自分にとって到底許容できないような言動をみると、「ムカつく!」という感情が沸きあがってきます。
この不快な感情は私たちのこころを不安定にさせます。イライラ・ムカムカして冷静ではなくなるため、衝動的に普段言わないようなひどい事を言ってしまったり、普段取らないような行動をとってしまう事もあります。
このようなムカつく気持ちに任せて衝動的に行動してしまうと、ほとんど場合で良い結果にならず、後々で後悔する事になります。
この「ムカつく」という感情を上手に扱えるようになると、今よりも楽に生きる事が出来るようになります。ムカつくという感情が生じても、自分を見失わずに冷静に行動できれば、不要に自分や周囲のこころを傷付ける事もなくなるでしょう。
そしてこれはちょっとした工夫で出来る事なのです。
ここでは「ムカつく」という感情が生じた時、どのように考えれば気持ちを治める事が出来るのかをお話しさせていただきます。
1.ムカつくという感情が引き起こす問題
どんなに穏やかに見える人でも、生きていれば「ムカつく」と感じる事はあるでしょう。このような感情を今までに1回も持った事がないという人はいないはずです。
ムカつくという感情は、私たちにとって不快なものです。もし、このような気持ちを生じさせない事が出来れば良いのですが、残念ながらそれは不可能です。
一般的にムカつくという気持ちは、誰かの言動に対して生じます。「アイツの発言にムカついた」「あの人の行動にムカついた」など。
私たちは他者の言動をコントロールする事はできません。という事は、社会の中で人と接して生きていれば「ムカつく」出来事を避ける事は出来ないという事です。
避けられない感情である以上、無理矢理生じさせないようにするのではなく、この感情が生じた際に適切に対処できるようにする事が大切です。
ではこの「ムカつく」という感情は私たちにどのような問題をもたらすのでしょうか。
「ムカつく!」という感情は不快なものです。不快なものは私たちにとってストレスとなり、こころにダメージを与えます。つまりムカつく気持ちばかり生じていると、精神が疲弊していくという事です。
また日々ムカついている事が多いと、イライラして冷静さを欠きがちとなり、一時的な感情に任せて衝動的な行動をとりやすくなってしまいます。これはあなたの人生を不利益なものにしてしまうでしょう。
ムカつく事によって精神が疲弊していけば、
- 眠れない
- 食欲がない
- 集中できない
- 好きな事を楽しめない
- 疲れが取れない
- 怒りのやり場がなく自分を傷付けてしまう
などといった症状が生じてしまう事もあります。
ムカつくという感情が過度に生じると好ましくない事が分かりますね。
心身共に穏やかに毎日を過ごせるようになるためには、この「ムカつく」という感情を上手に扱えるようになった方が良いのです。
2.私たちはどうしてムカつくのか
ムカつく気持ちをコントロールできるようになるためには、この感情がどうして生じるかを理解していかないといけません。
では「ムカつく」という感情はどうして生じるのでしょうか。
「ムカつく!」という感情は、相手の言動が自分の常識から外れていると判断された時に生じます。
例えば同僚があなたの事をからかって、それに対してあなたが「ムカつく」と感じたとしましょう。でも同僚は悪意なく冗談のつもりでからかっただけだと言います。
ただの冗談だったのにあなたがムカついたのはどうしてでしょうか。
これはあなたの中の常識では、同僚のからかいの程度が冗談のレベルではなかった(=許容できるものではなかった)ためです。
その同僚にとっては冗談のレベルだった(=許容できるものだった)のですが、少なくともあなたにとってそれは冗談のレベルを超えていた(=許容できるものではなかった)のです。
テレビの出演者に対して「この人、なんかムカつくな」と感じる事があります。これもあなたの常識と照らし合わせると、その出演者の話し方や立ち振る舞い、態度などが許容できるものではなかったからです。
ここで大切になってくるのが、ムカつくかどうかの基準となる「あなたの中の常識」です。
常識は一見すると万人に取って共通のものであるような印象を受けます。しかし実際は人によってそれぞれの「常識」は異なります。
