エビリファイで不眠が生じる理由と6つの対策

エビリファイは主に統合失調症、双極性障害、うつ状態に使用されるお薬です。

全体的に副作用が少ないお薬なのですが、時に不眠が副作用として生じることがあります。しかし反対に眠気・傾眠の副作用が生じることもあります。エビリファイは、人によって眠くなる事もあるし眠れない事もある、という真逆の副作用が起こり得るお薬なのです。

なぜこのような事が起こるのでしょうか。また不眠の副作用が生じた時に有効な対策はあるのでしょうか。

エビリファイで不眠が生じた時、適切な対策を取ればそれを解決することは十分可能です。エビリファイで不眠が生じる理由とその対策についてお話させて頂きます。

1.エビリファイの眠気と不眠の報告

エビリファイの眠気と不眠の副作用の報告は次のようになっています。

【傾眠】

統合失調症:3.10%、双極性障害:12.50%、うつ病・うつ状態:8.99%

【不眠】

統合失調症:26.51%、双極性障害:9.90%、うつ病・うつ状態:4.71%

このように傾眠(眠気)も不眠もどちらの副作用も報告されています。

この報告から分かることは、統合失調症では不眠が多く、双極性障害、うつ病・うつ状態になるにつれて傾眠(眠気)の割合が多くなっていくという事です。

2.なぜエビリファイで不眠が起こるのか

エビリファイで不眠が生じるのは、エビリファイの持つ独特の機序である、ドーパミンの部分刺激が原因ではないかと推測されています。エビリファイは「ドーパミン部分作動薬(DSS)」と呼ばれており、ドーパミン受容体を部分刺激する作用があるのです。

他の抗精神病薬、例えばリスパダール、ジプレキサなどは、ドーパミンを遮断(ブロック)するはたらきを持ち、これが幻覚や妄想を改善させます。しかし一方でドーパミンを遮断しすぎることは錐体外路症状などの副作用の原因にもなってしまいます。

エビリファイはドーパミンを遮断するのではなく「適量に調整する」というはたらきを持ち、これが「部分作動(Partial Agonist)」と呼ばれる理由です。遮断ではなく調整であるため、ドーパミンを遮断しすぎる副作用が少ない一方で、ドーパミン受容体を刺激してしまう事で不眠、焦り、ソワソワなどが出現してしまうことがあります。

ドーパミンは覚醒度を上げたり行動を促すようなはたらきがあるため、部分的にでも刺激されれば、不眠・焦り、ソワソワなどが出てしまうことは十分ありえます。

他の抗精神病薬で不眠の副作用が少ないのに対して、エビリファイでは時々認めるのは、ドーパミンが部分刺激される事が理由です。これは悪い事ばかりではなく、不眠や焦燥感などの原因となる一方で、患者さんを鎮静させすぎず、また認知機能を低下させにくいというメリットにもなっています。

3.エビリファイで眠気が生じることもある

エビリファイでは不眠の副作用が出る他に、反対の眠気が出ることもあります。この眠気はなぜ生じるのでしょうか。

エビリファイは主にドーパミン受容体とセロトニン受容体にのみ作用するお薬ですが、非常に弱いながらもヒスタミン受容体やアドレナリン受容体など眠気の原因になる受容体にも作用します。その作用は弱いのですが、このためエビリファイの眠気が時に生じてしまうのです。

しかし、これらの受容体への影響は少ないため、エビリファイの眠気の程度は少なく軽度であることがほとんどです。

エビリファイの眠気についてはエビリファイの眠気の原因と6つの対策をご覧ください。

4.エビリファイで不眠が生じた時の6つの対策

エビリファイで不眠が生じた時、対策としてはどのようなものがあるでしょうか。

ここではエビリファイの不眠が出現した時に取られる事の多い対策を紹介します。これらはよく取られる対策ではありますが、独断では行わず、主治医に相談の上で行ってください。

副作用で困った時はまずは主治医に相談する事が大切です。そのため、自分で何とかしようとするのではなく必ず主治医に相談し、適切な処置をしてもらって下さい。

Ⅰ.様子をみる

エビリファイの服薬を始めてまだ間もないのであれば、少し様子を見てもよいでしょう。

1~2週間ほど飲み続けていると次第に慣れてきて、副作用が軽くなってくることがあります。エビリファイを飲み始めたばかりの時は不眠が強かったけれど、様子を見ていたら徐々に改善してきた、という事は臨床でよく経験することです。

そのため、何とか様子をみれる程度の不眠なのであれば、様子をみてみるのもひとつの方法です。

ただし耐えられないほどの不眠であったり、数週間様子を見ているのに一向に改善のない眠気である場合は他の対策が必要になります。

Ⅱ.服薬時間を変えてみる

エビリファイの用法は

統合失調症は1日1~2回の服用
双極性障害、うつ病・うつ状態は1日1回の服用

と記載されています。いつ服薬するかについては決まっているわけではありません。

エビリファイは半減期が61時間ほどと1日以上あるため、1日1回服用でも安定した効果が得られるお薬です(半減期とはお薬を服薬してから血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことです)。

そのため、不眠を改善するという視点だけで考えれば、服用を1日1回朝食後にするのが良いでしょう。エビリファイの血中濃度のピークは服薬後3.5~4時間後にくると報告されているため、朝食後にエビリファイを服用すれば、不眠が一番強くなる時がちょうど日中になります。日中はむしろ覚醒していたい人が多いでしょうから、こうすれば不眠の副作用の害を軽減することができます。

