「死にたい」「消えたい」と相談された時の対応法|TALKの原則

TALKの原則

日本では毎年、約3万人もの方が自殺によって自らの命を絶っています。近年はようやく減少傾向になり3万人を切るようになったものの、自殺者はまだまだ少ないとは言えません。

世界的に見ると毎年100万人以上が自殺していると報告されています。100万人と言うと仙台市の総人口と同じくらいです。世界を見渡せば、これほど多くの方が毎年自らの命を絶っているのです。

自殺は何としてでも止めないといけません。それは簡単なことではありませんが、私たち医療者や患者さんの周囲にいる方々が協力していけば、減らすことができます。

「もう死にたい・・・」「消えたいんです・・・」

このように打ち明けられた時、どのように寄り添い、どのように対応すればいいのでしょうか。

「下手な返答をしたら、自殺を後押ししてしまうかも・・・」という怖さから、腫れものに触るように接したり、話をそらしたりしてしまう方は多いですが、これは良い対応とは言えません。しかし、専門的な対応ができなくても、あなたが相手の気持ちに真剣に向き合えば、自殺を踏み留まらせることは出来るのです。

つらい気持ちの背景にあるものは人によって同じではないため、その対応も相手によって異なります。それを十分に理解し、対応することは確かに簡単な事ではありません。

しかし、「死にたい」という気持ちを打ち明けられた時に取るべき対応は、特殊な技能を持った専門家でないと出来ないようなことではありません。精神的に苦しんでいる方が身近にいらっしゃる方は、このように打ち明けられた時にどのように対応すべきなのかを知っておくと、患者さんの命を救うことができます。

今日は「死にたい」「消えたい」と打ち明けられた時、周囲の人が出来ることについて紹介させて頂きます。

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1.「死にたい」「消えたい」と打ち明けてくれたことに感謝しよう

「もう死にたいよ」
「消えたい」
「自殺したい」

このように打ち明けられた時、どのように対応すべきでしょうか。

対応法として何か特別な技法があったり、魔法のような受け答え方法があるわけではありません。「死にたい」とまで考えてしまう背景は様々でしょうし、皆同じであるはずがありませんので、対応の仕方も「こうすれば間違いない」というものはありません。

しかし、対応する姿勢の基本は、相手が安心を得られるような接し方を心がけることに尽きます。それは「相手に真剣に向き合うこと」ということです。

「死にたい」「消えたい」

限界に達してこのように思ってしまったとしても、この気持ちは誰にでも打ち明けられるようなものではないでしょう。この重い言葉を発するという事は、それだけでも大きなエネルギーが必要です。そんな中、患者さんは「死にたい」という気持ちをあなたに発してくれたのです。

精神的に苦しく、余裕のない状況の中、自分のつらい気持ちを正直に伝えてくれたこと、これは感謝すべきことでしょう。

だから、まず私たちは「そのつらい気持ちを正直に話してくれてありがとう」と感謝の気持ちを相手に伝えるべきです。

不幸にも患者さんが自殺してしまった時、私たちにとって一番悔いが残るのは、何も打ち明けてもらえず、どんな気持ちなのかも分からないまま命を絶たれてしまうことです。助けるチャンスももらえないまま、先立たれてしまうことは、本当に悲しいことです。

つらい気持ちを打ち明けてくれたということには大きな意味があります。

誰かに発された「死にたい」「消えたい」の言葉の背景には、「でも本当は死にたくない」「消えたくない」という気持ちが込められています。「本当は死にたくないけど、もう限界だ」「死ぬ以外に楽になる方法が見つからない」というのが、「死にたい」と訴える方々の多くの本当の気持ちではないでしょうか。

これは本人も意識していないことも多いのですが、「死にたい」と誰かに訴える言葉の背景には「助けて」というメッセージが込められています。

つまり、私たちに自殺を止めるチャンスはまだ残されているということなのです。

「死にたい」と誰かに伝えるなんて、とても言いずらいことでしょう。言葉に出せば、それだけで気持ちも不安定になってしまう言葉だと思います。でも、打ち明けてくれたのです。

