トリプタノールの副作用【医師が教える抗うつ剤のすべて】

トリプタノールは1961年に発売された抗うつ剤で三環系という種類に属します。

三環系は古いおくすりのため、作りが荒く、「効果も強いが副作用も強い」という特徴があります

そのため、現在では最初から使われることは少なく、難治性などの場合に限り検討されます。

トリプタノールは、三環系の中でも特に効果が強いと言われているおくすりです。それはつまり、副作用も目立つということであり、使用の際は、慎重に副作用に注意しなければいけません。

ここではトリプタノールの副作用や他の抗うつ剤との比較などを説明していきます。

1.トリプタノールの副作用

トリプタノールの副作用は、

  • 副作用が多いと言われる三環系の中でも、特に副作用が多い
  • 眠気、ふらつきなどの鎮静的な副作用、体重増加が強く出やすい

という特徴があります。

副作用の種類としては、他の三環系と同じようなものがほとんどで、

  • 口渇、便秘、尿閉  (抗コリン作用)
  • ふらつき、めまい  (α1受容体遮断作用)
  • 眠気、体重増加   (抗ヒスタミン作用) ←トリプタノールで特に多い

などが多く認められます。

また、

  • 性機能障害 (α1受容体遮断作用、セロトニン2A刺激作用)
  • 吐き気  (セロトニン3刺激作用)
  • 不眠   (セロトニン2刺激作用)

なども時折出現します。

その他、頻度は少ないものの気を付けないといけない副作用に「不整脈」があります。
起こることは稀ですが、致命的な不整脈に至ることもあり、
三環系を使っている場合は必ず定期的に心電図評価をしなければいけません。

では、それぞれをより詳しくみてみましょう。

1.便秘、口渇(抗コリン作用)

抗コリン作用とは、アセチルコリンという物質の働きをブロックしてしまうことで生じる、
抗うつ剤の代表的な副作用です。

口渇や便秘が有名ですが、他にも
尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。

抗コリン作用は三環系(アナフラニール、トフラニール、トリプタノール、アモキサンなど)で多く認められ、
四環系(ルジオミール、テトラミドなど)でもまずまず認められます。

三環系の中ではトリプタノールとアナフラニールは多く、トフラニールがそれに続き、
アモキサンはやや少なめです。

他の抗うつ剤と比べてみると、

SSRIは、三環系・四環系と比べると大分少なくなっていますが、全く出ないわけではありません。
パキシルやルボックス/デプロメールでは比較的多く、レクサプロとジェイゾロフトは少ないようです。

SNRI(トレドミン、サインバルタ)も抗コリン作用は少なめです。

抗コリン作用が弱い抗うつ剤としては、 Nassa(リフレックス/レメロン)やドグマチールなどがあり、
これらはほとんど抗コリン作用を認めません。

抗コリン作用がつらい場合は、これらのお薬に変更するのも手になります。

抗コリン作用への対応策としては

  • 抗コリン作用がより少ない抗うつ剤に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 抗コリン作用を和らげるお薬を併用する

などの方法があります。
抗コリン作用を和らげるお薬として、

  • 便秘がつらい場合は下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)、
  • 口渇がつらい場合は漢方薬(白虎加人参湯など)、

などが用いられます。

2.ふらつきやめまい(α1受容体遮断作用など)

これは抗うつ剤がα(アドレナリン)1受容体という部位を遮断し、
血圧を下げてしまうために起こる副作用です。

これも三環系や四環系で多く、SSRIでは大分軽減されています。
トリプタノールは特にこの副作用を多く認めますので気を付けてください。

他の抗うつ剤と比べると、

Nassaはα1受容体遮断作用は弱いのですが、抗ヒスタミン作用というものがあり、
これが眠気を引き起こすため、ふらつきめまいはまずまず認めます。

デジレルもα1受容体遮断作用は強くないものの、5HT(セロトニン)2A受容体という
神経興奮をさせる受容体を遮断するため、ふらつきやめまいが時に生じます。

SSRIも、めまい・ふらつきを起こす可能性はありますが、
三環系・四環系よりは大分軽減されており、また上記のNassaやデジレルよりも
少なくなっています。

SNRI(サインバルタ、トレドミン)は、ノルアドレナリンに作用することで逆に
血圧を上げる働きもあるため、めまいやふらつきが起こる頻度は少ないようです。

ふらつき、めまいがつらい場合も、

  • ふらつき、めまいの少ない抗うつ剤に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • α1受容体遮断作用を和らげるお薬を試す

などの方法がとられます。

お薬としては昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)が用いられることがありますが、
血圧を上げるお薬ですので、高血圧の方などは使用する際に注意が必要です。

これらはα1受容体を刺激することで血圧を上げます。

 3.眠気(抗ヒスタミン作用)

眠気はほとんどの抗うつ剤に起こりうる副作用です。
抗うつ剤は脳をリラックスさせるのが働きですから、当然と言えば当然かもしれません。

トリプタノールは鎮静なはたらきが強いため、
眠気は特に強く出る可能性があります。

他の抗うつ剤と比べてみると、

眠気が強いものとして、「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれる抗うつ剤があり、これらは強く眠気が出ます。
Nassaや四環系、デジレルなどが該当します。
鎮静系抗うつ剤は眠気の強さを逆手にとって、睡眠薬として利用されることもあるほどです。

