醜形恐怖症ではどのような症状が生じるのか

醜形恐怖症(身体醜形障害)は、自分の容姿を過剰に低く評価してしまう疾患です。一般的に見れば問題のない外見であるにも関わらず「自分は醜い」と考えてしまいます。

醜形恐怖症は、いくつかの特徴的な症状があります。大切な事は、それぞれの症状にどのような心理背景によって生じているのかを知る事です。背景を理解することで、疾患を深く知り、正しい治療につなげていく事が出来るようになります。

症状が生じている背景というのは、発症している本人すらも理解できていない場合があります。「自分の症状はこういった気持ちから生じているんだ」と自己分析できるようになるとそれだけで疾患を克服しやすくなります。

今日は醜形恐怖症で生じる症状にはどのようなものがあり、それぞれどのような背景で生じているかについてお話します。

1.醜形恐怖症の代表的な症状

醜形恐怖症の症状について、まずは代表的な症状と、そのような症状が生じる機序について簡単に説明させていただきます。

醜形恐怖症は、自分の容姿について明らかに低すぎる評価をしてしまいます。醜形恐怖症を発症する方のほとんどは、通常の容姿であったりむしろ整った容姿である事が多いのですが、にも関わらず「自分は醜い」と評価してしまいます。

(なぜそのような評価をしてしまうようになるのかは「醜形恐怖症はどのような原因で生じるのか」をご覧ください)

本来は問題のない容姿であるにも関わらず、それを正しく認識できない事は「ボディイメージの障害」と呼ばれる症状になります。醜形恐怖症の方は自己評価の低下から、自己の容姿(ボディイメージ)を正しく評価出来なくなります。

ボディイメージが障害され、「自分は醜い」「自分の容姿は恥ずかしい」「自分は皆から笑われている」と感じるようになると、次に生じるのは「過剰な確認行動」と「過剰な比較行動」になります。

自分は醜いと悩んでいると、「自分の顔はおかしいのではないか」と何度も何度も鏡などを見て確認するようになります。その時間も長時間となり、一日の大半を確認行動に費やすこともあります。周囲からすると「そんなに何度も鏡を見ても意味がないのに」と感じられますが、本人は確認しないと不安で不安で仕方がないのです。

また「自分は他の人と比べておかしくないか」という事も気になって仕方がなくなるため、何度も何度も自分と他者を比較するようになります。

比較も客観的な比較であればまだ良いのですが、主観的な比較であり、「自分はあの人と比べて顔の形が整っていない、やっぱりおかしいのだ」とあくまでも本人にしか理解できないような結論を出し、それにより更に症状は増悪していきます。

このように長期間「自分は醜い」という悩みを抱え続けていると、次第に人と接する事が怖くなっていきます。すると自宅に引きこもりがちになってしまったり、日常活動が行えなくなったりしてきます。

あるいは「この醜さは手術で治すしかない」と考え、本来であれば不要な美容外科手術を繰り返すこともあります。しかしほとんどのケースにおいて手術をしても症状が落ち着くことはありません。なぜならば容姿の醜さは本来はなく、問題は自分の自己容姿に対するとらえ方であるためです。

美容外科手術をして一時的には満足したとしても、しばらく経てば「手術してもやはり醜い」となったり、今度は容姿の別の部位を醜いと感じるようになって同じように悩む事を繰り返します。

醜形恐怖症ではこのような症状が認められます。

では次に、醜形恐怖症の各症状を一つずつ掘り下げてみていきましょう。

2.ボディイメージの障害

醜形恐怖症の方に認められる代表的な症状に、「ボディイメージの障害」があります。

これは自分の容姿に対する認識を正しく行なえなくなってしまうという事です。

客観的にみれば醜いどころかむしろ整った・魅力的な外見であったとしても、「自分は醜い」と自分の容姿に対して誤った認識をしてしまうのです。

醜形恐怖症における容姿の認識が正しく出来ないという症状は、「自分」のみに向けられているという特徴があります。

例えば自分と同じような容姿の別の人がいたとして、その人の容姿を評価させると「問題ない」と評価します。しかし自分の容姿を評価させると「醜い」という評価になってしまうのです。

つまり醜形恐怖症のボディイメージの障害というのは、「見え方がおかしくなっている」といった視覚の問題ではないという事です。もしそのような理由であれば自分に限らず他の人に対する容姿の評価も低下するはずです。

