不安障害とはどのような疾患なのか

5.不安障害はどのように治療するのか

不安障害はどのように治療すればいいのでしょうか。

細かい治療法は各疾患によって異なるため、それぞれの疾患の治療方法を読んで頂きたいのですが、ここでは全体的にみた治療法の概略を紹介します。

Ⅰ.薬物療法

不安障害において薬物療法は重要な治療法の1つです。

使われるお薬としては、

  • 抗うつ剤
  • 抗不安薬
  • 漢方薬

などがあります。

抗うつ剤は特にセロトニンを増やす作用が優れるものを選びます。その理由は、不安障害はセロトニンの影響が大きいと考えられているからです。具体的にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が良く用いられます。抗うつ剤は即効性はないものの、ゆっくり少しずつ不安を改善させてくれるお薬になります。

また抗不安薬も有用です。抗不安薬の中でもベンゾジアゼピン系抗不安薬がよく用いられます。抗不安薬は即効性があるものも多く、早いものだと服薬後15~20分くらいで効いてくるものもあります。不安が強まってしまった時にすぐに服用して効果が得られるのも抗不安薬の利点です。しかし抗不安薬は長期間・大量に使っていると、耐性や依存性が生じてしまうことがあるため、安易に服用を続けないように注意が必要です。

耐性・・・そのお薬に身体が慣れてきてしまい、お薬の効きが段々悪くなってくること。耐性が生じるとお薬の量を増やさないと効果が得られなくなり、その結果服用量がどんどん増えてしまう危険がある。

依存性・・・そのお薬がないと心身が落ち着かなくなってしまうこと。依存が生じると、お薬の効きがなくなるとイライラ・ソワソワして落ち着かなくなったり、震え・発汗・めまい・しびれ・頭痛などの身体症状が現れてしまう。依存になってしまうとお薬をやめることが難しくなってしまう。

漢方薬は種類によっては不安を和らげる作用があるものがあり、患者さんによっては使用することもあります。全体的な印象としては、抗うつ剤や抗不安薬と比べるとゆっくり穏やかに効くような感じです。

不安障害の各疾患によりお薬の有効性は異なります。

パニック障害や社会不安障害は抗うつ剤や抗不安薬が比較的有効で、多くの症例で用いられます。全般性不安障害や恐怖症に対しては、お薬はある程度有効ではあるものの、それだけでは不十分なことも少なくありません。

Ⅱ.生活習慣の改善

意外と大切なことが生活習慣の改善です。不安が高まってもおかしくないような生活習慣を送っている方はまずはそれを改善すべきでしょう。

多くの方が日常的に行っている行動の中には、実は不安を増悪させる行動も多くあります。

一例を挙げれば

  • 夜更かし、睡眠不足
  • 喫煙
  • 過剰なアルコール
  • 食生活の乱れ
  • 運動不足
  • ストレスを発散させる行動がない

などがあります。

睡眠が不足すれば、いつもよりイライラしたり落ち着かなくなったりと不安が高まりやすくなります。また喫煙・アルコールも短期的には気持ちを落ち着かせる作用がありますが、長期的にみればメンタルヘルス上は良い影響はなく、イライラしやすくなったり、気分の波が高まってしまいます。

食事が不規則だったり栄養バランスが悪かったりすると、脳に十分な栄養が届かなくなるため、イライラしやすくなったり不安を感じやすくなってしまいます。また適度な運動はストレス発散のためにも重要です。

生活習慣に問題がないかと見直し、問題のある行動を修正するだけでも不安は和らぎ、不安障害も治りやすくなります。

Ⅲ.精神療法(カウンセリング)

不安障害の治療は、お薬だけではなく精神療法も併用することが理想です。

精神療法はお薬と同等の効果があり、また再発予防効果でいえばお薬よりも優れていると報告されています。

一般的にお薬は効果がすぐに出ます。抗不安薬であれば服薬後数十分で効果が出てくるものもあります。また抗うつ剤も2週間~1カ月ほどで効果は表れ始めます。そのため「とりあえず症状を落ち着かせたい」という急性期(治療初期)においてはお薬を利用するのは意味のあることです。しかしお薬は中止してしまうと再発しやすいという欠点もあります。

精神療法はお薬と違って、効果が出るまでに時間がかかります。早くても数カ月はかかるでしょう。しかし精神療法の利点は、しっかりとその考え方を身につければ再発予防効果に優れているという点です。

この両者の特徴を考えると、最初はお薬で治療をはじめて精神状態が落ち着いて来たら精神療法も併用していく、という治療法が理想的でしょう。もちろん実際の治療法は患者さんの症状・状態によって異なりますが、精神療法は多くの患者さんにとって有効な治療法の1つになります。

精神療法もいくつかの方法がありますが、ここでは代表的なものを3つ紹介させて頂きます。

認知行動療法(CBT)

不安障害の方は、ある事象に対して「過剰に不安にとらえてしまう」という思考になっています。これは一般的な思考と比べると、「物事のとらえ方が歪んでしまっている」とも言えます。

認知行動療法は、歪んでしまった認知(物事のとらえ方)を修正していくことを目的とします。

まずは不安や心配が生じるメカニズムを学び、これらが生じやすい状況を客観的に見ていきます。その中で自分の不安・心配に対するクセ(自動思考)を把握し、不安・心配を過剰に生じさせなくするにはどうしたらいいのか、あるいは不安・心配が起こりそうな時・起こった時にはどのように考えればいいのかを見直していきます。

認知行動療法については、詳しくは「認知行動療法はどのような特徴を持つ治療法なのか」をご覧ください。

森田療法

不安障害では、森田療法も有用な精神療法になります。

森田療法では、不安障害の症状を無理に治すことはしません。不安や恐怖を感じてしまったり、それに対して動悸や震えが生じたりというのは、生理的な反応であるためです。

そこに焦点を当てるのではなく、「そのような反応にとらわれてしまうこと」が問題だと考えます。

人前で過剰に不安を感じてしまう方は、「人前で不安にならないようにしたい」「人前で動悸が出ないようにしたい」と考えるのではなく、「これは正常な反応なのだから仕方がないんだ」と考えるようにします。というのも、「不安を抑えたい」と意識すればするほど、不安は強くなってしまうからです。

また森田療法では恐怖や不安を過剰に感じてしまうのは、「人から良く思われたい」「より良く生きたい」という欲望があるからだと考えます。不安障害の方は、その思いが強くなりすぎてしまい「人から悪く思われはしないか」という恐怖になってしまっています。そうではなく、これは「よりよく生きたい」からきているものなのだということに気付くことが大切になります。

まとめると、

・不安や恐怖、それに伴う症状は生理反応なのだから、無理して抑えようとしない。
・不安・恐怖は本来、「より良く生きたい」という前向きな気持ちからきていることに気付こう

ということです。

森田療法は、神経質、心配性、完璧主義などの神経質的な性格傾向を持つ方に、特に有効であると考えられています。森田療法は、外来では患者さんは日記を書いていただき、それを治療者と確認していきながら進められていきます。