「イライラするとすぐ八つ当たりしてしまい、あとで後悔する」
「すぐイライラしてしまうので、人と良い関係が築けない」
「良くないと分かっていてもイライラがどうしても抑えられない」
このようにイライラという感情に振り回されて苦しんでいませんか。
イライラはあなたの心を苦しめ、周囲の人を傷付けてしまう事もあります。そして冷静さを取り戻した時、周囲を傷付けた罪悪感で更に自分も傷付きます。
イライラする時には必ず原因があります。そして原因によって有効な対処法は全く異なります。
イライラが抑えられない方は原因に応じた適切な対処法を行えていないのです。イライラする原因を知り、それぞれに対して根本的な理解ができれば、イライラを防ぐ方法は必ず見えてきます。
これ以上イライラに振り回されるのはもう終わりにしましょう。
ここでは精神科医が、あなたがイライラする原因と原因に合わせた解決法の考え方を紹介していきます。
1.イライラが生じる2つの原因
イライラする時、その原因は大きく2つに分ける事ができます。
それは、「外的な原因」と「内的な原因」です。
外的原因は自分の「外」に原因がある事です。自分の外で生じている原因ですので、自分の努力で原因そのものを解決する事は困難です。そのため外的原因は「その対象を避ける」というのが基本的な解決法になります。
それに対して内的原因は自分の「中」に原因があります。原因が自分の中にあるわけですから外的原因のように避ける事はできませんが、自分の努力次第でコントロールする事ができます。そのため内的原因は原因そのものと向き合って解決していく事が基本になります。
外的原因は避ける事さえできれば簡単に解決できます。しかし根本的な解決にはなっておらず、また状況によってはその原因を避けられないという事もあり、その場合は解決が難しくなるというデメリットもあります。
内的原因は原因そのものと向き合わないといけないため、解決に労力と時間がかかります。しかし諦めずに向き合っていけば根本的な解決ができるというメリットもあります。
イライラする原因を外的原因と内的原因に分けるのは、それぞれ生じるイライラの特徴や解決策が全く異なるためです。両者を分けないで考えてしまうと、イライラを適切にコントロールできるようにはなりません。
では両者のイメージをより具体的につかんでいただくため、そのそれの代表例を挙げてみましょう。
Ⅰ.外的な原因
外的な原因というのは、イライラする原因が自分の外にある事です。
例えば、
- 「他者」の言動でイライラする
- 「薬」の副作用でイライラする
- 気温・湿度・音・光などの「環境」でイライラする
などが挙げられます。
外的な原因は、根本的な解決は難しいのが特徴です。
イライラさせるような言動をする人に対して、その言動をあなたがコントロールする事はできません。もちろん注意したりお願いしたりする事は可能ですが、それが受け入れられるかは相手次第です。
「気温が高くて暑い」「湿度が高くてジメジメする」といった環境でイライラする場合も、これは基本的には変える事はできませんよね(自宅室内など限られた場所であれば変えられるものもありますが)。
そのため、外的原因によってイライラが生じた場合は、
- イライラさせるような人とは距離を取る
- イライラの副作用が出る薬の服用を中止する
- 暑い所、ジメジメした所から離れる
など「原因から離れる事」が解決策になります。
もちろん自分の希望が通る可能性がある場合は、まずは提案をしてみても良いでしょう。例えば職場の室温が高くてイライラするのであれば、「すみません。ちょっと暑いので室温を下げてもいいですか?」と周囲に聞いてみてもいいわけです。
しかし外的原因は自分の希望が必ず通るわけではありません。「自分の希望が通ったらラッキー」くらいに考えておきましょう。
また原因から離れるのが難しい原因もありますが、そのような場合でも出来る範囲で距離が取れないか工夫をする事は有効です。ある程度でも距離が取れればその分だけイライラも減少するからです。
Ⅱ.内的な原因
内的な原因というのは、イライラする原因が自分の中にある事です。
例えば、
- 短気・完璧主義などといった性格・考え方
- うつ病や躁状態、更年期障害などの疾患
- 不規則な生活習慣(睡眠や栄養の偏り)
