うつ病治療に効果的な運動とは。

うつ病に運動が良い理由

うつ病の治療というと、抗うつ剤などの薬物療法を思い浮かべる人は多いでしょう。

抗うつ剤がうつ病の治療に有効なのは事実です。しかし一方で、抗うつ剤などお薬による治療だけでは限界があるのもまた事実です。

多くの研究結果や臨床経験をまとめると、抗うつ剤を使った場合、うつ病患者さんのうち1/3は改善し、1/3は部分的に改善し、1/3は改善しないというのが今の抗うつ剤の成績です。抗うつ剤は有効である一方で、お薬だけの治療では限界があるのがよく分かる結果でしょう。

ではお薬以外の治療としては、どのようなものがあるのでしょうか。

うつ病治療として有効なものは色々と報告されています。そのうち、自分で手軽に始められるものというと「運動」があります。

運動は、適切な時期に適切な負荷で行えば、うつ病の改善に大きく役立ってくれるものです。

うつ病の治療として運動を取り入れる場合、どのような事に気を付けて、どのような時期から開始すれば良いのでしょうか。

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1.運動がうつ病に良いという医学的な理由

身体を動かせば気分も晴れる。

これは感覚的にみなさんも理解出来ることではないでしょうか。誰でも、運動していい汗をかき、すっきりした気分になったという経験はあると思います。

しかしこういった感覚的な話ではなく、運動がうつ病に良いという根拠はあるのでしょうか。

実は運動をすると、脳の前頭前野や海馬と呼ばれる部位の体積が増え、血流が増加し、BDNF(脳由来神経栄養因子)が増加することが多くの研究で明らかにされています。これが運動がうつ病の治療に良いと言われる医学的な理由です。

うつ病の原因は様々な仮説が提唱されており、まだ完全には解明されていません。しかし最近の研究では、ストレスに晒される事で脳の前頭前野・海馬を中心とした萎縮やBDNF低下が生じ、それがうつ病を引き起こすのではないかと提唱されています(これを神経可塑性仮説と言います)。

神経可塑性仮説に基づけば、脳のBDNF低下がうつ病の原因であるため、BDNFを増やす作用がある運動は、うつ病の改善に効果があり、有効な治療だと言う事ができます。

BDNFはその名の通り「神経の栄養」のようなもので、脳のBDNFが多くなると脳の神経が新生が活性化されることが分かっています。すると、セロトニンやノルアドレナリンなどを分泌する神経も増えるため、脳のセロトニン・ノルアドレナリンも増えていき、うつ病を改善させてくれるのです。

また、運動で身体に適度な疲労を与えることは、夜の睡眠が深くするという作用をもたらします。疲れた日にぐっすりと眠れた経験は誰でも一度はあるでしょう。うつ病患者さんは不眠症状に悩まされていることも多いため、運動で深部睡眠が増えることもうつ病の経過に良い影響を与えてくれます。

更に、うつ病の方は食欲が低下することも多く見られますが、運動によって胃腸が刺激されれば食欲が改善しやすくなります。

まとめると、運動をすることは、

・脳のBDNFを増やす
・眠りを深くする
・食欲を改善する

という効果からうつ病の改善が期待できるのです。

医学的に見ても、うつ病の治療として適度な運動を取り入れる事は理に適っていることだと言って良いでしょう。

2.運動はうつ病治療のどのタイミングで取り入れるべきか

うつ病治療のひとつとして、運動が良いことは分かった。

では、いつから取り入れればいいのか、というのが次に疑問に感じるところでしょう。

実はうつ病治療に運動を取り入れる時期は、いつでも構いません。

もちろん例外がないわけではありません。しかし、

・重症で身体が動かず寝たきり
・抗うつ剤の副作用で身体がふらふらする

などの常識的に考えて「今は運動が出来ない」「今運動したら危険だ」という特殊な状況でない限り、いつでも取り入れる事の出来る治療なのです。

しかしうつ病の際に運動をするには注意点が一つだけあります。それは、

翌日に負担が残らない程度の運動にする

という事です。

その理由は後述しますが、うつ病の治療としての運動は、翌日に疲れを残してはいけません。

つまり、具体的に考えると、

・うつ病の症状がひどい時は散歩などの軽い運動にとどめる
・改善してきたら、少しずつ負荷を上げていく
・かなり良くなってきたと感じたら、更に負荷を上げていく

と症状と相談しながら段階的に負荷を上げていくことが重要だと言う事です。

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3.うつ病治療にはどんな運動が良いのか

うつ病に良い運動とはどんな運動になるでしょうか。運動がうつ病に効果がある理由は、

・脳のBDNFを増やす
・眠りを深くする
・食欲を改善する

ことだとお話しました。

という事は、このような効果を生む運動が、うつ病の改善に良い運動だと言う事が出来ます。

Ⅰ.本来の目的を見失わない事

あなたが運動をする主目的は、決して「筋力をつけること」「心肺機能を上げること」ではありません。「運動を通してうつ病の治療をする」というのが主目的で、体力・筋力増強はあくまでも副次的に得られるものに過ぎません。

ここを途中で見失わない事はとても大切です。

というのも、うつ病の患者さんは真面目な方、努力家の方、完璧主義の方が多いため、運動を続けるうちに「もっと記録を伸ばさないと!」と運動成績を上げることが目的になってしまうことがあるからです。

運動をしている目的は記録を伸ばすことではなく、うつ病を改善させることなのだという認識は忘れないようにしましょう。目的を間違えてしまうと、良好な結果が得られなくなってしまいます。

