不安を解消するための6つの考え方

「不安」というものは、とてもやっかいな感情です。

不安に襲われ、それにとらわれてしまうと、居ても立ってもいれらなくなります。こころがモヤモヤして落ち着かず、不快な感覚が続き、全身から汗がでて、動悸がして、呼吸も荒くなります。心身にこのような症状が現れることで、より不安が強くなっていきます。

不安は不安を呼びます。不安はどんどんと大きくなっていき、冷静な判断がどんどんできなくなっていきます。一度この悪循環に入ってしまうと、そこから抜け出すのは容易ではありません。

みなさんもこのような悪循環に陥ってしまった経験があるのではないでしょうか。

しかし、実はこの悪循環はちょっとした工夫で断ち切る事ができます。不安を自分でコントロールするための術を身に付ければいいのです。

これは順を追って習得すれば、誰でも身に付ける事が可能です。

ここでは不安にとらわれそうな時、不安を解消するために役立つ考え方を紹介します。

1.なぜ不安になるのか

不安をコントロールできるようになるためには、まずは不安という感情を正しく知らないといけません。私たちはなぜ、不安になるのかを考えてみましょう。

人がどんな時に不安になるのでしょうか。

答えを言ってしまうと、私たちは自分でコントロールできない物事に対して不安を感じます。

そして不安の程度はコントロールできない度合いが強くなればなるほど強くなります。

自分でコントロール出来ないということは、言い換えれば 「結果が読めない」「確実性が低い」という事です。私たちは、不確実性な未来に対して「不安」を感じるのです。

例えば、あなたが時給1,000円の仕事を始めたとしましょう。有名な大手企業で時給1,000円で働く雇用契約書を交わし、仕事を始めました。

この時、あなたは「給料がもらえるだろうか?」という事を不安に感じるでしょうか。

「自分が1時間働けば1,000円もらえる」という契約を交わしているわけですから、給料がもらえないのではないかという不安は高くないはずです。雇用契約書に記載されている労働条件が「給料は払われる」という確実性・安心感を高めてくれています。自分さえ労働すれば給料は支払われるわけですし、自分をコントロールする事は容易ですので、安心して仕事に励む事が出来ます。

しかしこの労働条件が 「1時間に2人のお客さんが来店してくれたら1,000円支払う」という成果報酬の契約内容だったらどうでしょうか?

先ほどの例よりも「給料がもらえるだろうか」という不安は高まるのではないでしょうか。

お客さんが来るかどうかは、自分でコントロールする事はできません。自分の努力も多少は関係するものの、それ以外の要素も大きいわけです。こうなると、自分でコントロールできない度合いは高まります。つまり未来の不確実性が高まるという事です。

その結果、給料がもらえるかどうかという不安も高くなるのです。

更に「1時間に2つの契約が取れたら1000円もらえる」だと、どうなるでしょう。

この場合だと、お客さんが来店してくれた上で、契約も取らないといけません。

不確実性は更に高まり、不安はより一層強くなるのではないでしょうか。このように不確実性が高くなればなるほど、不安も強くなるのです。

では次に私たちにとって不確実性が高い事には何があるのかを考えてみましょう。

不安で苦しんでいる患者さんを診ていると、

  • 人間関係
  • 未来

に対して強い不安を感じている方々が多いようです。

確かにこれらの物事は不確実性が高く、自分の努力のみでコントロールする事は出来ません。

意志を持っている「人」を、別の人が完全にコントロールすることは不可能です。仕事や恋愛などの人間関係に不安を感じて苦しむ方が多いのは、相手を100%コントロールすることは出来ず、人間関係というのは「不確実性が高い」ためです。

実際に営業職などの人と接する仕事に就かれている方は不安も強くなりがちで、精神科・心療内科を訪れる頻度も高い印象があります。

また未来も自分でコントロールする事は不可能で、不確実性の高いものです。「私は明日も絶対に生きてますよね」 という質問は、どんな名医であっても「YES」と答える事はできないでしょう。