それを伝えてくれて、本当にありがとう。

まずはつらい気持ちを押し込めずに伝えられたことを評価し、感謝してください。

2.覚えておきたいTALKの原則

自殺の危険が高い方への接し方として、TALKの原則というものがあります。

自殺しそうな人に対する接し方というのは、法則化できるほど単純なものではないかもしれません。しかし、突然「死にたい」と訴えられた時、どう答えていいか分からずパニックになってしまうことは多いでしょう。

TALKの原則はそんな時に役立ちます。万能の法則ではありませんが、TALKの原則にある次の4つの原則を知っておけば、落ち着いて対応できます。

TALKとは、

Tell(伝える)、ASK(尋ねる)、Listen(聞く)、Keep safe(安全を確保する)

の頭文字を取ったものです。対応としてはこの4つを心がけるようにしましょう。

Ⅰ.Tell:伝える

「死にたい」「消えたい」と相手は気持ちを伝えてくれました。それに対して

「心配だ」
「死んで欲しくない」
「あなたが死んでしまったら私は悲しい」

とあなたの気持ちも相手にはっきりと言葉で伝えて下さい。

相手は真剣に自分のつらい思いを打ち明けてくれたのです。その気持ちをしっかりと受け入れたのであれば、こちらの「死んで欲しくない」という思いは、ちゃんと伝わります。

Ⅱ.Ask:尋ねる

自殺の事というのは触れずらいものです。下手に死ぬことについて触れてしまって、自殺を後押ししてしまったらどうしよう、という心配もあるでしょう。

しかし真剣に相手に向き合うのであれば、この話題は避けるべきではありません。むしろ、相手が「死にたい」と言ってるのにその話題を避けてしまうことは、相手の話を真剣に聞いていないと受け取られてしまいます。

今、死にたい気持ちがあるのか、ということははっきりと聞きましょう。

そして自殺の気持ちがあるのであれば、「私は、あなたに自殺をして欲しくない」とはっきりと伝え、状況に応じて必要な対策を取らないといけません。

Ⅲ.Listen:聞く

「死にたい」「消えたい」

このように考えてしまっている背景には様々なつらいことがあるはずです。何となく思いつきで「死んじゃおうかな」なんて考える人はいません。どうしようもなく苦しい出来事が続き、自分ではもうどうしようもないと感じて「死ぬ」という手段以外が見えなくなってしまっているのです。

そのつらい気持ちをひたすら聞いてあげることは、接し方として一番重要なことです。

「話したって意味がない」「話しても現実が変わるわけではない」と言う方もいますが、これはあやまりです。

確かに話を聞いたからといって現状の苦しみがすべて解決するわけではありません。しかし、つらい気持ちは吐き出すことで楽になることができます。誰かに気持ちを吐き出すというのは、とても有用な気分安定法なのです。

Ⅳ.Keep safe:安全を保つ

自殺する可能性が高い方に対しては、現実的に安全を確保することも重要です。衝動的に自殺に至ってしまった場合、命というのは戻りません。万が一にも衝動的な行動に至らないように、物理的に安全を保つことはとても重要な対策です。

つらい気持ちが勝っていると、正常な判断が出来ずに衝動的に自殺行動に至ってしまうことがあるのです。

・身近にある危険なものは隠しておく
・交代で誰か一人はそばについておくようにする
・医療機関に連絡し、できる限り早く受診できるようにする

など取れる対策は全て取りましょう。

どうしても家族だけで対応できない時は、自殺の気持ちが落ち着くまで入院することも有効な手段です。

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3.こんな対応は絶対にダメ

「死にたい」と打ち明けられた時、「死んで欲しくない」と思うのは誰でも同じでしょう。

自殺を思いとどまってくれるように、みなさん色々と考えて接します。「自殺を後押ししてやろう」なんて思って接する人なんて一人もいません。

しかし、残念なことに悪意はなくても本人の気持ちを傷付けてしまう接し方もあるのです。代表的な「良くない接し方」を紹介します。

Ⅰ.励ましてしまう

「そんなこと考えちゃダメだ!」
「気持ちを強く持て!」
「死ぬ気で生きればいいじゃないか!」
「そんな弱音を吐いちゃダメだ!」

本人を勇気づけるためなのですが、このような励ましの姿勢で接してしまう方がいます。

もちろん悪意などなく、「死んで欲しくない」「生きることを頑張ってほしい」という気持ちからなのですが、精神的に疲れ切っている方に対しての励ましは、基本的には推奨されません。