服用時間を変えることで、不眠を改善させる事ができる可能性があります。

Ⅲ.併用薬に問題がないか再確認する

併用薬によっては、エビリファイの副作用を強くしてしまうことがあります。エビリファイの副作用を増強するものには次のようなものがあります。

・アルコール(お酒)
・CYP3A4阻害薬
・CYP2D6阻害薬

一番多いものが、アルコールとの併用です。アルコールは抗精神病薬の血中濃度を不安定にします。どちらも中枢神経を抑制する(眠くなる)はたらきがあり、相互にこの作用を増強させてしまう恐れがあります。飲酒をしながらエビリファイを飲んでいたら、 副作用が顕在化しやすくなる可能性があるのです。この場合、断酒しない限りは改善は図れません。

他にもエビリファイの副作用を増強してしまうお薬はいくつかあります。

少し専門的な話になりますが、エビリファイはCYP3A4とCYP2D6という代謝酵素で代謝されるため、これらを邪魔するはたらき(阻害作用)を持つものはエビリファイの血中濃度を上げやすくなります。

CYP3A4阻害作用を持つものには、グレープフルーツがあります。そのためエビリファイを服薬中はグレープフルーツジュースの過剰な摂取はおすすめできません。

お薬として代表的なCYP3A4阻害作用を持つお薬は、

・マクロライド系抗生剤(商品名:クラリス、ジスロマックなど)
・カルシウム拮抗薬(商品名:ワソラン、ヘルベッサーなど)
・アゾール系抗真菌薬(商品名:イトリゾール、ジフルカンなど)
・胃薬であるシメチジン(商品名:タガメット)

などがあり、これらはエビリファイの血中濃度を上げてしまいます。

また、CYP2D6阻害作用を持つものには、

・キニジン
・抗うつ剤であるパロキセチン(商品名:パキシル)
・胃薬であるシメチジン(商品名:タガメット)

などがあり、これらもエビリファイの血中濃度を上げ、副作用を出やすくしてしまいます。

これらのお薬とエビリファイを一緒に服薬することが絶対にダメなわけではありません。しかし、両方服薬している場合は相互作用するということも考えながら慎重に服薬量を決める必要があるという事です。

ここで紹介した以外にも相互作用するお薬もありますので、主治医とよく相談にて服薬内容を決めていきましょう。

Ⅳ.日中の生活に問題はないか

日中の生活に問題がないかを再確認する事も大切です。

よくあるのが、日中に昼寝をしてしまっていたり、生活リズムが不規則になっている場合です。当たり前ですが、日中にぐっすり眠ってしまえば、夜に眠れなくなります。そこにエビリファイの不眠の副作用が加わると、一層眠れなくなってしまいます。

この場合は、まずは生活リズムを規則正しくして、日中に横にならないように心がける必要があります。更に運動などの積極的な活動を取り入れると、より良い眠りを得られるようになります。生活リズムを改善してもエビリファイの不眠の副作用が出るのは変わりませんが、自然な眠りが促されるようになればその分副作用が目立たなくなるという事です。

生活リズムの不規則さが原因で不眠が顕在化しているケースは少なくありませんので、一度は見直してみましょう。

Ⅴ.別のお薬に変える

どうしても不眠の副作用がつらい場合には、別のお薬に変えるのも手です。

特に統合失調症の治療としてエビリファイを使っているのであれば、他の抗精神病薬は不眠の副作用が出ることは少ないため、お薬を切り替えることは有効な方法です。

しかしどのお薬にもメリット・デメリットがありますので、主治医とよく相談しないといけません。不眠は改善したけれど、今度は別の副作用で困ってしまう、という事もあるからです。

抗精神病薬では、

オランザピン(商品名ジプレキサ)
クエチアピン(商品名セロクエル)

などは、眠りを深くする作用に優れますので、不眠傾向にある方には良いかもしれません。ただし、体重増加や眠気など別の副作用のリスクはあります。

Ⅵ.眠りを深くするお薬を併用する

エビリファイで生じた不眠の副作用を、眠りを深くするお薬を使うことで相殺するという方法もあります。

しかし、お薬の副作用を別のお薬で取る、というのはあまり推奨される方法ではありません。使用するお薬がどんどん増えてしまうし、副作用止めのお薬にだってまた別の副作用があるからです。そのため、副作用止めのお薬を追加するという方法は、上記の方法がうまくいかない時に限りやむを得ず取るべきです。

眠りを促すお薬というと、まず思いつくのが睡眠薬です。ただし睡眠薬は眠りを導いてくれますが、種類によっては眠くはするけど眠りの質を浅くしたり、依存性があったりといった問題もあるため、睡眠薬の使用の判断は医師にしっかりと見極めてもらってください。

また、眠りを深くするお薬も使われることがあります。抗精神病薬としては、

・オランザピン(商品名:ジプレキサ)
・クエチアピン(商品名:セロクエル)

などは眠りを導き、眠りを深くする作用を持ちます。

また、抗うつ剤として、

・四環系抗うつ剤
・ミルタザピン(商品名:レメロン、リフレックス)
・トラゾドン(商品名:デジレル、レスリン)

などは「鎮静系抗うつ剤」と呼ばれて、眠りを深くする作用を持ちます。

どのお薬を使うかは、病状を把握している主治医が慎重に判断する必要があります。