未来は誰にも分かりません。そのため、「将来、重大な病気にかかってしまったらどうしよう」「将来、お金がなくなったらどうしよう」と未来に不安を感じる方は多いのです。

2.不安は必要なもの。不安が全くない状況を想像してみよう

前項では人がどのような時に不安になるのかを考えてきました。

ではそれを踏まえて、私たちが不安から完全に逃れることは出来るのでしょうか。

残念ながらそれは不可能です。

未来・将来が無い人はいないし、それを考えない人もいません。人間関係を全く持たずに生きている人も、まずいないでしょう。

つまり人は不安から完全に逃れることはできないのです。

でもそれを悲観する事はありません。実は不安は人生を充実させるために必要な感情でもあるのです。

仮に「不安がまったくない世界」を考えてみてください。

不安で苦しんでいる方々にとって、「不安が無い世界」というと夢のように感じるられるかもしれませんが、果たして本当にそうでしょうか。

「不安がない」という事は、全てに「確実性がある」ということです。すべての事象は自分でコントロール出来てしまうわけです。

自分のある行動に対して、相手がどのような反応をするのかが手に取るように分かります。明日何が起こるのか全て把握できます。自分がいつ死ぬのかもわかるし、明日どんなトラブルに遭うのかも分かります。

確かに、これなら不安は感じないかもしれませんね。

「明日の商談の成功率は100%。絶対に失敗しないことが分かっている」
「明日、事故に遭う確率は0%」

確かに未来への不安はゼロでしょう。

でも、そんな人生ってどうなんでしょうか。

全てが分かりきった毎日をただただ過ごすのは非常につまらないのではないでしょうか。全てが決まりきった人生を決められた通りにただ生きていく。確かに不安は無いでしょうが、生きる楽しさやワクワク感もありません。私なら、生きる意味を失ってしまうかもしれません。

このように「不安のない世界」を考えてみると、不安というのは実は必要なものなんだ、という事が見えてきます。

過度な不安が有害なだけであって、適度な不安は人生をより豊かにするために必要なものでもあるのです。

私たちは不安から逃れることはできません。しかしそれを悲観するのではなく、「適度な不安は私たちにとって必要なものなんだ」と考える事が大切です。

この事に気づくと不安は敵視するのではなく、

「上手く付き合っていく必要があるもの」

という事に気づきます。

まずはこの事実に気付く事が、不安を上手に解消できるようになるための第一歩です。

では以上を踏まえた上で、ここからは「不安を上手に解消するためのテクニック」をいくつか見ていきましょう。

3.不安の正体を突き詰めてみる

強い不安に襲われたら、ただ不安に怯えるだけではいけません。

「この不安の正体は一体なんなのか?」と不安の正体が何なのかを見極めてみましょう。

相手のことをより確実に知ることができれば、その分不安も軽減します。

  • 自分は今、何に対して不安を感じているのか
  • その件に関して、自分の努力で出来る対策はないのか

こういったことをとことん追求してみるのです。

この時、なるべく客観的に全体を見渡すために、頭の中で考えるだけでなくノートに書いたりしましょう。その方が冷静に、多角的に評価することができます。

例えば、何だか気持ちがザワザワしていて、その正体を自分なりに分析した結果、「明日のプレゼンが成功するかどうかが不安なんだ」という事に気付けたとします。

これに気付けば、今自分に出来ることはプレゼンの精度を高めることだけだと分かります。対策が分かれば、ただただ不安になってオロオロするのではなく、プレゼン資料の推敲をもう一回しよう、と具体的な行動がとれるでしょう。

そしてプレゼン資料の精度が高まれば「ここまで出来が良いものなら大丈夫」という自信も沸いてきます。自信が沸けばその分不安を小さくする事が出来ます。

自分ではこれ以上出来ないと思えるくらい、プレゼン資料の精度が高まっているのであれば、もう他にすることはありません。そうなれば「これ以上は自分の力で出来る事はない」と諦めもつきます。