自分の気持ちを理解してもらえない。
やっぱり自分が弱いだけなんだ。

このように考えてしまい、精神的により落ち込んでしまいます。

Ⅱ.自殺の話題を避けてしまう

「死」や「自殺」という内容については、なかなか話しにくいものです。

ましてや目の前にいる人が「自殺」を考えているのであれば尚更でしょう。「私が今、変なことを言ってしまったら、自殺を促してしまうかもしれない・・・」このように怖くなってしまいます。

すると、なるべく自殺についての話題に触れないように、話をそらして接してしまうことがあります。

しかし、何とか力を振り絞って「死にたい」と伝えたのに、その話をそらされてしまったらどう感じるでしょうか。

「私の思いなんて聞いてくれないんだ」
「分かってもらえない」

と感じるでしょう。

自殺についての話題は、簡単に話ずらいことであるのは確かにその通りです。しかし、「死にたい」と打ち明けてきた方に対しては、その話題を避ける方がかえって失礼になってしまいます。

Ⅲ.アドバイスをしてしまう

「仕事がつらいの?じゃあ辞めればいいじゃない」
「ご主人さんとうまくいってないの?じゃあ、離婚したら?」

「死にたい」と相談されると、まずはその理由を聞く方は多いでしょう。これは間違っていません。「なぜ死にたいのか」「どうしてそう思ってしまったのか」を聞くことは、相手の気持ちを理解するためにも大切なことです。

しかし、その理由に対して「〇〇をすればいいよ」とアドバイスをしてしまうのも、基本的にはあまり良くありません。

明らかにアドバイスを与えれば解決するようなケースであればアドバイスをすることもありますが、ほとんどの場合、そのようなアドバイスは本人も分かっています。

「仕事を辞めれば楽になるのは分かっている。でもそうもかんたんに辞められない・・・」
「離婚すれば楽になるのは分かっている。でも子供のことを考えると・・・」と。

「死にたい」と打ち明けた時、「死にたいんで、これを解決する方法を教えてください」という気持ちで打ち明ける人はあまりいません。すぐに解決できる方法を求めているのではなくて、「死にたいくらい辛いんだ」という想いを訴えていることがほとんどです。

また、死にたいほどにつらい気持ちを十分に聞かずに「こうすればいいよ」と淡々とアドバイスされたら、「この人は何も分かってくれていない」と感じてしまうでしょう。

であれば、私たちはすべきなのはアドバイスをすることではなく、その気持ちをできる限り共感・理解しようとすることではないでしょうか。

アドバイスがどんな時もダメだということではありません。しかしアドバイスは、死にたい気持ちを乗り越えた後にしても十分間に合うことです。

4.出来る限り一人にしないこと

TALKの原則にも、Keep Safe(安全を保つ)という項目がありますが、「死にたい」という気持ちが強い方がいる場合は、その人をなるべく一人にしないようにしてください。

なぜかと言うと、自殺は衝動的に行われてしまうことがあるからです。この衝動は正常な判断に基づいたものではなく、「勢い」でやってしまうことがほとんどです。これは絶対に予防しなくてはいけません。

当たり前ですが、人は死んでしまえば生き返りません。あとから「死ななければよかった・・・」と思うことなどできません。

衝動的になった時、周りに誰かがいれば止めることもできますし、落ち着かせることもできます。しかし一人であった場合、その衝動性に任せて行動してしまうことがあるのです。

家族で協力して、一人にしないようにしたり、それがどうしても難しければ入院も検討しましょう。

5.出来る限り早急に医療機関につなげよう

死にたい気持ちが強い場合は、出来る限り早く病院を受診してください。

・病気の症状の悪化ではないか
・入院の適応なのかどうか

など専門家によって判断できることもあります。

また、病院で診てもらった安心感から、死にたい気持ちが和らぐことも少なくありません。

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