アスペルガー症候群は遺伝するのか?

アスペルガー症候群は、主に対人コミュニケーションの障害や強いこだわりが問題となり、病院を受診します。

先天性(生まれつき)のものであるため、小児期に疑われた場合は親とともに来院されることが多いのですが、その際に「これは遺伝なのですか?」と両親から質問されることが多くあります。

アスペルガー症候群をはじめとする自閉症スペクトラム障害は、先天性という事もあり、「遺伝した」と考えられやすい傾向にあります。すると親は「私のせいで発症してしまった」と自責に駆られてしまうようです。また、「子どもがアスペルガー症候群という事は、私もそうなのではないか」と心配される親御さんもいらっしゃいます。

しかし本当にアスペルガー症候群は遺伝するのでしょうか?遺伝だけが発症の原因なのでしょうか?

今日はアスペルガー症候群と遺伝について考えてみましょう。

1.遺伝するが、親が原因だとは言えない

アスペルガー症候群は、自閉症スペクトラム障害に属する疾患です。自閉症スペクトラム障害は、その発症原因として「遺伝」も1つの要素として考えられてはいます。

実際、自閉症スペクトラム障害の発症は、二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が双生児一致率が高い事が報告されています。二卵性双生児よりも一卵性双生児の方が同じ遺伝しを持って生まれてきますので、一卵性双生児でどちらも自閉症スペクトラム障害を発症する率が高いということは遺伝の影響があるという事です。

しかし自閉症スペクトラム障害の原因となる遺伝子は、ある特定の1つの遺伝子ではなく、おそらく数百以上の多くの遺伝子があり、それらを一定以上認めるとこで発症するという多遺伝子的な原因であると考えられています。

おそらくほとんど全ての人が自閉症スペクトラム障害の原因となりうる遺伝子をいくつかは持っています。それがたまたま多く重なってしまえば発症する可能性はあり、これは「誰の子供であっても子供に自閉症スペクトラム障害が生じる可能性はある」という事です。

しかし一卵性双生児であっても片方はアスペルガー症候群を発症し、もう片方は発症しない事もあります。同じ両親から生まれた子であっても、長男はアスペルガー症候群を発症したのに、次男は発症しなかったという事もよくあることです。

ここから考えると、遺伝というのは1つの要素にしか過ぎないことが分かります。

つまり、自分の子供がアスペルガー症候群だからといって、自分も必ずアスペルガー症候群であるという事にもなりませんし、自分の子供がアスペルガー症候群だからといって、「私が産んだから悪いんだ・・・」と責める必要もないのです。

2.アスペルガー症候群は男児に多いという事実

アスペルガー症候群をはじめとした自閉症スペクトラム障害は、男児に圧倒的に多いことが知られています。具体的な男女比は、

男性:女性=4:1

と言われています。

男女差があるという事は、これも自閉症スペクトラム障害に遺伝性があるという事を疑う1つの根拠になります。

3.では、何かアスペルガー症候群の原因なのか?

アスペルガー症候群をはじめとした自閉症スペクトラム障害は、その発症の原因の1つとして、「遺伝」が関係している可能性はあることをお話しました。しかしこれは発症要素の1つに過ぎません。

では他にどのような原因が考えられるでしょうか。

自閉症スペクトラム障害の発症原因というのはまだ明確には特定されていないため、「こうすると発症します」というものはありませんが、現時点で考えられるものとして、

・原因なく特発性に生じる
・妊娠中に何らかの異常が生じる
・出産時に産道を通る際などに何らかの異常が生じる
・幼少期の環境によって生じる

などが言われています。しかしどれも「そうかもしれない」という程度のものにしかすぎません。

4.育て方の問題でもない

少し話が脱線しますが、「アスペルガー症候群は遺伝でしょうか」という質問と同様によく聞かれる質問があります。それは、「親の育て方が悪かったから発症したのでしょうか」という質問です。

結論から言うと、親の育て方は発症には全く関係がありません。

「私の育て方が悪かったのでは・・・」と責任を感じられているご両親は多くいらっしゃるのですが、そんなことは全くありません。

「親の育て方が悪いと子どもがアスペルガー症候群になる」という誤解はいまだ根強く残っていますが、これは否定されている事です。

そもそもこの誤解は、自閉症の提唱者であるカナーという医師が昔、自閉症の親について「保護者は強迫的で冷たい」と記載したことが発端となっています。これが大きく取り上げられ、「自閉症は親の原因だ」「親の愛情不足で自閉症になる」という誤解が一時期広がってしまいました。

しかし1960年頃には統計学的な調査から、「自閉症発症児とそうでない児において、両親の育て方に差はない」という事が確認されています。

現在では両親の育て方の影響は否定されていますが、未だこの誤解は根強く残っており、不要な罪悪感に苛まれる両親は少なくありません。ご両親は自分たちの事を責めないよう、お願いいたします。