などが挙げられます。
内的な原因というのは、自分の中に原因があるわけですから、その原因から離れる事は出来ません。そのため原因と向き合う事で解決していくしかありません。
これは言葉でいうのは簡単ですが、実際は時間がかかる事も多いです。
性格や考え方は今までの人生で徐々に形成されてきたものですから、短期間で簡単に変えられるものではありません。
また疾患も早く治るものもありますが、治療に数カ月・数年かかるものもたくさんあります。疾患になってくると自分で向き合う事ももちろん大切ですが、疾患治療のプロである医師の力も借りる必要があります。
生活習慣は上記2つに比べればまだ変えやすいものですが、それでも今までの習慣を変えるというのは簡単ではありません。
内的原因は改善するのに時間がかかりますが、変えられないわけではありません。実際に今の性格だって、人生の中で色々な経験をし、その中で色々と考えてきて今の性格になったわけです。少しずつ変化してきたという事はこれからも変化させる事が出来るという事です。
内的原因を解決するのには時間がかかります。しかし時間をかけてしっかりと向き合っていけば変えていく事は十分に可能です。
2.原因から考えるイライラ解決法の鉄則
イライラする原因には外的なものと内的なものがあります。
それぞれ基本的な解決策が異なり、
- 外的原因は「避ける事」
- 内的原因は「時間をかけて向き合う事」
が基本的な解決法になります。
しかし実際にイライラする原因と詳しく見ていくと、綺麗に原因を分ける事は難しい事にも気付きます。多くの場合、外的原因と内的原因が重なってイライラがひどくなっているのです。
例えば、
「職場の同僚の態度が悪く、自分も短気なのでひどくイライラしてしまう」
「夫が話を聞いてくれず、更に更年期障害も重なっていてイライラが抑えられない」
などです。
この時、大切なのは「イライラする原因」を分解する事です。
外的原因は何で内的要因は何なのか。
このように原因を分解する事は、イライラに正しく対処するために非常に役立ちます。
外的原因は原因そのものを変える事は難しいとお話しました。そのため明らかな外的原因がある場合、解決策はその原因を避ける事になります。もし避ける事ができれば問題は簡単に解決します。
「隣人がうるさくてイライラする」という外的原因に対して、一番簡単な解決策は「静かな所に引越す」です。これが外的原因を避けるという事です。
でも避ければ解決すると分かっていても簡単には避けれない事もありますよね。例えば、隣人の声がうるさくてイライラしていたとしても、ローンを組んでその家を購入したばかりであれば簡単には引っ越せません。
このように避けるのが難しい外的原因である場合は、可能な限り距離を取る工夫をしつつも、内的原因に焦点を当てて解決していくしかありません。
これは、「お年寄りの方で耳が聞こえずらいから大声になってしまうのかな」などあまりイライラを感じなくなるような受け取り方をしてみたり、特にうるさい時間に外出する予定を入れるように生活習慣を変えてみたりという方法になります。
イライラを解決する鉄則は、このように「外的原因の除去の検討⇒内的原因の除去の検討」という順序で考えていく事です。
まずはイライラする原因を外的原因と内的原因に分け、外的原因を避ける事を出来ないか検討します。
外的原因が大きな問題なく避けられれば最良です。距離を置く事でイライラは生じにくくなるでしょう。
もし外的原因を避けるのが難しいようであれば、出来る範囲で距離を取るようにし、その上で内的原因に対しても解決を試みていくのです。
これを逆にしてはいけません。
態度が悪い人に対してイライラしているのに「態度が悪い人にもイライラしないように寛容な心を持とう」と内的原因での解決を重視してしまうと、あなたの心にいつも無理を強いる事になってしまいます。
このような対処法が必要な事もありますが、毎日毎日そのような無理を自分に強いてしまうと、やがて心は疲弊してしまうでしょう。
3.原因別イライラ解決法【外的原因】
イライラが生じた時は、まずは外的原因がないかを考えてみましょう。
外的原因の解決法は単純です。原因自体を変える事は出来ないので「避ける」「距離を取る」しかありません。
