レグテクト錠(アカンプロサート)の効果と特徴【アルコール依存症治療薬】

治療が必要なアルコール依存症の患者さんは、日本だけでも80万人以上もいると推定されています。

依存症は有効な治療薬が少なく、どうしても「本人の意志」が治療の要(かなめ)になってきます。しかし依存性のある物質を断つ、というのは並大抵の覚悟ではできません。再び依存物質に手を出してしまうことは多く、治療はなかなか難しいのが現状です。

レグテクト(一般名:アカンプロサート)は2013年に発売された、新しい作用機序を持つ抗酒薬です。抗酒薬というと聞きなれない用語ですが、アルコール依存症の治療薬を総称してこのように呼びます。

レグテクトは飲酒欲求を抑える作用があり、安全性も高く、今までの抗酒薬と全く異なったおくすりであるため、アルコール依存症治療の大きな助けになることが期待されています。

ここではレグテクトの効果や特徴についてお話していきます。

1.レグテクト(アカンプロサート)の作用機序

レグテクトは、飲酒欲求を減らす作用を持つおくすりです。かんたんに言うと「お酒を飲みたい気持ちが減るおくすり」ということです。これは非常に画期的な作用で、2014年現在、飲酒欲求を抑えるおくすりはレグテクトしかありません。

アルコール依存症の患者さんは、「お酒を飲みたい」という飲酒欲求をどれだけ我慢できるかが治療の全てです。飲酒欲求を減らすことができれば、治療成果の大きな向上が期待できるため、レグテクトはアルコール依存症の救世主として期待されています。

今までにも抗酒薬というものはありました。代表的なものがノックビン(一般名:ジスルフィラム)、シアナマイド(一般名:シアナミド)と呼ばれるおくすりです。

しかしこれらの抗酒薬はレグテクトとは違い、飲酒欲求を減らすというはたらきは持っていません。どうやって抗酒薬としてはたらくかというと、「お酒が分解されないようにする」というはたらきを持ちます。

お酒は肝臓で分解されますが、これらのおくすりはお酒が肝臓で分解されないように作用します。具体的にはアルコールを分解する酵素「アルデヒド脱水素酵素」のはたらきを阻害します。

すると少量の飲酒で身体が参ってしまいます。お酒を少し飲んだだけで急性アルコール中毒のような不快症状が出現するようになるわけです。そのため、飲酒できなくなる、ということです。

アルコール依存症治療に一定の効果は認めたおくすりですが、飲酒欲求を減らすわけではなく、「このおくすりを飲んでお酒を飲んだらとんでもないことになるよ」と懲罰的に治療する側面がありました。そのため、これらのおくすりを飲んでいる間はいいけど、おくすりを中止したら飲酒も再開してしまう例が多く、根本の解決になっていないことが指摘されていました。

そもそも患者さんがこれらの抗酒薬を飲まなければお酒も飲むことができてしまいますし、これらを服薬した上で、無理してアルコールを摂取してしまうと急性アルコール中毒などを起こす可能性があったもの問題でした。

これに対して、レグテクトは中枢神経に作用し、飲酒欲求そのものを減らす作用があります。懲罰的にではなく、自然に、安全に断酒の方向に持っていくことができるのです。

では具体的にどういった機序で飲酒欲求を減らしているのでしょうか。

飲酒を続けていると、中枢神経の抑制系神経が活性化していくことが知られています。抑制系神経だけが活性化している状態が続くと、人間の身体はバランスを保とうとし、興奮系神経(グルタミン酸作動性神経)も活性化させ、これで抑制と興奮のバランスと取ります。

この時に急に飲酒をやめると、興奮系神経の活性化だけが残存してしまい、脳内のバランスが一気に崩れます。これが飲酒欲求を引き起こすと考えられています。

レグテクトの作用は、興奮系神経の活性化を抑制することです。

レグテクトによって興奮系神経の活性化が治まれば、断酒によって抑制系神経の活性化が治まってもバランスが崩れにくくなり、飲酒欲求も起きにくい、というわけです。

2.レグテクトの効果や強さは?

レグテクトは、その作用機序から今までの抗酒薬と比べると安全性が高いおくすりだと言えます。安全なのは良い事ですが、その効果や強さはどうなのでしょうか。

国内臨床試験では、レグテクトを投与した断酒の意志のあるアルコール依存症患者の24週間後の完全断酒率は47%であったと報告されています。プラセボ(偽薬)を服用させたアルコール依存症患者さんの完全断酒率は36%であり、レグテクトの服用は有意に断酒率を上げるという結果になっています。

この試験結果から見ると、ある程度の効果はあると考えて良さそうです。

では、実際の現場での評判はどうでしょうか。

臨床で使っている印象としては、「多少の効果はあるけども、強いわけではない」という印象を持ちます。

「お酒を飲みたい気持ちが少し抑えられるようになってきました」と言う患者さんもいます。しかし、「これを飲んだら、もうお酒は全く飲みたくなくなりました!」ということは少なくとも私は経験したことがありません。

レグテクトの適応疾患も「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」となっており、アルコール依存症治療のあくまでも補助的なものだと位置づけられています。レグテクトは、飲めばそれだけでアルコールを止められる、という魔法のようなおくすりではないのです。あくまでも飲酒欲求を「多少」抑えてくれる程度のものです。

レグテクトは穏やかに飲酒欲求を抑えてくれるおくすりであり、アルコール依存症の患者さんはレグテクトに加えて、断酒教育や自助グループへの参加などの心理社会的治療も併用していくことが望ましいでしょう。

3.レグテクトの使用方法

レグテクト(アカンプロサート)は1錠が333mgです。1回2錠(666mg)、1日3回毎食後に服用します。

  • 断酒の意志のある患者にのみ使用すること
  • 心理社会的治療と併用すること
  • 投与は原則として24週間まで(有益性が認められる時のみ延長可能)

などが注意点として挙げられています。

依存症治療は患者さん本人の「依存症を治したい!!」という強い意志が必須です。本人にアルコールをやめる気がない場合は治療になりませんので、レグテクトも服用することはできません。

比較的安全性の高いおくすりですが、初期に多い副作用としては下痢、傾眠などがあります。ただしほとんどのケースで自然に改善あるいは、整腸剤投与など適切な対処で改善が得られています。

おくすりは大きく分けると肝臓から代謝されるものと腎臓で代謝されるものに分かれますが、レグテクトは主に腎臓で代謝されます。そのため、高度の腎障害を持つ患者さんには投与することができません。肝障害のある方には投与できますので、アルコール性の脂肪肝や肝炎を併発していても服用することができます。