SSRIの副作用、アクチベーションシンドローム(賦活症候群)って何?

「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」は抗うつ剤の一種で、主にセロトニンを増やす事で気分を改善させるお薬です。

SSRIは基本的には安全性の高いお薬ですが、どんなお薬にも副作用はあります。SSRIにも注意すべき副作用はいくつかあります。

SSRIの副作用の1つに「アクチベーションシンドローム(賦活症候群)」というものがあります。これは抗うつ剤(特にSSRI)に特有の副作用であり、SSRIを服用する方に必ず知っておいて欲しい副作用です。

アクチベーションシンドロームとはどのような副作用なのでしょうか。またどのような問題があり、どのように予防・対処すればいいのでしょうか。

今日はSSRIで生じる「アクチベーションシンドローム」について、詳しく説明させていただきます。

1.アクチベーションシンドロームとは

アクチベーションシンドローム(Activation Syndrome)は、主にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ剤で認められる副作用です。「賦活(ふかつ)症候群」と呼ばれる事もあります。

【SSRI】
選択的セロトニン再取り込み阻害薬。落ち込みや不安に関係する神経伝達物質である「セロトニン」を集中的に増やす事により、気分を改善させるお薬。

(詳しくは「SSRIの効果。SSRIはどんな効果がある抗うつ剤なのか」参照)

アクチベーションシンドロームは抗うつ剤、とりわけSSRIに生じる特有の副作用です。患者さんに不快な症状を引き起こし、場合によっては自傷や自殺などの重篤な行動につながる可能性もあるため、服用する方は必ずこの副作用について理解しておかなければいけません。

ではアクチベーションシンドロームとはどのような副作用なのでしょうか。

アクチベーションシンドロームを簡単に説明すると、「気分が変に持ち上がってしまう」ような症状になります。

通常SSRIのような抗うつ剤は、病的に低下している気分を正常に持ち上げるために投与されます。

落ち込みや興味・喜び・意欲の低下などを正常な状態まで持ち上げる事が目的であり、SSRIはセロトニンを増やす事で気分を持ち上げようとします。

しかし特に投与初期などでは、SSRIの血中濃度がまだ不安定であるため、一時的に気分が変に持ち上がってしまう事があるのです。

このような不安定な気分の持ち上がりによって、

  • 不安や焦り、落ち着かなさ
  • 動悸や震え、呼吸苦などのパニック様症状
  • 不眠
  • 興奮、易怒性(怒りっぽい)、易刺激性
  • 衝動性
  • 身体がソワソワ・ムズムズする感じ
  • 躁状態

などが生じるのが、アクチベーションシンドロームです。

アクチベーションシンドロームは、SSRIの血中濃度が不安定な時に生じる副作用であるため、SSRIの飲み始め(投与初期)や、増量時に生じやすい傾向があります。またお薬を飲んだり飲まなかったりと自己判断で量を調整してしまっているような方にも生じやすくなります。

このような浮足立ったような変な気分の上昇は、患者さんに身の置きようのない苦しみを感じさせます。この変な気分の持ち上がりによって暴力的になってしまったり、衝動的に自傷行為に至ってしまう事もあります。最悪の場合は衝動的になってしまい自殺行動を後押ししてしまう可能性もありえるのです。

アクチベーションシンドロームは血中濃度が安定すれば生じなくなりますから、服用して1~2週間ほど経てば自然と症状は消失していく事も特徴です。持続する副作用ではなく、一過性の副作用になのです。

生じる頻度は高くはないものの、最悪の事態に発展するリスクもある副作用であり、決して見落としてはいけない副作用の1つになります。

2.アクチベーションシンドロームはなぜ生じるのか

アクチベーションシンドロームはなぜ生じるのでしょうか。

アクチベーションシンドロームが生じる理由は、SSRIによってセロトニン2受容体が刺激されるためだと考えられています。セロトニン2受容体には様々なはたらきがありますが、その1つに中枢神経(=脳)の刺激が挙げられます。

SSRIの飲み始めの時期には、セロトニン2受容体が不安定に刺激されてしまうため、これによって先ほど説明したような変に気分を持ち上げる症状が出現してしまうのです。

アクチベーションシンドロームは特にSSRIで生じやすいのですが、これはSSRIが特にセロトニン2受容体を刺激する作用が強い抗うつ剤だからです。

セロトニンに選択的に作用するのがSSRIの特徴です。これは落ち込みや不安を改善させるには好ましい事なのですが、一方でアクチベーションシンドロームを起こしやすくしているという事でもあるのです。

SSRI以外の抗うつ剤、例えば三環系抗うつ剤やSNRIなどもセロトニン2受容体を刺激する作用がありますので、アクチベーションシンドロームを引き起こす可能性はあります。しかしこれらのセロトニン2受容体への作用はSSRIと比べれば強くはありません。そのためこれらの抗うつ剤はアクチベーションシンドロームを引き起こす可能性はあるものの、SSRIと比べるとその頻度は少なくなっています。

反対にセロトニン2受容体をブロックする作用のあるお薬(抗精神病薬やNaSSAなど)には、アクチベーションシンドロームを抑える作用がある事も知られており、ここからもアクチベーションシンドロームがセロトニン2受容体の刺激で生じている事が考えられます。

3.アクチベーションシンドロームの予防法

うつ病患者さんは増加の傾向にあり、SSRIが処方される機会も増えています。それに伴い、アクチベーションシンドロームが発症するリスクも増加しています。

アクチベーションシンドロームは、出来る限り起こさないように予防する事が重要です。なぜならばアクチベーションシンドロームは、最悪の場合、自殺などの引き金となってしまう事があるからです。