実際は距離を取れない事も多いのですが、あきらめず外的原因に対して少しでも距離を取れないかを考えてみましょう。
代表的な外的原因の具体的な解決法を紹介します。
Ⅰ.人
イライラする原因として最も多いのは「人間関係」です。
人は皆、意志を持っています。そのため私たちは人の言動を完全にコントロールする事は出来ません。不快な行動をする人がいても、それを完全にやめさせるというのは難しいのです。
また人間関係というのはそう簡単に関係を切る事が出来ないのも問題を難しくさせています。「あの人といるとイライラするから金輪際もう会わない!」と思ったとしても、それを実際に出来る事ってなかなかありません。
イライラするけど、血のつながりがある相手だから距離を取る事は難しい。
イライラするけど、職場の直属の上司だから毎日顔を合わせないわけにいかない。
イライラするけど、夫だから離れて暮らすわけにはいかない。
など、原因から離れればイライラが治まると分かってはいても、簡単には距離を取れないものも多いのです。
しかしだからといって解決策が何もないわけではありません。
もちろん大きな問題なく距離を取れる相手であれば、距離を取るのが最良です。しかし完全に離れるのが難しい相手でも、出来る限り距離を取れないか工夫をすべきです。距離が取れれば取れるだけ、イライラも軽減するからです。
例えば、どうしても夫と長く一緒にいるとイライラしてしまうのであれば、程良い距離感を作るために、お互い習い事を始めたりなど自分の時間を持つように提案してもいいわけです。
また人間関係でイライラするというのは、その相手の全てが嫌なわけではありません。「あの人のあの性格がイヤだ」「あの人のあの口調がイヤだ」などその人の一部にイライラするのです。
そのためその人自体から離れるのではなく、その人のその問題点だけ治してもらうようお願いする事も有効です。ただしそれを受け入れるかを最終的に判断するのは相手なので、「話せば治してもらえる」と考えてはいけません。「受け入れてくれたらラッキーだな」くらいの気持ちでお願いするようにしましょう。
Ⅱ.物(もの)
同じ外的原因でも、物は人と比べると解決は簡単です。
なぜならば人は意志を持っていますが、物は意志を持っていないからです。
例えば、「あのパソコンを使うと遅くてイライラする」という事であれば、そのパソコンを使うのを止めて、もっと性能の良いパソコンを使えばいいわけです。
金銭的な負荷はあるかもしれませんが、解決法は人間関係と比べると明確で簡単になります。
Ⅲ.環境
環境も、人間関係と比べれば離れやすい傾向にあります。
暑くてイライラする。
湿気が多くてイライラする。
音がうるさくてイライラする。
まぶしくてイライラする。
このような場合、その場所から離れれば問題は解決できるからです。
離れられない場合も、
- 衣服で体感温度を調節する
- 耳線を使う
など、工夫によってイライラを緩和できる事もあります。
4.原因別イライラ解決法【内的原因】
イライラが生じた時、まずはすべき事は外的原因がないかのチェックです。そして外的原因がある場合は、「その原因から距離を取れないか」を考えます。
- 外的原因から距離を取れない
- 明らかな外的原因がない
などの場合は、次に「内的原因」について焦点を当てていきます。
内的原因は自分の中にある原因であるため、解決にはその原因と向き合う必要があります。これは時間と労力が必要ですが、時間をかければ少しずつ改善させる事は十分に可能です。
最後に代表的な内的原因と具体的な解決法を紹介します。
Ⅰ.性格や考え方
イライラする内的原因で、もっとも多いのは性格や考え方になります。
- 短気
- 怒りっぽい
- 頑固
などといった性格傾向の方がイライラしやすいのはみなさんイメージしやすいと思います。しかしそれ以外にも、
- 完璧主義
- 几帳面
- 正義感が強い
- 自分に厳しい
- おとなしい
- 真面目
といった性格傾向の方もイライラしやすい傾向にあります。
完璧主義や几帳面の方は、何事も厳しく判定するため「認められない」「許せない」と判断を下す事が多く、これによってイライラが生じる頻度が多くなります。
真面目な方やおとなしい方は、周囲へ過度に気遣いをして、その分自分が我慢する事が多いため、日頃からストレスを溜めがちです。これによって気持ちに余裕がなくなり、些細な事でイライラしやすくなってしまう事が少なくありません。
