

ここではベゲタミンで認められる主な副作用と対処法を紹介します。対処法は基本的には「ベゲタミンを使わないこと」に尽きますが、それ以外にも患者さんに知っておいてほしい副作用や対処法も紹介していきます。

Ⅰ.耐性・依存性形成

睡眠薬には耐性・依存性を認めるものが少なくありません。

現在広く用いられている「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」「非ベンゾジアゼピン系睡眠薬」にも耐性・依存性はあります。

【ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体に結合することで、催眠作用・筋弛緩作用などを発揮する。効果と安全性のバランスに優れるが長期使用による耐性・依存性に注意が必要
(代表薬:ハルシオン、レンドルミン、サイレース、ロヒプノール、ドラールなど)

【非ベンゾジアゼピン系睡眠薬】
GABA-A受容体のω1という部位に選択的に結合することで筋弛緩作用を起こしにくくし、ふらつきや転倒のリスクが減っている睡眠薬。耐性・依存性はベンゾジアゼピン系よりは軽いという報告もある。
(代表薬:マイスリー、アモバン、ルネスタ)

ベゲタミンは、バルビツール酸系睡眠薬という種類になりますが、バルビツール酸系は耐性・依存性が強く、また急速に形成されます。ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系よりも非常に強力な耐性・依存性を認めるのです。

この耐性・依存性の強さはベゲタミンの大きな問題点です。

耐性というのは、身体が徐々にお薬に慣れてしまう事。最初は1錠飲めばぐっすり眠れていたのに、だんだんと身体が慣れてしまい、同じ量を飲んでも全然眠れなくなってしまう、という状態です。耐性が形成されると必要なお薬の量がどんどんと増えてしまいます。

依存性というのは、次第にその物質なしではいられなくなる状態をいいます。依存性が生じると、そのお薬がなくなると落ち着かなくなり、お薬から離れることができなくなってしまいます。

耐性も依存性もアルコールで考えると分かりやすいかもしれません。

アルコールにも耐性と依存性があります。

アルコールを常用していると、次第に最初に飲んでいた程度の量では酔えなくなるため、次第に飲酒量が増えていきます。これは耐性が形成されているという事です。また飲酒量が多くなると、常に飲酒していないと落ち着かなくなり、いつもアルコールを求めるようになります、これは依存性が形成されているという事です。

ベゲタミンは耐性・依存性形成が非常に強く、そのため極力用いるべきではありません。睡眠薬が必要な状態であっても、バルビツール酸系以外の睡眠薬を選択することが望まれます。

やむを得ずベゲタミンを用いる場合は、必ず主治医の指示のもとで使用するようにし、勝手な増薬は絶対にしないようにしてください。

睡眠薬で耐性・依存を形成しないために、「必ず医師の指示通りに服用する」ことは鉄則になります。アルコールも睡眠薬も、量が多ければ多いほど耐性・依存性が早く形成される事が分かっています。医師は、なるべく耐性・依存性を起こしにくいように考えて処方をしています。それを勝手に倍の量飲んだりしてしまうと、より急速に耐性・依存性が形成されてしまいます。

またアルコールとの併用も危険です。アルコールと睡眠薬を一緒に使うと、これも耐性・依存性の急速形成の原因になると言われています。特にベゲタミンはアルコールと併用すると中毒域に入ってしまう可能性もあるため、絶対に併用してはいけません。

また、「漫然と飲み続けない」ことも大切です。睡眠薬はずっと飲み続けるものではなく、不眠の原因が解消されるまでの「一時的な」ものです。時々、「睡眠薬の量を減らせないか」と検討する必要があり、本当はもう睡眠薬が必要ない状態なのに漫然と長期間内服を続けてはいけません。

服薬期間が長期化すればするほど、耐性・依存形成のリスクが上がるからです。

Ⅱ.呼吸抑制・血圧低下

バルビツール酸系が危険である理由は、「耐性・依存性」以外にももう1つあります。

それは治療域と中毒域が非常に近いことです。治療域というのは「この血中濃度が効果を得るにはちょうど良い」という濃度であり、中毒域というのは「この血中濃度になると危険な副作用が出やすくなる」という濃度のことです。

治療域と中毒域が近いことを「治療指数が低い」という言い方をしますが、治療指数が低いお薬は、危険性が高いお薬になります。

ベゲタミンは治療指数が低く、特に大量に服薬すると

  • 呼吸抑制・呼吸停止
  • 血圧低下、ショック
  • 体温低下
  • 昏睡

などの危険な副作用を生じる可能性があります。場合によっては命に関わるような重篤な状態になってしまう事もあり、これは大変に危険です。

このような理由もありベゲタミンは極力用いるべきではないのです。特に、病気の症状として自殺願望を認めている方には絶対に処方してはいけないお薬です。

ベゲタミンを服用していてこのような危険な副作用の徴候が出始めたら、すぐに主治医に相談して指示を仰いでください。医師の管理のもと、速やかにベゲタミンを中止する必要があります。