また不安を深く掘り下げていくと、 実は不安の正体は大したものではなかった、というケースもあります。

例えば以前、「不安で不安で仕方ないんです。強い安定剤を下さい!」と取り乱して病院に受診に来たパニック障害の女性がいました。

ここで強い安定剤を出すのは簡単ですが、本当にこの不安にお薬を使う必要があるのかを考えないといけません。

なるべく落ち着いてもらって、診察中に一緒に不安の原因を掘り下げてみたところ、

・不安のきっかけは、昨日の夜中に子供が高熱を出して体調を崩したこと
・その後小児科を受診し、今は原因も分かってお薬で症状も改善してきている
・夜中に子供の不調で慌ててしまい、パニック発作が出てしまった
・パニック発作が出てしまった事で、余計パニックになって昨日は大変だった
・でも、よくよく考えれば今は別に不安な事は何もない

という事でした。

ここまで話して患者さんは、「あれ?よく考えたら今は何も不安なことってないですよね・・・」 と気付きました。

不安の原因を見極める事が出来た事で安心され、結局強い安定剤など出さずとも落ち着いてそのまま帰られました。

不安は新たな不安をどんどんと呼んで大きくなっていく習性があります。そのため元々の不安が小さいものであったり、すでに解決されているものであっても、増幅されてしまっているだけの事もあるのです。

根本をしっかりと見つめなおしてみれば、案外それはたいしたことはないものかもしれません。

不安はその正体をしっかりと冷静に・客観的に見極めることが大切です。

4.保険をかける

「私が死んでしまったら、残された家族はどうなるのだろう」という不安を解消するために死亡保険があります。

「病気になって働けなくなったらどうやって生きていけばいいんだろう」という不安を解消するために医療保険があります。

年金なんかも「老後のお金をどうしよう」という不安を解消するために導入されているものです。

こう考えると保険というものは、不安を解消するためのツールであることが分かります。

実はこの保険の制度は、不安を解消するためのヒントになります。

保険がどういう仕組みで未来の不安を解消しているかというと、備えをしておく(=毎月お金を払う)ことで、万が一の際に対応できるようにする、という仕組みです。

これを私たちの不安の解消に当てはめてみると、

不安なことに対しての備えを前々からしておけば、 その不安が現実に襲ってきたときも安心できる

ということになります。

「将来のお金がなくて生活できなくなったらどうしよう」と不安になっているのであれば、毎月少しでもいいから貯金をすれば、その分不安は下がるということです。ただただ不安にとらわれているよりも、毎月5千円でも1万円でもいいから貯金したほうが精神衛生上良いという事です。

「今度の商談が成功するかどうか不安」という場合も同じです。

ただ不安になっていても意味はありません。それよりも、毎日コツコツと商談の準備をし続けたほうがその分不安は小さくなる、という事です。

不安なことにただおびえるのではなく、 事前から出来る「備え」をしておく。この保険の考えは、実は不安の解消のためにも役立つ考え方なのです。

5.規則正しい生活はとても重要

不安にとらわれてしまうと、こころが落ち着かなくなってしまいます。すると日常生活がおろそかになりがちです。

食事どころではなくなり食欲が落ちます。ついつい考え込んでしまい、寝る時間がどんどん遅くなります。

不安な気持ちはよく分かるし、食事が喉を通らないのも、不安で眠れなくなるのもよく分かります。

でも、これってより不安をより悪化させていることに気付くべきです。

実際、睡眠不足や昼夜逆転、栄養の偏りなどは自律神経のバランスを崩し、不安を高めてしまいます。

パニック障害や社交不安障害などの「不安障害」という群に属する患者さんは、睡眠時間が少ないと不安発作を起こす頻度が有意に上昇する事が分かっています。食生活がかたよっていても同様です。栄養が偏ったり、栄養失調状態でも不安は高まる事が分かっています。

不安なときこそ、規則正しい生活を意識しなければいけません。

不安な時こそ、1日3食規則正しく・バランスよく取りましょう。夜はしっかりと眠りましょう。お散歩などに行き、適度に身体を動かしましょう。

小さい事ですが、このように生活の基盤をしっかりする事は不安を悪化させないためにとても大切です。

6.過去の不安とその結果を見直してみる

心配事の9割は実際には起こってなかった、という報告があります。

ほとんどの不安は現実になることはなく、後から見直してみると「不安に思うだけ無駄だったな」と徒労に終わっているのです。

これを客観的に意識しておくことは大切です。世の中には無数とも言えるほどの「心配事」があります。しかし、その9割は

「実際には起こってない」

のです。

あなたの不安だって例外であるはずがありません。

客観的には、あなたのその不安が現実化する可能性は10%だということです。

これを知っておくだけでも、気持ちは楽になります。

また、今までどうしようもなく不安で仕方なかったことに対して、その不安がその後実際にどうなったのかも見直してみてください。今日まであなたが生きているという事は、 その不安であった出来事は、少なくとも命を脅かすような結果にはなっていないことが分かります。