性格・考え方を変えるためには、
- 「イライラしても自分に得はない」と考え方を変えるメリットを頭で理解する
- 自分が納得できるような理由を考え、そのように受け取る(価値観を広げる)
という方法を取ります。
例えば、職場の部下の行動が遅くて、自分は短気でせっかちだからイライラしてしまうという状況を考えてみましょう。
外的原因としては明らかに「部下(人)」ですから、この部下がいなくなればイライラは解決します。しかし部下そのものにイライラしているわけではなく、部下の「行動が遅い」という点のみにイライラしているのですから、それだけで相手を解雇したり自分が退職したりというのは最初から考えるべき方法ではないでしょう。
そのため、まずは相手に自分の気持ちをお話しし、改善を提案しても良いでしょう。
改善を提案してもなかなか治してくれなければ、出来る範囲でその部下と距離を取るようにするのも方法です(もちろん仕事に支障が出ない範囲で、です)。
それでもイライラしてしまう時は「考え方(短気・せっかち)」という内的原因について解決を図っていきます。
まずは落ち着いて、部下にイライラしても自分にも何の得もないし、イライラして部下に強く当たってしまえば部下だって余計治す気をなくしてしまう。いい事なんてないなという事を再度認識しましょう。
その上で、
「もしかしたらプライベートで大変な事があって、あまり頭が回らない状況なのかもしれない」
「判断力や集中力が下がるような疾患を持っている方なのかもしれない」
「行動は遅いけど、でもその分ミスが少ないからいい面もある」
と、自分が納得しやすい受け取り方を考えてみるのです。
それが事実かどうかは分かりません。しかし「そうだったらまぁ、行動が遅くても仕方ないな」と自分が感じられればいいのです。
私たちは自分が納得できない事に対してイライラします。反対に言えば自分を納得させられればイライラは減るのです。
万引きした少年を見れば誰だって「常識がない」「不良だ」とその子にイライラするでしょう。しかし「実は先輩に脅されて仕方なくやった」と聞けば、「それはその子は悪くない」「可哀そうだ」とその子に対するイライラは消えます。
この方法を取ったからと言って、すぐにイライラが消えるわけではありません。自分の性格や考え方は簡単に変える事は出来ないからです。
しかし意識して毎回このような考え方を出来るようになれば、必ずイライラの程度は低くする事ができます。
Ⅲ.体調
身体の調子が悪いと、これもイライラする原因となります。
- 疲れれて、いつもより身体がだるい
- 夜更かししてしまって、いつもより寝不足だ
- 食事を抜いていて、いつもよりお腹が減っている
このような状態だと、気持ちにも余裕がなくなるためイライラしがちになります。みなさんも経験があるのではないでしょうか。
このような原因も自分の中にありますので、自分で工夫して生活習慣を改善させましょう。
このような生活習慣が慢性化している場合、自分でも原因と原因と認識できていない事もあります。中には「自分は朝食を抜いた方が調子がいい」「自分は4時間睡眠が調子がいい」と信じているけど、実際は栄養不足や睡眠不足があってイライラの原因になっている事もあります。
イライラが強い場合は、生活習慣に問題がないかを見直し、疑われるところは改善をしてみる事も重要です。
Ⅲ.疾患
疾患によってイライラしやすくなっているという可能性もあります。
特に精神疾患は精神状態が不安定になりますので、気持ちの余裕がなくなり些細な事でイライラしてしまいます。
具体的には、
- 統合失調症
- 双極性障害
- うつ病
- 不安障害
- パーソナリティ障害
- 認知症
- 更年期障害
- 月経前症候群(PMS)
- 発達障害、注意欠陥多動性障害
- 不眠症
などなど、イライラする原因となる疾患は数多くあります。
疾患が原因である場合、基本的には病院での治療が必要になります。自分が向き合う事ももちろん大切なのですが、自分だけで疾患に向き合うのではなく、疾患治療の専門家である医師とも協力して向き合っていくようにしましょう。
自分なりに工夫をしてもイライラが一向に治まらない場合は病院を受診して原因精査をしてもらいましょう。