これが皆同じであれば「あいつの言動にムカついた!」という事はほとんど起こらないはずですが、実際は人によって常識は異なるため、そのギャップが「許容できない(=ムカつく)」を生み出すのです。
この世の中には「一般常識」と呼ばれているものがあります。
これは、
「人に迷惑をかけてはいけない」
「親は大切にしなければいけない」
「人の物を盗んではいけない」
など、多くの方にとって常識と考えられている事です。みなさんもこのような一般常識を両親や学校の先生から学んだと思います。
一般常識は多くの方にとっての常識ですので、ここから外れた言動をすれば多くの人からムカつかれてしまいます。
このような一般常識は比較的、万人に共通している常識だと言っても良いでしょう。しかし一般常識の他にも私たちはそれぞれ、自分の中での常識を持っています。
例えば、ある人は「学校は絶対に休んではいけない」という常識を持っています。この人は、どんな事があっても学校を休みません。しかし別の人は「学校は理由があれば休んでも良い」という常識を持っています。この人はちょっと体調が悪かったり、家族の用事がある時などは学校を平気で休みます。
その常識が自分の中だけで適用されているのであれば、何も問題は生じません。その常識を他者にも当てはめようとする事で「ムカつく」という感情が生じてしまうのです。
「学校は絶対に休んではいけない」という常識を持っている人からすれば、ちょっと体調が悪いくらいで休んでいる人は「非常識」なのです。相手に自分の常識を当てはめた時、「自分は学校は滅多に休まないのに、あいつはちょっとしたことで休むなんてムカつくな」となるわけです。
3.自分の中の常識を広げてみよう
「自分の中の常識」と照らし合わせて許容できない出来事が生じると、私たちは「ムカつく」と感じます。
という事は自分の中の常識を広げて、許容できる価値観が多くなれば、ムカつくという感情は生じにくくなるという事です。
この考え方は、ムカつくという感情をコントロールするために重要です。
自分の中の常識が、幅広く様々な事に理解あるものであれば、「まぁそういう風に考える人もいるよね」と相手の言動を受け入れやすくなり、ムカつく事も少なくなります。
例えばちょっと知り合っただけですぐに馴れ馴れしくしてくる人がいたとして、あなたがその事に対して「なんかムカつく」と感じたとします。これは「すぐに馴れ馴れしくするのは失礼だ」というあなたの常識があるという事です。
しかし視野を広げて「すぐに人と仲良くなれるっていうのも素敵だよね」と考える事が出来れば、この相手の言動はムカつくものにはなりません。
一般的に年配の方よりも若者の方が「ムカつく」という感情を感じる事が多いのですが、これは若者の方がエネルギーがあるからという理由だけではありません。年配の方の方が長く生きている分、様々な常識や価値観を受け入れる事が出来ているためです。
自分が持っている常識に固執するのではなく、「自分はこう思っていたけど、違う考え方もあるんだな」と価値観を広く持てるようにしましょう。するとムカつく気持ちを少なくする事が出来ます。
では常識を広げる(=幅広い価値観を持つ)ためにはどのような事を意識すればいいのでしょうか。
これは色々な考え方やもののとらえ方を経験する事です。
本を読んだり、沢山の人の話を聞いたりして、自分以外の人間のもののとらえ方を経験していきましょう。そうする事で世の中には様々な考え方がある事が分かってきます。
4.見方が変わればムカつくかも変わる
前項では「自分の中の常識」という視点から見てみましたが、それ以外にもそのムカつく言動がどうして生じたのか、その背景を知る(あるいは自分なりに理解する)事も有用です。
相手が取った言動を表面的に見て「ムカつく」と感じたとしても、そのような言動を起こした背景を知れば、「まぁそれなら仕方ないな・・・」ムカつく気持ちが治まっていく事もあるのです。
例えば、いかにも素行の悪そうな少年がお店で万引きしたのを見たとしましょう。
「不良少年が万引きをした」という行動を表面的にみた時、あなたはどう感じるでしょうか。
一般的な反応というのは、
「親の教育がなってない」
「将来ロクな大人にならない」
「親不孝者だ」
このように感じる方が多いのではないでしょうか。「ムカつく行動だ」と感じる方も多いかもしれません。