見返せる今だから言えることではありますが、不安に思っていることなんて大概は「その程度のもの」なのです。

7.不安を吐き出す

不安は溜め込んではいけません。

不安は不安を呼ぶ習性があります。最初は小さな不安でも、どんどんと新たな不安を呼び込み、気が付けば巨大化しているのです。

巨大化させないためには、溜め込まずにこまめに不安を吐き出すことです。

誰かに「こんなことで不安なんだ」と話してみましょう。誰かに吐き出すことは、2つの大きなメリットがあります。

1つは「理解してもらえた」という安心感が得られます。

理解してくれる・協力してくれる誰かがいる。自分は一人じゃない、という安心感はとても大きいものですし、それだけで不安も和らぐものです。

2つ目は「役立つアドバイスをもらえる可能性がある」という事です。

相談相手は当事者ではない分、冷静な視点で話を聞いてくれますから、不安にとらわれて冷静でなくなっているあなたに対し「冷静で正しいアドバイス」をくれます。

これもとてもありがたいことですよね。

近くに相談できる人がいない、あるいは相談しずらい内容だ、という方は インターネットの質問サイトで質問しても良いですし、主治医がいれば診察で相談しても良いでしょう。

カウンセリングなどで相談する方もいます。私たち医療者には「守秘義務」がありますので、勝手に周囲にその情報を漏らす事はありません。

8.思考を分散させてみる

どうしても不安な気持ちから逃れられない場合は、強制的に違うことを考えるようにしてみるということも効果的です。

例えば、

  • 運動をする
  • 音楽を聴く
  • 映画を観る

などです。

例えば、テニス中はテニスに集中しなくてはいけません。不安がどうしても頭から離れない時は、気が乗らなくてもテニスをしてみると良い事があります。

強制的に意識がテニスに向くため、その分不安なことへ意識が向かなくなります。気が付けば、不安のとらわれから抜け出せているでしょう。

最初が嫌々で気が向かなかったとしても、不安にとらわれてしまっていて辛いのであれば、やってみる価値はあります。

最初は乗り気ではなかったけど、映画を見始めたらとても面白くてつい引き込まれてしまった。気が付けば不安なことなど忘れて映画に興奮していた。

こんな事もあるかもしれません。

違うところに意識が向くように工夫してみることも有効な方法です。

9.一向に改善しないのであれば、不安障害の可能性も

正常範囲の不安であれば、今までお話してきたような工夫をすることで、不安をコントロールできるようになるでしょう。

しかし、これらの方法を試してみても、

  • 不安が一向に改善しない。むしろ悪化している
  • 不安で日常生活・社会生活に支障をきたしている

という事であれば、その不安は正常範囲を超えているものかもしれません。

不安障害」という疾患があります。不安が過度に高まってしまい、精神的苦痛と生活への支障をきたしている状態です。

ここまで至ってしまうと診察やカウンセリングを受けたり、適切な投薬治療を受ける必要性が出てきます。

上記の方法でも不安の改善が得られない場合は、一度精神科・心療内科を受診して相談してみましょう。精神療法や薬物療法など、あなたの不安を改善させる治療法があります。

<まとめ>

・不安は、不確実性が高いことに対して生じる
・生きている限り、不安からは完全には逃れることはできない
・不安は人生において必要なものでもある
・不安は正体を深く掘り下げることで解消できる
・不安は保険をかけることで解消できる
・不安は規則正しい生活をこころがけることで解消できる
・不安なことの9割は、実際には起こらない
・不安は吐き出すことで解消できる
・不安は、違うことに意識を向けることで解消できる

・不安が自然と改善しない場合、あるいは生活に支障をきたしている場合は
病気の可能性があり、その際は心療内科を受診し、治療を受ける必要がある。