醜形恐怖症に特徴的な自分のみに限局されたこの症状は、視覚的な異常ではなく、「自分の容姿に自信がない」という精神的な不安から生じます。

醜形恐怖症はどのような原因で生じるのか」で醜形恐怖症が発症する原因について説明していますが、このように自分の容姿への自信を失うような出来事が重なった結果、「自分の容姿に自信がない」⇒「自分の容姿はおかしいのではないか」⇒「自分の容姿はおかしいに違いない」と不安が歪んだ確信に変わっていくのです。

自分の容姿のどこを「醜い」と感じるかは患者さんによって異なりますが、

  • 髪の毛
  • 鼻の形
  • 皮膚の性状

などが多く認められます(これ以外でも容姿のあらゆる部位で生じる可能性があります)。

このボディイメージの障害は、客観的な評価とあまりにかけ離れているため(明らかに魅力的な外見の方が自分の事を「醜い」と評価したりする)、周囲は驚きます。

「そんな事ないよ」
「〇〇ちゃんはすごくかわいいよ」

このように伝えますが、このような説得で症状が改善する事はまずありません。

なぜならばこのボディイメージの障害は、「自分の容姿の自信のなさ」という不安からきているからです。表面的に「あなたは醜くない」と事実だけを伝えても症状は治す事は出来ません。

この症状を改善させるには、根本にある自分の容姿の自信のなさに対するアプローチが必要になります。

具体的には、昔に容姿を否定されるような経験をしてから自分の容姿に自信がなくなったのであれば、その体験を振り返り、本人に自分の容姿を否定されるような事だったのか、相手の言葉は本当に事実性があるのかなどを冷静に振り返っていく必要があります。

また、子供のころに自尊心が育たなかったために自己評価が低下しているのであれば、自尊心が育たなかったからこの症状が生じているのだという事を理解し、今から自尊心を高めるためにはどうすればいいのかを考えていきます。

いずれも簡単に行える治療ではなく、本人の精神状態を見ながら少しずつ地道に行っていく必要があります。

3.繰り返し行動や比較行動

「自分は醜いから周囲から笑われているのではないか」

このような考えを持つようになると、自分の容姿を何度も確認するようになります。

何度も何度も鏡を確認し、その都度「自分のここがおかしい」と感じ、その度に絶望的になります。鏡をみても何も解決しない事は分かってはいても、気になってつい見てしまうのです。そしてまた落ち込んでいくという悪循環に陥ります。

また周囲と自分を常に比較するようになります。

最近では雑誌やTVなどで簡単にモデルなどを見ることが出来ますので、このような最高に整った容姿を持つ人を自分を比較し、「やっぱり自分は醜い」と更に落ち込んでいくこともあります。

症状が重くなると、一日の大半をこの確認行動・比較行動に費やすようになり、生活へ支障を来すようになります。

4.社会活動の障害(引きこもり)

上記のようにボディイメージの障害から、頻回な確認行動・比較行動が続けば、次に生じるのは「このままの醜い自分では人前に出られない」という気持ちです。

次第に学校を休みがちになったり、外出の頻度が少なくなっていきます。多くの人に注目される可能性がある場所は特に避けるようになります。ひどい場合だと自分の部屋から出られなくなってしまう事もあります。

学校を休みがちになってしまうと、授業にもついていけなくなってしまい、進学・就職にも支障を来す可能性があります。学校は社会性を学ぶ場所でもありますので、コミュニケーション能力などの社会的能力が十分に育たない可能性も出てきます。

「自分は醜い」という気持ちから社会的な活動が低下すると、本人の将来にも不利益が生じるようになってしまうのです。

5.不要な美容手術

ボディイメージの障害から、「このままの醜い自分では人前に出られない」という気持ちが生じると、前項のように社会活動が低下するという症状の他、「手術で容姿を治そうとする」という方法を取る方もいらっしゃいます。

醜形恐怖症の方は美容皮膚科・美容外科を訪れることも多く、「手術でこの部位を治したい」と医師に強く訴えます。

しかし美容外科医も元々整っている部位の手術を希望されるわけですから困ってしまいます。「手術の必要はありません」と断られてしまう事もあります。

仮に手術してもらったとしても、ほとんどのケースで症状の改善は得られません。手術後の一時は症状が落ち着くこともありますが、ほぼ例外なく「やはり手術しても醜い」と感じるようになったり、今度は別の部位に対して「醜い」と感じるようになったりします。

これは当然の事で、病気の本質は「容姿の醜さ」にあるわけでなく、「自分の容姿への自信のなさ」という不安にあるわけですので、表面的な容姿を手術で治しても症状が改善するわけがありません。

結局身体の一部分の醜さを手術で治そうとしても、病気の改善は得られないのです。