かける言葉が見つからない時は、どう接すれば良いのか

かける言葉が見つからない時

悩み事を相談された時、その悩みや苦しさは十分に理解できるし、何か助けになってあげたいのだけど、かける言葉が見つからないことがあります。

例えば、

「長年連れ添った最愛の夫に先立たれてしまい、自分も死にたい」

と相談を受けたとき、悲しくなってしまう気持ちは理解できます。しかし気持ちが分かるからと言って「そうだね。死ぬのもいいかもね」なんて事にはなりません。かといって「元気出しなよ」と軽はずみな励ましをしてしまえば、相手は余計に傷ついてしまうかもしれません。

このように有効な解決策が見当たらない悩み事を相談されると、「何か力になりたいけど、どう接したらいいのか分からない」と困ってしまう事はないでしょうか。

このような時は、どのように接すれば苦しんでいる方の気持ちを少しでも和らげることができるのでしょうか。

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1.自分ならどうして欲しいのか考えてみる

大きなショックを受けるような出来事に遭遇してしまった人に対して、かける言葉が見つからないことがあります。

最愛の人を急に失ってしまって落ち込んでいる人に、軽はずみな言葉をかけるわけにはいきません。

人生の全てをかけて勉強に打ち込んできた試験に落ちてしまった人に、「まぁ仕方ないよ」と簡単に言う事は出来ないでしょう。

このような苦しみに対して、軽はずみな発言やアドバイスをしてしまうと、かえって本人の苦しみを強めてしまう可能性もあります。「変な言葉をかけてしまったら余計傷付けてしまうかもしれない」という不安からどうしていいか分からずに、「下手に関わらずそっとしておこう」と避けてしまう方もいらっしゃると思います。

このような状況に陥ってしまった人の助けになりたいと思った時、一体どのような言葉をかければ相手のつらい気持ちを少しでも和らげてあげる事が出来るのでしょうか。

このような時は、まず「自分ならどうして欲しいのか」という視点で考えてみる事が大切です。解決策がないような大きな苦しみが自分に生じている状況をイメージしてみましょう。

例えば、

  • あなたにとって大切な人が急に亡くなってしまった
  • 非常にストレスフルな仕事をしているが、諸事象ですぐに辞める事は出来ない
  • 夫からひどい暴言を受けているが、諸事情ですぐに夫と離れる事は出来ない

など、解決法が見当たらない状況に自分がいるとイメージしてみてください。

あなたは苦しい毎日を送っています。この時、周囲の方がどのように接してくれたらあなたの気持ちは楽になるでしょうか。

もちろん人の考え方はそれぞれなので、絶対的な答えはありません。話を聞いて欲しいという人もいれば、そっとしてほしいという人もいるでしょう。しかし大多数の人は大きく傷ついているとき、あまりあれこれ軽はずみなことを言われたくないけど、一方で一人だとつらいし誰かに寄り添ってもらいたいという気持ちも持っています。みなさんもそうではないでしょうか。

「いつでも話を聞くよ」
「私に出来る事があったら何でも言ってね」

このように言ってくれる人が周りにいるだけでも、気持ちが少し楽になりませんか。

私は精神科医ですので人の悩みを聞く機会が多くあります。多くの悩みに向き合ってきましたが、人の悩みの多くはすぐに解決できないものばかりです。そもそも簡単に解決できるような悩みであれば、最初からそこまで深く悩むことはありません。よく考えれば当たり前の話ですが、簡単に解決できないからこそ深く悩むわけです。

そして悩んでいる本人も、その悩みを魔法のようにすぐに解決してくれる方法がない事は気付いています。

「仕事のストレスがとてもひどいが、諸事情で今すぐにやめる事は出来ない」
「親との関係がストレスだが、家族だから縁を切ったり距離を置いたりする事は出来ない」
「大切な人が急に亡くなってしまい、とてもつらい」

このような苦しみに対して、すべてをすぐに解決できるような方法というのはまずありません。ではこのような苦しみを抱えている人に周囲の人が助けになれる事は何もないのでしょうか。

もちろんすべてを解決できる方法があればそれが最良ですが、その方法がないからと言って周囲の人が何も助けになれないわけではありません。

悩みそのものを解決できなかったとしても、その悩みに耐えれるだけの気持ちの余裕があれば、つらい悩みは持ちながらも心身の調子を大きく崩すことなく生きていくことはできます。

そしてつらい時というのは自分ひとりだと気持ちの余裕を持つことはなかなか難しいのですが、周囲の人からの支えや共感があれば気持ちに余裕を作る事はできるのです。

誰かが自分の事の味方でいてくれる、誰かが自分の苦しい気持ちを理解してくれている。このような状況は気持ちを安定させ、気持ちにいくらかの余裕をもたらしてくれるのです。

現実的には悩みの根本的な原因は解決していなかったとしても、このような気持ちになる事が出来れば、こころを平穏に保ちながら生活する事が出来ます。

つまり、かける言葉が見当たらないような苦しみに対して周囲の人が出来る事は、頑張って解決策を探そうとする事ではないのです。本人の気持ちを知り、心から共感し、支えてあげようという姿勢を持つ事です。

もちろん本人が気付いていない解決策があって、それを伝えれば明らかに状況が改善するという事であれば現実的なアドバイスをしてもよいでしょう。しかし多くの場合、そのようなケースは多くはありません。