Ⅱ.翌日に疲れが残らない程度に

体力・筋力増強などが目的の場合、運動は「翌日に筋肉痛が出るくらいやった方が良い」と言われるようです。しかしこれはあくまでも「筋力増強が目的の場合」です。

しかし、うつ病の治療として運動を行うのであれば、体力・筋力増強目的の運動とは違う考え方をしなければいけません。

具体的には、弱め~中等度の負荷で運動を行うようにして、「翌日に疲れが残らない程度」に留めることが望ましいと考えられています。

なぜでしょうか。

うつ病の症状のひとつに疲労感・倦怠感があります。これはうつ病患者さんの大半が自覚される症状で、最後までなかなか消えにくい症状だと言われています。

運動した翌日、ただでさえうつ病で身体が重いのに、そこに筋肉痛が上乗せされてしまうと、これは非常にしんどくなります。この状況では、朝起きれなくなったり、日中の活動が低下してしまったりする可能性が高まります。これは生活リズムの乱れを引き起こし、うつ病を悪化させてしまうのです。

研究においても、低~中等度の強度の運動は脳BDNFを増加させることが確認されます。BDNFには抗うつ効果がある事が多くの研究で示されてますので、これはうつ病の改善に良い影響を与えることが推測されます。

しかし強度が高い運動を行うと脳BDNFが増加する一方で、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌も促進されてしまう事が分かっています。コルチゾールはうつ病の原因の一つとも考えられており、BDNFを抑制してしまうホルモンであるため、うつ病の改善という面から見れば好ましくありません。

そのため、BDNF分泌されるけど、コルチゾールは分泌されない程度の負荷の運動がうつ病の治療としては望ましいのです。

「強度の高い運動」というのはLT(乳酸閾値)を超えるほどの運動、と考えると良いでしょう。LTというのはスポーツをされる方であればご存じかもしれませんが、それ以上の強度になると乳酸が溜まり始める、と言う負荷の事です。乳酸蓄積は筋肉痛の原因になると言われていますので、翌日に疲れが残ったり、筋肉痛が残るほどの運動はLTを超えた強度の運動だと言う事ができます。

これはうつ病改善という面で上記の理由から好ましくありません。そのため、筋肉痛や疲労が翌日に持ち越さない程度の負荷に留めるようにしましょう。

Ⅲ.負荷は段階的に増やしていく

いきなり自分にとって負荷の高い運動を始めてしまうと、結局続きません。健康な方でも、「ジョギングしよう!」と一念発起するものの三日坊主で終わってしまう方は後を絶たないのです。意欲低下、自信喪失、無価値感という症状を認めるうつ病患者さんは、それ以上に継続するのが難しいと考えなければいけません。

無理して強い負荷の運動を「頑張る」よりも、たとえ弱い負荷でも「長く続ける事」の方が重要です。

運動は、一回やっただけでうつ病がぐんぐん改善していく、というものではありません。運動を持続することで徐々にうつ病が改善していくのです。

そのため「頑張って運動をする」という認識を持つのはやめて、「長く続けられるような運動」という視点で運動をするようにしましょう。

長く続けるためには、「今の自分にとって無理な負荷をかけない事」に尽きます。うつ病の身体が重い中、「今日から毎日10km走れ」と言われては、絶望的になってしまいます。これがうつ病に良い作用をもたらさないのは明らかでしょう。

それよりも「まずは1週間、1日20分の散歩から始めてみようか」で良いのです。無理なくはじめ、続けることを最重要視し、負荷は徐々に上げていってください。うつ病が改善してくれば自然と、翌日に疲れが残らない程度の負荷というものも上がっていきます。それを感じられた時、負荷を一段階上げるようにしてください。

その方が結果的に見れば、うつ病の改善にも大きく寄与してくれます。

Ⅳ.運動の頻度は週3回以上を目標に

運動の頻度としては、理想を言えば毎日が理想です。

筋力トレーニングではないので、超回復などを待って隔日にする必要はありません。それよりも毎日持続的に脳を刺激してBDNFの分泌を促した方がうつ病の治療としてみれば効果的です。また毎日やった方が毎日よく眠れますし、毎日食欲が安定します。

実際、英国のNICEというガイドラインを見ると、うつ病の運動は、

10~14週間以上、週5回以上が望ましい

とされています。

これは理想的な運動頻度ではありますが、しかし現実を見るとこれはなかな達成困難なのも事実です。現実では、仕事を続けながらうつ病治療を行っている方も少なくありません。そんな方々に毎日の運動を強要するのは酷でしょう。

厚生労働省が「平成24年度国民健康栄養調査」で報告したデータによれば、運動習慣のある者の割合は、男性36.1%、女性28.2%とかなり低い値になっています。つまりほとんどの人は普段運動習慣がないという事で、この生活習慣がある中、急に「明日から毎日運動しろ!」というのは無理があります。

実際は、週3日以上行えればある程度の効果は認められるとする報告が多いので、毎日運動が出来なくても週3日くらいを目安に始めるのが現実的だと考えています。臨床の実感としても週3回程度の運動でも、十分うつ病改善の効果は出ているように感じられます。

 Ⅴ.無酸素運動よりも有酸素運動を

運動の種類としては、有酸素運動が良いようです。

有酸素運動とは、ランニング、水泳、サイクリングなど、ある程度長い時間継続するタイプの運動です。反対が無酸素運動で、筋力トレーニングや短距離走などの運動になります。

うつ病の改善を報告する研究のほとんどは有酸素運動で行われています。中には無酸素運動が有酸素運動と同等のうつ病改善効果があると報告した研究もありますが、根拠の多さから考えると、有酸素運動の方が効果は得やすいでしょう。

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