しかし、もし次のような背景があったらどうでしょうか。
実はこの少年の父親はすでに他界していて、母親は大病をしていてずっと入院している。子供ながらに何とか母を元気にする方法はないかと一生懸命インターネットで探していたら、「〇〇という薬を飲んだら病気が治った」という記載があった。その薬を飲めば母親が元気になるのではと思ったが、お金がないため、やむを得ず薬局でその薬を盗んでしまった。
先ほどと同じように「親の教育がなっていない」とムカつくでしょうか。「こいつは将来ロクな大人にならない」と腹が立つでしょうか。
もちろん万引きはいけない事です。しかしこのような背景を知れば、
「万引きしてしまう気持ちは分かる」
「自分も同じ状況だったら万引きしていたかもしれない」
「優しい子だ」
と感じる方も多いのではないかと思います。先ほどの行動を表面的に見たときよりもムカつくという気持ちは小さいのではないでしょうか。
このようにムカつくという感情は、その言動を起こした背景にによっても大きく異なってくるのです。
と言う事は、あなたにとってムカつくような言動があったとしても、自分を納得させるだけの理由があれば、ムカつかずに済む事もあるという事です。
そしてここに、むかついたり腹が立った時の気持ちの持っていき方のヒントがあるのです。
5.何らかの事情があるのではないかと考えてみよう
私達は、他人の気持ちを100%理解する事など出来ません。
どんなに仲の良い相手だったとしても、例え長年一緒に暮らしている家族であっても、お互いの気持ちを100%完璧に理解しあう事は不可能です。
という事は、私達は相手に対する一部の情報をもとに、その人に対する判断をしているという事です。自分が知らない相手の一面というのは、必ずあります。
何かムカつく事をされたり、腹が立つような事があった場合は、「そうせざるを得ない何らかの事情があったのではないか」という視点を持ってみる事は大切です。
実際、人を不快にさせる行為をしてしまったときに何らかの事情がある事がほとんどです。完全な嫌がらせや暇つぶしのみの理由でこのような行為をする人はかなり稀です。
例えば、友達とケンカをしてしまい「あんな奴だとは思わなかった」とムカついたとします。この時、「もう絶交だ!」「こんなヤツとは二度と関わりたくない」と判断する前に、「あいつがあんな事を言うなんて何か事情があったんじゃないか」という視点を持つようにしましょう。
もしかしたら人生を投げやりに考えてしまうような辛い出来事があって、イライラして口調も強くなっていたのかもしれません。だとしたら今、「なんてひどい事を言ってしまったんだ」と反省しているかもしれません。
そう考えると、
「まぁ、自分だって気持ちに余裕がない時は、人に当たってしまう事があったな」
「どんな時でも冷静でいれる人なんていないよな」
とムカつく気持ちも治まっていくはずです。
人は皆それぞれ、様々な事情を抱えて生きています。いつでも常に余裕がある人なんていません。余裕がなくて八つ当たりをしてしまう日もあるでしょう。つい誰かにひどい言葉をかけてしまう事だってあるでしょう。
それが単純な嫌がらせや悪意で言っているのであれば、それに対して「ムカつく」と感じるのは仕方ない事ですし、絶交になってしまってもやむを得ません。しかし実際にそんな理由で相手が不快と感じる言動をする人はほとんどいません。
あなた自身、理由もなく「相手を不快にさせてやろう」とか「ヒマだから嫌がらせをしてやろう」と考え、そのような行動を起こすでしょうか。
そんなことはしないはずです。このような言動をついしてしまう時というのは、「イヤな事があってムシャクシャしていた」などといった事情があったのではないでしょうか。
もちろん「事情があれば他者を不快にしてもいい」という事ではありません。他者に害を与える行為は、いかなる事情があってもしてはいけない事です。
しかし相手の事情を知る事は、今生じている「ムカつく」という怒りをいくらか鎮めてくれるのです。そしてこれはあなたと相手の両者にとっていい影響となります。
「何らかの事情があったのではないか」という考え方は、自分自身の怒りの感情を鎮めるだけでなく、対人関係を良好に保つためにも非常に有用な考え方です。
これは少し考え方を変えるだけで出来る事です。ぜひみなさんも取り入れてみて下さい。