かける言葉が見つからない人の苦しみを和らげる方法は、本人の苦しい気持ちや背景をただひたすらに聴き、本人の気持ちを出来るだけ理解しようという姿勢を持ち、「自分はあなたの味方だよ」「自分には根本を解決する事はできないけど、あなたの助けになりたいと思っている」という気持ちを伝える事です。

現実的には何も変わらなかったとしても、周囲のその姿勢が安心感を与え、心が楽になるのです。それによって苦しい毎日が少しずつ和らいでくるのです。

2.現実を変えることが出来ないのは相談者も分かっている

私は日々、精神科医として診察を通して患者さんの悩みを聞かせていただいています。

数多くの方の悩み事を聞いてきて感じる事は、相談者自身も「この悩み事をすぐに解決できるような方法は存在しない」という事を分かった上で悩み事を相談しているケースが少なくないという事です。

では何のために相談しているのかというと「この悩みの解決策を私に教えてください」という理由ではなく、「つらい気持ちを少しでも吐き出したい」「誰かに分かってもらいたい」という気持ちからなのです。

この事を理解できていないと、悩んでいる人を助けるどころか、かえって傷付けてしまう事になってしまいます。

「仕事を今はどうしても辞められない事情があるのだけど、とてもつらい」

という悩みに対して、

「なんで?辞めればいいじゃない」
「辞める以外にないよ。それ以上はアドバイスできる事はないよ」

と現実的な回答だけに終始してしまえば、たとえそれが正論であったとしても、悩んでいる本人に安心を与える事はできないでしょう。

私自身、医学生時代や研修医といった未熟だった頃、患者さんの悩み事を聞いて。「その悩みを解決するにはどうしたらいいのだろうか」と必死で解決策を探していたことがあります。

「仕事がつらくて、このままではおかしくなりそうです」と訴える方を救済する方法はないのかと探し、「仕事より命の方が大切です。すぐに辞めましょう」「日本は福祉制度が充実していますので、仕事がなくなっても生きていけなくなることはありませんから大丈夫ですよ」と具体的な解決策を何とか探して患者さんに伝えていました。

しかし、その程度の事は本人もすでに分かっているのです。重度のうつ病で判断力が低下している場合を除けば、「仕事よりも命が大切」「仕事を辞めれば仕事の苦しみは解決する」という事は重々理解しています。職がなくなっても今の日本では餓死したりする可能性は低いという事も分かっているでしょう。

ですが、このようなアドバイスを聞いて「そうですね、じゃあ仕事を辞めます」とスッキリ解決する事はまずありません。

そんなに簡単に仕事を辞めて済む話であれば、誰かに相談などせずに、すでに自分でそう決めて仕事を辞めているでしょう。

仕事を辞めたいという気持ちはあっても、「家族を養わないといけない」「無職になったら家族にみじめな思いをさせてしまうかもしれない」といった様々な思いがあり、簡単に仕事を辞められる状況ではないのです。

このようなすぐに解決できない状況では、すぐに状況が好転するような解決策は残念ながらありません。

この場合で大切なのは存在しない解決策を探すのではなく、本人の気持ちが少しでも楽になるよう話を一生懸命に聞き、精神的に支えていくことなのです。

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3.相談というのはアドバイスを常に求めているわけではない

自分には今かける言葉はみつからない。でも何とかしてこの人の助けになってあげたい。

誰でもこのような思う事があるでしょう。

私自身、精神科医という立場でありながらどうやってもかける言葉がみつからないことがあります。

医学生や研修医だった頃は、どうやったらこの人が一番満足がいく答えを出せるのが、ということを必死で考えていたこともありました。

でも、残念ながらそんな言葉はないのです。

どんなに仲のよい人でも考え方や置かれている環境は皆異なります。そのなかでとても傷ついた気持ちがあるとき、「こうすれば解決だよ」と簡単に言えるものではありません。

私たちに出来ることは傷ついた心に安心を与え、少しでも早く自分の力で立ち直るように見守っていくことなのです。

「私は常にあなたの味方で、絶対に見捨てないよ」
「あなたにとって私は大切な存在なんだよ」
「聞くことしかできないかもしれないけど、つらいことは話して欲しい」

このようなメッセージを相手に伝えていくことです。

私たち人間1人の力というのは限られています。何か問題が生じている人に対して、全てを解決してあげられるような力などはありません。

しかし問題そのものを解決できないからといって、「自分に出来る事はなにもない」と考えてしまうのは違います。

悩んでいる本人だって、誰かに相談したからといって、魔法のようにすべてが解決するような答えなどはない事は分かっています。誰かに相談したからといって、明日からの仕事がつらくなくなるわけではありませんし、大切な人が生き返るわけでもありません。

そしてそのようなありもしないような解決策の提示を求めているわけではないのです。

つらい気持ちというのは、自分の中に溜め込んでおくとどんどん膨れ上がっていきます。言葉にして外に吐き出すことでつらさは少し和らぎます。また誰かに聞いてもらう事・安心を感じる事ができるような言葉をもらえる事でもつらい気持ちは和らぎます。

すぐに解決できないような問題で悩んでいる方に対して私たちが出来る事は、ありもしない解決策を探す事でもないし、「下手な事を言ってかえって傷付けたら怖いから放っておこう」と避ける事ではありません。

本人のつらい気持ちを聞き、少しでも理解しようという姿勢を持ち、一人じゃないんだよという事を伝える事です。現実的に何も解決できなかったとしても、悩んでいる方に寄り添って安心を与えてあげる事は、皆さんが考えている以上に心強いもので心を穏やかにしてくれるものなのです。

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