ではアクチベーションシンドロームを引き起こさないためにはどのような予防法があるのでしょうか。

臨床でよく行われている方法を紹介します。

Ⅰ.SSRIをゆっくり増やす

抗うつ剤は漸増(ゆっくり少しずつ増やしていく事)していく事が基本です。いきなり高用量を投与するのではなく、少量から初めて少しずつ増やしていきます。

例えばジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)というSSRIの使い方を見てみると、

・まずは25mgから開始する
・1週間ほど様子をみてから50mgへ増量する
・更に1週間ほど様子をみてから75mgへ増量する
・更に1週間ほど様子をみてから100mgへ増量する

と少しずつ増やしていきます。

ジェイゾロフトの治療用量(治療効果を得るために推奨されている量)は100mgです。という事はジェイゾロフトを開始しても100mgに到達するまでには4週間程度かかるという事です。

なぜこんなにゆっくりと増やしていくのかというと、ゆっくり増やした方がアクチベーションシンドロームをはじめとした副作用が生じにくくなるからです。

抗うつ剤が必要なほどのうつ状態の真っただ中にいる時は、「一刻も早く辛い気分から解放されたい」と治療用量まで早急に増薬したくなるかもしれません。

しかしアクチベーションシンドロームを引き起こしてしまえばかえって辛い気分が生じてしまう危険もあります。

SSRIをはじめとした抗うつ剤はゆっくりとゆっくりと増やしていく事が大切なのです。

Ⅱ.アクチベーションシンドロームを起こしやすいタイプを知っておく

アクチベーションシンドロームはあらゆる患者さんに生じる可能性がある副作用ですが、その中でも特に生じやすいタイプがあります。

次のような状態の方は、特にアクチベーションシンドロームを起こしやすいと考えられています。

  • 元々衝動性の強い患者様
  • 元々不安の高い患者さん
  • 若年者の患者さん
  • 双極性障害の患者さん

これらの該当するような方は、出来る限りSSRI以外の抗うつ剤を使うか、SSRIを使うとしてもより慎重に増薬を考える必要があります。

Ⅲ.アクチベーションシンドロームを抑えるお薬を使う

アクチベーションシンドロームを起こしにくくするお薬を併用する事で、発症を予防するという方法がとられる事もあります。

例えばベンゾジアゼピン系抗不安薬には不安や焦りを抑える作用があるため、アクチベーションシンドロームを起こしにくくさせてくれます。

SSRIを服用する際、飲み始めの期間だけベンゾジアゼピン系抗不安薬を少量併用するという方法が取られる事があります。

あるいはベンゾジアゼピン系抗不安薬を1~2週間服用してもらい、不安を抑えてからSSRIを開始するという使い方をする先生もいらっしゃいます。

4.アクチベーションシンドロームの治療法

万が一アクチベーションシンドロームが発症してしまったら、どのような治療を行えば良いでしょうか。

アクチベーションシンドロームの治療法・対処法を紹介します。

Ⅰ.原則はSSRI中止

もしSSRIを服用してアクチベーションシンドロームが生じてしまったら、原則としてSSRIは中止する必要があります。

軽いアクチベーションシンドロームであった場合は、医師の慎重な観察のもとでそのまま経過を見る事もありますが、アクチベーションシンドロームは最悪の場合は自傷行為や自殺行動に至る可能性もある症状ですので、決して軽視してはいけません。

アクチベーションシンドロームはSSRIの飲み始めに生じる事が多いため、服用してかえって落ち着かなさが強まってしまったら、主治医に相談をし、服用を中止しましょう。

Ⅱ.アクチベーションシンドロームを抑えるお薬を使う

アクチベーションシンドロームが生じた際の対処法は、原則としてSSRIの中止ですが、中にはすぐに中止できない事もあります。

飲み始めの少量を開始して発症したのであれば中止しやすいのですが、ある程度の高用量を服用して生じてしまった場合は、いきなり中止すると離脱症候群が生じてしまう事もあります。

このような場合はSSRIを慎重に減薬し、かつアクチベーションシンドロームを抑えるお薬を使う事があります。

アクチベーションシンドロームを抑えるお薬としては、前述のベンゾジアゼピン系抗不安薬が有効ですが、その他にも、

  • 抗精神病薬
  • NaSSA

などが用いられる事があります。

これらのお薬はセロトニン2受容体をブロックする作用があります。アクチベーションシンドロームはセロトニン2受容体の刺激で生じますので、ブロックしてくれるお薬はアクチベーションシンドロームを改善させる効果が期待できます。

5.SSRI以外の抗うつ剤でアクチベーションシンドロームは生じるのか

アクチベーションシンドロームはセロトニン2受容体の刺激が原因ですので、基本的にはセロトニンに作用しやすいSSRIで生じやすい副作用になります。

では他の抗うつ剤ではアクチベーションシンドロームは起こらないのでしょうか。

答えとしては、抗うつ剤によっては、SSRIほどではないにせよ、アクチベーションシンドロームが生じる可能性があります。

例えば、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ剤もセロトニンに作用するため、時にアクチベーションシンドロームが生じます。

三環系抗うつ剤もセロトニンに作用するため、アクチベーションシンドロームを引き起こす可能性はあります。しかし三環系交通剤はヒスタミン受容体などの鎮静させるような部位にも作用するため、総合的にみると頻度は多くはありません。

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)と呼ばれる抗うつ剤は、反対にセロトニン2受容体をブロックする作用があるため、アクチベーションシンドロームはほとんど起こしません。むしろアクチベーションシンドロームを予防する作用が期待できるお薬になります。