これらはトリプタノールに負けないくらいの眠気が出る可能性があります。

鎮静系ではないSSRIやSNRIは、眠気の頻度は少なめです。
パキシルとルボックス/デプロメールはやや多いですが、
ジェイゾロフトやレクサプロ、そしてトレドミンやサインバルタの眠気は軽いことが多いです。

三環系抗うつ剤は、鎮静系ほどの眠気はありませんが、
SSRI/SNRIよりは眠気は出やすいようです。
(三環系の中ではトリプタノールが特に眠気が強く、アモキサンはやや少なめです。)

眠気への対処法としては、

  • 眠気の少ない抗うつ剤(ジェイゾロフト、サインバルタ等)に変更する
  • 抗うつ剤の量を減らす
  • 睡眠環境を見直す

などがあります。

4.不眠(セロトニン2刺激作用)

SSRIやSNRIは深部睡眠(深い眠り)を障害するため、不眠となる事があります。

この副作用はセロトニンに選択的に作用するSSRIやSNRIで多く認められ、
次いで三環系にも時々認められます。

反対に、四環系やデジレル、Nassaなどの鎮静系坑うつ剤は、
深部睡眠を促進するため、眠くはなるけど深い眠りを導いてくれます。
そのため、不眠はほぼ認めません。

不眠で困る場合は、服薬を朝食後などに変えると改善することがあります。

薬の量を減らせそうなら、減らすのも手です。

それでも改善が得られない場合は、鎮静系抗うつ剤に変えたり、
少量の鎮静系抗うつ剤を上乗せすると改善することもあります。

4.性機能障害(セロトニン2A刺激作用、α1受容体遮断作用)

勃起障害や射精障害と言った性機能障害もSSRI、SNRIに多い副作用です。
この原因は詳しくは分かっていませんが、セロトニンが関与していると言われています。
また、α(アドレナリン)1受容体をブロックすることも関係していると考えられています。

デジレルは他の抗うつ剤に見られる勃起不全や射精障害だけではなく、
「持続勃起」という勃起が長く続いてしまうという
他の抗うつ剤とは違った性機能障害を稀に認めますので注意が必要です。

三環系でも性機能障害は起こしますが、SSRI、SNRIほどではありません。
四環系やNassaは、性機能障害をほとんど起こしません。

具体的な対処法としては、抗うつ剤の減量あるいは変薬になります。

6.体重増加(抗ヒスタミン作用)

体重増加は眠気と同じく、主に抗ヒスタミン作用で生じるため、
眠気の多いお薬は体重も増えやすいと言えます。

Nassaに多く、三環系やパキシルもそれに続きます。
三環系の中ではトリプタノールが特に体重増加作用を多く認めます。

運動や規則正しい食事などの生活習慣の改善で予防するのが一番ですが、
それでも十分な改善が得られない場合は、他剤に変更するもの手になります。

体重を上げにくいという面でいえば、ジェイゾロフトやサインバルタなどが候補に挙がります。

7.吐き気(セロトニン3刺激作用)

吐き気もSSRIやSNRIに多い副作用です、

これは、胃腸にもセロトニン受容体が存在するために起こる副作用です。
胃腸にはセロトニン3受容体が分布しており、抗うつ剤の内服によってこの受容体が刺激されることで、
吐き気が起きます。

SSRIやSNRIはすべて、吐き気を高頻度で起こしますが、三環系ではあまり起こしません。

8.不整脈

三環系抗うつ薬の副作用で一番怖いのが不整脈です。
滅多に起きませんが、起きた場合は命に関わることもあります。

内服量が多いほど起きやすいため、間違っても三環系を過量服薬してはいけません。

具体的には、QT延長という心電図上の変化が起きる可能性があり、これを放置してしまうと
致命的な不整脈(心室細動やトルサード・ド・ポアンツ)に至ることがあります。

三環系を使う際は、定期的に心電図検査を行い、QT延長を見逃さないようにしないといけません。
そしてQT延長が認められた場合は、速やかに抗うつ剤の減薬あるいは変更が必要です。

2.トリプタノールの副作用 -他抗うつ剤との比較-

トリプタノールの副作用をザッと説明してきました。
他剤との比較を表にまとめると、このようになります。

抗うつ剤口渇,便秘等フラツキ吐気眠気不眠性機能障害体重増加
トリプタノール++++++±+++-++++
トフラニール+++++±++++++
アナフラニール++++++++++++
テトラミド++-++--+
デジレル/レスリン++-++-+++
リフレックス-++-+++--+++
ルボックス/デプロメール++++++++++
パキシル+++++++++++++
ジェイゾロフト±+++±+++++
レクサプロ++++±+++++
サインバルタ+±++±++++±
トレドミン+±++±+++±
ドグマチール±±-±±++

トリプタノールの副作用は、他剤と比較すると、

  • 全体的に副作用は多め
  • 眠気、ふらつき、体重増加が特に多い

と言えます。

副作用だけを見ると他の抗うつ剤よりも多いため、悪いおくすりのように見えてしまうかもしれませんが、
そんなことはありません。

副作用が多いのは事実ですが、トリプタノールは強力な抗うつ効果を持ちます。
抗うつ効果は抗うつ剤の中で「最強」と評価する専門家もいるくらいです。

他の抗うつ剤をいくら使っても、なかなか治らない難治性の方が、
「トリプタノールだけは効いた!」ということがあります。

その方にとってはトリプタノールはまさに救世主ですよね。

トリプタノールは、

効果も非常に強いかわりに副作用も多い抗うつ剤

と言うおくすりなのです。