Ⅲ.悪性症候群

ベゲタミンはクロルプロマジン(商品名:コントミン)という成分を含んでいます。

クロルプロマジンは第1世代抗精神病薬と呼ばれ、1950年頃より使われるようになった統合失調症の治療薬です。統合失調症の症状を改善させる作用があります。

統合失調症の治療は、現在では第2世代抗精神病薬という新しいお薬が用いられるようになっており、クロルプロマジンのような古い第1世代が用いられることは少なくなっています。

第1世代の問題点は、やはり副作用が多い事です。頻度は多くはありませんが、時に命に関わるような重篤な副作用(重篤な不整脈や悪性症候群など)が生じることもあり、これが第1世代が使われなくなってきた一番の理由です。

このような重篤な副作用は

  • 抗精神病薬の服薬量が多い
  • 抗精神病薬を急に増減させる

と生じやすくなる事が知られています。

ベゲタミン中に含まれるクロルプロマジンは、

  • ベゲタミンA:クロルプロマジン25mg
  • ベゲタミンB:クロルプロマジン12.5mg

と多すぎるわけではありません。

しかし第1世代抗精神病薬であり、重篤な副作用が生じるリスクは低いながらもゼロではありませんので、一応の注意は必要です。

悪性症候群の代表的な症状には、

・高熱
・意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
・錐体外路症状(筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなる)
・自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
・横紋筋融解(筋肉が破壊されることによる筋肉痛)

などがあります。このような徴候を認めたら、すぐに主治医に相談して指示を仰いでください。特にお薬を急に増減薬した後に生じた場合は要注意です。

悪性症候群であった場合、命に関わることもあるため原則として入院の上治療が行われます。

Ⅳ.眠気

当たり前ですが、睡眠薬は眠気を起こすお薬です。時にこれは副作用となってしまうことがあります。

寝る前に睡眠薬を飲んで、そのまま眠くなるのはベゲタミンの「効果」ですから問題ないのですが、「朝、起きる時間になってもまだ眠い」「日中眠くて仕事に集中できない」となるとこれは問題で、副作用になります。

日中まで睡眠薬の効果が残ってしまう事を「持ち越し効果(hang over)」と呼びます。眠気だけでなく、だるさや倦怠感、ふらつき、集中力低下なども生じます。

ベゲタミンは半減期が37~133時間であり、長時間にわたり血中に留まるお薬です。半減期とはお薬の血中濃度が半分に落ちるまでの時間で、お薬の作用時間の1つの目安になる値です。

半減期が長めで、症例によって大きな差があるため、人によっては日中に眠気が持ち越してしまう事もあります。そのため人によっては日中に眠気を感じたりだるさ・ふらつきを感じる方もいます。

ベゲタミンの服薬で日中に支障がある眠気・ふらつき・倦怠感などが出るようであれば、やはりベゲタミンを中止し別の睡眠薬にすべきでしょう。出来るだけバルビツール酸系から他の睡眠薬への切り替えを検討してみましょう。

どうしても中止できない場合は、睡眠時間を増やせないか検討してみてください。睡眠時間が短いほど持ち越し効果は起こりやすくなりますので、睡眠時間をより確保できれば改善する可能性があります。

また、どうしてもベゲタミンをすぐに変更できないという場合は、内服量を減らしてみるという方法もあります。例えば、ベゲタミンA配合錠よりもベゲタミンB配合錠の方が、含有されているお薬の量が少ないため、まだベゲタミンB配合錠の方がましになります。効果も弱くなってしまいますが、量を減らすと一般的に薬効は多少短くなります。

Ⅴ.もうろう状態、一過性前向性健忘

ベゲタミンを内服したあと、自分では記憶がないのに、歩いたり人と話したりと行動している事があります。

これは即効性に優れて強い効果を持つ睡眠薬で多く認められる副作用で、ベゲタミンでも時に認めます。

睡眠薬はまれに中途半端な覚醒状態にしてしまう事があり、この中途半端な覚醒状態が「もうろう状態」「一過性前向性健忘」の正体です。一般的には急激に効くお薬(超短時間型)に多く、また多くの量の睡眠薬を内服しているケースで起こりやすいようです。

ベゲタミンでこれらの症状が起こってしまったら、やはりベゲタミンを中止して別の睡眠薬にしましょう。どうしても中止できない場合はベゲタミンの量を減量しましょう。もちろんいずれも独断は危険ですので、主治医に相談して指示に従ってください。

3.ベゲタミンを極力使うべきではない理由

ベゲタミンの副作用をみてきました。

ベゲタミンの副作用は頻度は少ないとはいえ、時に命に関わるような副作用が生じることがあるのです。

ベゲタミンをはじめとしたバルビツール酸系を極力使うべきではない理由はここにあります。

ベゲタミンは重症の不眠症の患者さんに現在でもしばしば処方されている現状があります。確かに「眠れない」というのは非常につらい症状です。強いお薬を使ってでも治したい気持ちはとても良く分かります。

しかし「命に関わる副作用が生じるリスク」をとってまでして、治すものではないはずです。

現在は安全性の高い優れた睡眠薬が次々と発売されています。また、睡眠薬以外の治療法として「睡眠衛生指導」や「睡眠への認知行動療法」などの手法も確立されてきており、睡眠薬に劣らずの効果があることが確認されています。

なるべくベゲタミンは使わずに、それ以外の方法で不眠を治していくようにしましょう。